断章 ◇劫火の言葉◇

 ◆劫火ごうか


 一体、どうしたことだ。


 情けない、不甲斐ない。畜生に過ぎない下等生物共に、この世界は掌握されつつあるというのか。


 おれが眠りについている間に、こんな……。


 ――何故、ここまでの醜態を晒している?


 説明しろ。


「シンよ、お怒りをお鎮めください」


 ――ああ、そうだな、分かった。言ってみろ。


「不幸な事故だったのです。多くの同族が人間に敗れ、哀れな最期を迎えました、シンよ」


 ……かつてこのおれが鍛え上げた、火の国の末裔が。


 あろうことか、人間に……。


「ある者は羽をもがれて鎖に繋がれ、ある者は見せしめに何本もの杭で貫かれ、またある者は不老不死の食材と銘打って、その身を売られていきました」


 ……その話は事実か、にわかには信じ難い。一体何をどうすれば我らの翼がもがれ、屈するというのか。


 ――同胞を全て集めろ。何人残っている?


「二百と四名ばかりになります、シンよ」


 なんだと。

 まさか、それほどまでに……。


 痛ましい。かつて栄華を誇ったラ=アニマの民が、あろうことか畜生どもにその身を貫かれ、貪られているだと!?


 これが人間どもに……が肩入れした結果だというのか。


 許せん。断じて許せん。


黄金おうごん”……金竜きんりゅうドール……!!


 このおれが、足元が溶け出すような感覚を再び味わうことになろうとは。


 そう、震えている。おれは震えている。


 ――地獄の業火に匹敵せんばかりの怒りに。



【1章】 了

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