第三話『アルティメット・オルガニズムの王、超究極大演説ッ!』

__ヒューマン・ウオ戦争終結直後__ 


 クフ王の陵墓、大ピラミッド前にて。

 黄金の太陽の昇る、快晴の空の下。

 黄色い砂の大地に、鮨詰めになって立ち尽くす、百万の人間の若い男女。

 偶然なのかどうか不明だが、不自然なほどに、誰も彼も、『性的』に魅力的な容貌の者ばかりだ。

 人間たちの間には、禿頭の、全裸の筋肉モリモリマッチョマンが、監視のために闊歩かっぽしている姿も見える。

 周囲には、グチャグチャな、岩の瓦礫の山。

 それはかつて、カフラー王、メンカウラー王のピラミッドだったものだ。

 三大ピラミッドのうちの二つは、究極生命体ウオらの手によって、無惨にも破壊されてしまった。

 しかし、一つの巨大な四角錐が、依然として、堂々と、雄々しく佇む。


 その頂に立つのは……


 相変わらず、全裸でつるっ禿げの、超絶筋肉モリモリマッチョマン、『ウオの王』だ。


 ウオの王は、人間たちに向かって、力強い大声で演説を開始した。

ちんは、ウオの王なり! 朕は、国家なり! 朕は、ここ地球に、ウオの、ウオによる、ウオのための国家、アルティメット管理国家の樹立を宣言するッ——卍

 

 響き渡る、ウオの王の声。


卍——そして! 馬車馬のように働き、アルティメット管理国家を支えるのは、他でもない、貴様ら人間だッ! だが、ただ働けと言ってもモチベーションがないと、困るよなぁッ!? そこでだ! 毎晩狂ったように性交渉に励んでいるであろう貴様ら若い人間たちに、ある制限を設けようと思うッ! それは……『性行為の制限』だッ!!——卍


 ざわつく、百万の、魅力的な若い男女たち。


卍——下等な生物ほどセックスで子孫を残すというが……貴様らがその最たる例であることは承知している。だ! か! ら! よく働き、よくウオに尽くした者だけを、セックスが唯一許される場所、性の楽園に招待しよう、その名も……『エデンの園』だッッ! ちなみにだが、我々は不老不死であり、最強であるため、子孫なぞ残さない。よって! セックスも不要! 何せ、究極生命体アルティメット・オルガニズムなんだからなぁッ! その一方で、貴様らは、セックスの虜となって、エデンの園を目指し、血眼になってせっせと働くのだッ! フハハハハハハッ!!卍

 

 ウオの王の、あまりに突飛な提案に、皆、困惑の表情。


 そこに、ウオの王に向かって大きく左右に手を振る一人の男性の姿。

「すいませーん!」

 精悍な顔立ちの男性が、そう声を上げる。


卍なんだッ!? いかにもセックス好きそうな男よ?卍

 ウオの王は、意外にも質問を快く受け止める。


「マスターベーションは、その制限される性行為に該当しますか?」

 鋭い質問。

 それは、多くの若者にとって、重要事項である。


卍いい質問だ! が、それも管理させてもらうッ!!卍

 無慈悲、である。


 ウオの王の難儀な返事に対し……

「えっ、きつくね?」

「それは無理っしょ!」

「隠れてやればいいんだって」

 と、文句を垂れる若者たちだったが……


 その背後に、一体のウオが忍び寄る。

 そして手刀を振り上げ……


\シュッ……コロコロ/ \シュッ……コロコロ/ \シュッ……コロコロ/

 ねられ、転げ落ちる三つの生首。


\\\ブシュゥウウウウ!!!///

 吹き出す血。


\\\バタバタバタ!!!///

 倒れる死体。


 戦慄する、人間たち。


「ひぃぃっ! 結局恐怖政治じゃないか!」

 と、思わず非難の声を上げる者がいると……


 おまけにもう一発。

\シュッ……コロコロ、ブシュゥウウバタン!/

 と、粛清された。


卍フフフッ……心得たならば、こう、叫ぶが良い……ウオのためにッ!卍

 ウオの王はそう言って、ヘンテコな『まんじ』型のポージングをとり始める。

 その手順は、こうだ。 


 まず正面を向く。

 腕の関節を直角に曲げ、力こぶをモリモリっと膨らませる。

 左腕は上向きで拳を突き上げ、右腕は下向きに拳を突き下ろす。

 下半身は、片膝立ち。

 左膝を立て、右膝を地に着ける。

 これで完成。

 その姿は、まるでボディビルダーが鍛え上げた肉体を見せつけるかのようである。


 気づけば、あちこちに散らばっている他のウオたちも、ウオの王と同じポーズをとっている。


卍人間どもよ! 一緒にやらんかッ! これは、我々究極生命体ウオへの忠誠の証でもあるのだッ!卍


 人間たちは、少し躊躇いつつも、渋々、卍ポーズをとり始める。


卍よし、準備は良いな? せーのッ!卍

 ウオの王の合図に呼応して……


 皆、卍型になって、こう叫んだ。


卍卍「「ウオのためにッ!!!!」」卍卍


〈第四話『アルティメット管理国家、始動ッ!』へ続く〉

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