第2話 引き止め
母の日には贈り物を。
誕生日にはメッセージを。
彼女は僕の『母親』ではない。
でも、実母が亡くなった時に幼い僕は彼女に預けられていて、彼女といた。
彼女には二つ下の息子がいた。
その息子に父親はいない。
僕には母親も父親もいない。いるのは、育ての父方の祖父母のみ。
たまに母の実家に遊びに行って、
祖母に手立てしてもらって、彼女にあっていた。
厳しいけど、笑顔の素敵な人で、
柔らかい人で……離れたく無くなる人だった。
いつも僕の事を気にしてくれて…本当に、本当に優しい人だった。
出来ることなら僕はこの人のもう1人の子供になりたかった。
本当は……大好きだった。
でも、彼女には息子がいた。だから、僕はできるだけ距離を置いた。その子のために。その子が壊れてしまわないように…。
―――――――――――――――翌朝。
「おはよ。」
「おはよ…。」
「朝ごはん出来てるよ。」
彼女は小さくて柔らかい手で僕の頭を撫でる。
でも僕はその手を払う。
「……いい。」
「冷めちゃうよ?」
「『食べたい』なんて言ってない。」
いつも笑顔が咲き誇る彼女が悲しい顔をしていた。
「そっか…。なら捨てるから。」
「置いといて!食べるから!捨てるとか意味わかんね!!……あんた帰ったら食べるから。」
「温かい間に食べてよ。」
「……じゃあかえって。もう来なくていい。」
「一人で大丈夫?」
「あんたは俺の親じゃない。息子と仲良くやってろよ!どうせ俺はみたいなものだから。」
すると彼女は無言で寝室を出て、家を出た。
直後、メッセージがスマホに届いた。
『帰るね。ごめんね。迷惑なことばかりして。』
僕は…体が先に動いていた。
鍵もかけず家を飛び出して少し先を歩く彼女の目の前に立ち塞がった。
「なに?……」
僕は彼女を力一杯抱きしめると、彼女も下から僕に答えた。
「……帰んないで。」
僕はその人の唇に僕の唇を重ねた。
少しして離れると次はその人から…
「……」
「侑海、大丈夫。私は帰らないよ。ずっとあんたの気持ちわかってたから。…寂しかったよね。我慢させてごめんね。」
僕は親に対する気持ちと
彼女を女性としてみる気持ちとを混同させていた。
そう扱わないと離れて行ってしまう気もしていた。
『ニセの母親』よりも『恋焦がれる人』っていう名目?立ち位置?の方がより現実的だと感じたから。
「真里亜…」
「うん?」
彼女を抱きしめたまま僕は言った。
「なんか、ぐちゃぐちゃしてる。
でも俺、真里亜を離したくない。どこにも行って欲しくない。」
「わかってる。…でも私は正直、あなたが欲しい…。それでもいい?」
僕らはお互いが混同していた。
「いいけど、…いいの?」
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