第10話 触れない過去
――――――通話中。
『風夏、こないだありがと。』
『こちらこそ。あたしも楽しかったよ。』
『ならよかった。』
『また行きたい』
『おいで。』
『うん。ありがと。』
『…なぁ風夏。』
『うん?』
僕は暗がりのリビングでスタンドライトだけ付けて写真を広げてた。
『今ね、ママの形見の写真広げてんだけどさ、やっぱ気になんのよ。この美女。…お前そっくり。…でもね、隠したい過去なら掘り返さない方がいいのかなとも思うよね。男取り合ったとか、誰かが誰か売ったとか。ありそうじゃん。こういうやんちゃな人達ってさ。』
『まぁね…。でもさ、私、侑海にも言ったことあると思うんだけど、今でもママからの約束じゃないけど、生きてく上で曲げちゃいけないもの?守ってるつもりなんだよね。』
『あれか?「弱いやつは守れ。やられてるなら飛び込んで守れ。」…これ?』
『そう。…多分なんだけど3人の中でそういうことがあったんじゃないかなって思うんだよね。憶測でしかないけどね。』
『にしても…うちのママ、真里亜、風夏ママ…だよな。』
『うちのママ覚えてんの?』
『なんとなくな。なんか、うちのママに似てた。すっげー可愛くて綺麗な人。真里亜はまた違う感じ。』
『真里亜さん、大人だよね。』
『多分一番つえーの真里亜だよ。』
『それ悪口?』
『ちょっと。』
『言っといてあげる。』
『やめて?ほんとにこわいやつ。それ。』
『…でもあんたさ、よかったね。』
『え?』
『真里亜さんのこと。やっとじゃん。』
『虎視眈々。』
『サイコパスだよ。』
『あったねーそんな映画。でも俺あそこまではむり。』
『だね。あそこまで頭無いわ。』
『ないわ…。』
『なに。なんか言いたそうだけど。』
僕の微妙な空気にすぐに気づいた。
『…お前、結婚とかしねーの?』
『えー。しろって?』
『別にそうじゃないけど。』
『じゃあ、あんたは?やっと夢叶ったんだからさっさと籍入れちゃえばいーじゃん。その方があたしも諦めつく。』
『あ?今なんか言った。』
『大丈夫。あんたそこまで頭回んないから。』
『俺と結婚したい?』
『遠慮する。』
『なんで』
『だってあんためんどくさい。色々付き合ってられない。一晩だけならいい。でも生活は無理。』
『一晩だけも無理かもよ?』
『…どんな事してんのいっつも』
風夏が笑い出す。
『SM。』
『あー。そういうこと。』
『俺、普通じゃないから。』
『真里亜さんは?うまくいってんの?』
『お陰様で。なんか、最初っから押し倒されたわ。』
『知ってたのかな?あんたの性癖。』
『話したことないよ。多分奇跡的に一致したんじゃないか?』
『いいな。そういうの。』
『でも、真里亜とそうなるまで何回も死ぬ思いしたから。…死んでも良かったし。』
『そうだね…本当に長かったよね。』
『…真里亜に会いたくなってきた。』
『行っておいで。…あ!写真!片付けなよ!ママの形見だからね!』
『わかった。片付けてから行く。』
『…おやすみ。』
『おやすみ。』
―――――――――――――――寝室。
ちゃんと風夏の言いつけを守って寝室へ戻った。
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