第6話 後悔しない選択

――――――夜中、ベランダ。


「寝れないの?」


隣に居ないのに気付いて真里亜が来た。


「寝てて。そのうち戻るから。」

「…あんたさ、私になんか隠してない?」

「別になんも?」

「ほんとに?」

「本当に。だから戻ってていいよ。」


そうあしらうと真里亜は僕をいつもの柔らかさと温かさで包み込んだ。


「言いたくないなら言わなくていいよ。でも抱えないで。辛い顔してるの見ると私も辛い。」

「じゃあ別に関わんなきゃいい。」

「そういう事言わない。」

「でもいい。解決できない。」

「私でも?」


「そう。だから息子の所帰れ。いつでも母親欲しがってる時に逃げ場になってやって。別に俺は最初からそんな場所も人も居ない。」

「なんでそう思うの?」

「…時間の無駄。この瞬間にもひろきは真里亜を求めてるかもしれない。近くに居てやれば?」

「……。」

「出てけ。明日のうちに。帰ってきた時にはもう消えてて。」


「……なんで。なんでそうなるの?」

「ほら。もうすぐにでも朝来ちゃうよ?寝た方がいいんじゃない?」




――――――――――――翌日夜。


家の近くに来ると電気が付いていて、

開いた窓から食器の音と美味しそうなご飯の匂いがした。


(腹減った…)

匂いにつられて腹までなる始末。


ドアノブを回すと……開いている。

『怒り』なんかなくて『安堵』が10割を占めていた。僕は天邪鬼だ。


本当は真里亜にどこにも行って欲しくない。

大人になってやっと『ひろき』から奪えた。『母親』である真里亜も、『女』である真里亜も。

でもこの幸せの裏でひろきの逃げ場がなくなってるって考えると罪悪感に押しつぶされそうになってた。


僕には元々母親も父親もいない。

ジジババになんて最初から頼る気もない。

高齢なのもあるし、親であっても親じゃない。育ててはくれたが『甘えていい』相手ではない。


だから…ずっと…女性を短期間で入れ替えてきた。物を与えてれば、抱いてれば、懐いてくれると思ってた。逃げていかないと思ってた。

でも基本僕の病的な嫉妬。束縛、独占についていけなくなり、捨てられる。ずっとこのループ。


誰も……『真里亜』にはなってくれない。




―――――――――『おかえり。』


僕は体が先に動いていた。

鞄を食卓の椅子において、真っ先にても洗わずに真里亜の元へ…。


目の前に立つと、真里亜が包み込んでくれた。

僕も同じく……。

僕が比較的小さいので背は変わらない。


むしろ、少し真里亜が高かったりする。



……「まりや、昨日はごめん。居てくれてありがとう。」

「あたし、帰るつもりなんてこれっぽっちもなかったよ。」

「…ごめんね。」

「いい。…でも教えて。何がそうさせてる?」


「夢。…小さい時から同じ夢で苦しんでた。周りは親が揃ってる。けど俺にはちゃんとした親がいない。ひろきにも真里亜がいる。…でもその真里亜をとりたい俺がいて…。でもそうすると、あいつが。ひろきが悲しい顔して泣くの…。俺、耐えられない。。だからずっと真里亜と一定の距離取ってた。手だって触らなかった。ちょっと遠くから真里亜を見て、甘えてるひろき見て指くわえてた。……くだらないよなごめん。」


僕が離れようとすると、真里亜は僕を強く抱き締めて離さなかった。


「私は覚悟を持ってここに来た。ひろきも今はもう大人。来たいなら来れる。呼びたいなら呼べばいい。呼ぶこともできる。…あんたは?私が知らないとでも思ってた?ずっと私を求めてた。けど我慢してた。知らないわけない。気付かないわけない。話したい事もいっぱいあったはず。聞いて欲しいことも。だけど私はそれを我慢させてた。」


「それは違う。まりやは悪くない」

「私も悪かったの。ちゃんと寄り添ってあげれば良かった。もうちょっと関わってあげればよかった。」

「もういいよ。…今俺、こうやってまりやを独り占め出来てるから。大人になってダサいけど、やっと埋められてる。でも罪悪感は付きまとってる。『ひろきから取ってる』ってその気持ちは消えないと思う。でもそれでも俺、、まりやといたい。」


「もういいんだって。あの子も大人。あんたも大人。私はしたいことをしてるだけ。あんたといることが私のしたいこと。後悔はしてない。」


真里亜は僕の頭を撫でたあと、優しく口付けた。


「侑海のこと愛してるよ。」

「俺も、真里亜のこと愛してる」

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