第16話 包容力

―――――――ある晩、ベランダにて。


『ママ、いるんでしょ?』

『あら。わかったの?』

『分かりますとも。こんな美人いたら気づかないわけない。』

『嬉しい事言ってくれるね。』

『マザコンだから。』

『早く親離れしてよ。』

『やだしない。』

『どうして。』


『真里亜に負担かけたくない。』

『大人になりなさい?』

『…死んでいい?』

『真里亜に背負しょわせるの?』

『麗美が言うな。』

『そうね。』


『…麗美』

『ん?』

『しない?俺と。子供作らない?』

『真里亜とは?』

『そういう事しても作らない事にした。』

『どうして?』

『真里亜に負担が多すぎる。』

『あんたはこども欲しいの?』


『子供を持つことでしか世間が俺らを認めないならって思ってた。』

『そんな時代でもないでしょ。』


『……わかってる。けど仕方ないでしょ?』

僕が悲しい目で麗美を見るのでそう答えざるおえなかった。


『生き返れよ。ならいつでも始められる。』

『真里亜はどうすんの。』

かける返す。』

『用無しか。』

『そういう訳じゃない。』

『言っとくけどあたし、Mだからね?』

『え?そうなの?』

『あたしは普通。』

『いや、自称で『M』を名乗るところ、そんな普通じゃない。』

『でも残念ながら、あんたとは合わない。』

『そっか…。』

『だからあんたは真里亜でいいの。言ったでしょ?私は、真里亜以外は認めない。どこの馬の骨が分からない女に私の大事な子をあげるつもりない。真里亜なら仕方ないよ。あたし勝てないもん。』

『……攻めるわけじゃないけど』

『うん?』



『なんであの日遊びに行ったの?親父と。周りがしつこかったの?そんなに行きたかったの?ばあちゃんに預けたら怒られるから真里亜に行ったの?』


僕は質問攻めにした。


すると、麗美を後ろから真里亜が包み込んだ。



『麗美、あたしはあの日言ったよね?もし何かあったら、一生あんた恨まれるよって。行かない方がいいもって言ったよね?それでも言ったのはあんた達。いつかはこうなると思ってた。だからちゃんと答えてあげて。』


『……あの日ね、誘われたし、久しぶりに行きたいねって言ってたんだ。でもオカンに言ったら行けなくなるから真里亜に見ててってお願いした。……本当にごめん。』


『もう謝んなくていい。聞きたかったことはそれじゃない。』

『……?』

『麗美。侑海はずっと勘違いしてきたの。あんた達というより、あんたに嫌われてたって。夜泣きが酷くて床に落とされてたって聞いたりとかもしてた。私は見てないから知らない。でも、ずっとこの子は、『嫌われてた。だから捨てられた』って思ってた。そこは、違うなら違うで言ってあげないと、一生ひねくれたままなだよ。』


『…夜泣きが酷かったのは事実。でもあたし達も喧嘩とかしてたから余計かも。イライラしてた。でも、あんたが嫌いで置いていった訳じゃない。そこはわかって。』


『信じてあげれそう?』

『やだ。』

『あげられそう?』

『じゃあ、あとでしてくれる?』

『はぁ?』


『…信じる。2人見てたら大丈夫かなって思えたから。』

『侑海』

『ん?』

『あたしはあんたを愛してる。真里亜だって。』


真里亜は僕と麗美の2人を包みこんだ。


『懐かしいな…。真里亜、いっつもこうしてくれた。』

『あんたが泣き虫だっからね。『男に捨てられたー』って。』

『そうだったっけ?』

『いや、知ってる限りはこの子の父親だけだわ。』

『そうでしょ?でもあたし、よく虐められてたからね…。それでよく真里亜に助けられてた。』

『そうだね。私もその1人だった。』

『…そういえばあの『瞳美』って子。あの子の子供、この子と仲良いみたい。でも、真っ直ぐな子だよ。』

『元々夜の仕事はしてたよ。今は…あれ?何してんだろ。あんま気にしてないからな。でも、ヤバいことしてたら匂いでわかるから。』


『……あんたはまっすぐでいい。真里亜に悲しませるようなことしなければそれでいい。』

『うん。』


『ママ。』

『うん?』

『大好きだよ。』

『あたしも。』

『えー。あたしは?』

『まりやとママは同じ、どっちが上とかない。どっちも一番上。』


『だって』


と真里亜に麗美が笑う。


『上手いとこ行ったな』と真里亜。




僕と麗美にとって真里亜はなくてはならない人だった。

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