第12話 麗美(母)

ある日、僕は眠れずベランダに出ていると真里亜が来た。


「寝れない?」

「寝れない。」

「子守唄歌ってあげよっか?」

「『限界LOVERSアコースティックバージョン』とか?」

「なにそれ聞きたい。」

「やっぱり好き?」

「好きだったな。当時流行ってたからね。よく聞いてたよ。」

「フミヤは行ってない?」

「…『内緒ね』って麗美とよく2人でこっそり聞いてた。…懐かしいなぁ。」



「…真里亜」

「うん?」

「俺、ちゃんと母さんに愛されてた?」

「愛されてた。そこは疑わない。約束して。」

「…わかった。」

「誰からどんなこと聞いたとしてもあんただけは疑ったらダメ。いい?」

「…はい。」



祖父から聞いた話、母は泣き止まない生後数ヶ月の僕を何度も床に落としていたらしい。

18で妊娠。19で出産育児。二十歳の旦那がいるとはいえ、まだ若すぎる。


寝れない夜は苦しかったと思う。

でもそのまま2歳で両親共になくなった。だから何も知らない。


どうせなら幸せな夢物語りを聞かせて欲しかった。でも大人になってそれを聞かされた時には驚愕した。でもそれと同時に、僕を真里亜に預けたのも合点がてんが行った。


でもそれも思い違いだと真里亜は言いたかった。あの時、2年ぶりに遊びに行く両親を止めていればと何度も何度も悔やんだと聞いたことがある。そして今、2年分の暖かな夢物語を聞かせられるのは真里亜しか居ない。


父方の祖父は生きているが、親であり友人ではない。目線が違う。


だから…もう、母のことを正しく愛を持って教えてくれる人は真里亜しか居ない。



「侑海」

「うん?」

「あんたのママも、パパもちゃんとあんたを愛してたから。安心しなさい。」


嘘でもいい。本当でもいい。

ただ現在いまは、暖かな記憶を伝えてくれる人が欲しい。



「まりや」

「うん?なに?」

「…ママに会いたい。」

「いつか会えたらいいね。それまで頑張って生きないとね。いつか、麗美に褒めて貰えるようにね。」




――――――ずっとぽっかりと空いた穴がある。

多分もう一生埋まらない。



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