最終話 永遠の愛

「ここは……どこだ!?」


 俺が目を覚ますとそこは真っ白な世界だった。あたり一面真っ白過ぎて頭がおかしくなりそうだ。


「目が覚めたか草井一人者ソロモンよ」


 ジジイみたいな声とともに俺の前に姿を現したのはまさに白髪のジジイだった。ていうか虚空からいきなり現れたんだが何もんだこいつ。


「誰だよジジイ」

「ふん、ご挨拶だなソロモンよ。ワシの名はボットンブーリ。貴様がさっきまでいた世界の神だ」

「ボットンブーリ? あのクソみたいな教えを広めてた神様かよ」


 実質俺と敵対していた神様ってことになるんだよな?

 そんな神様が俺に何の用だよ。


「ワシは人間の神様じゃからな。他の種族のことなんか知らんわ」

「で、その偉い神様に聞きたいんだがここはどこだ。俺は死んだのか?」


 まぁ、だいたい見当はついているが情報の整理は大事だ。


「ここはワシの世界でお前さんは死んだぞ。なかなか傑作じゃった。元恋人に殺されるとはのう。ま、自業自得じゃな」


 そういやなんでメルディナは俺を殺したんだよ。別に1番じゃなくたって良かったじゃねぇか。


「どういう意味だよ」

「あの女はとっくの昔に壊れておったんじゃよ。だから精神の安定を図るためにお前さんを恋人と思い込むことにしたわけじゃな。ほれ、お前さんも聞いたことがあるじゃろ、お前さんのいた世界ではストックホルム症候群という名前じゃったな。あれは病気ではなく精神状態を維持するための生存本能や生存戦略に近いものがあるんじゃよ。人間は自分に好意を抱いた相手を害しにくくなる。それを本能的に理解しておるからじゃな」


 ああ、だから同時に憎んでいると言ったわけか。俺に捨てられたと思って愛してると思い込むのを止めた?

 いや違うな。壊れているというのはつまりそういうことね。他に盗られるくらいならってやつか。


「そういうことかよ。で、こんな何も無い世界に俺を呼んでどうしようってんだ? まさか生き返らせてくれるなんてことないよな?」

「あるわけなかろう。ま、なかなか面白い見世物であったわい。ワシが戯れに作ったクラスを見事使いこなしておったのは感心したぞい。おかげで元ナトリウム王国のワシの教会が全部壊されてしまったのは腹立たしいがのう」

「そいつは悪かったな。微塵も後悔なんてしてないぞ。ま、俺がいなくてももうグランドマスターはいないからな。魔王が大陸の支配者になるのは時間の問題だろうよ」


 つまり俺はこいつには負けてないってことだよな。そう考えれば少しは俺の人生も報われるってもんだ。


「お前はアホか? 人間にクラスを与えているのはワシじゃぞ。グランドマスターを卑怯な手段で殺しおって。ここに貴様を呼んだ理由を教えてやろう。貴様に絶望を与えるためじゃ!」

「なんだとぉっ!?」


 ボットンブーリは急に怒りを露わにすると俺を指差し睨みつける。もしかして教会を破壊しまくったことを根に持ってやがるのか?


「いいことを教えてやろう。ワシは貴様の死後周辺諸国に一人ずつグランドマスターのクラスを与えてやったんじゃ。そして周辺諸国は連合を組み魔族の国エボンを攻めるのじゃ。これから見せるのはお前の死後から僅か1年後の世界よ」


 何も無い虚空に映像が映し出される。その映像の中では魔王ゲリベーナは首輪を付けられ這いつくばっている。


「げ、ゲリベーナ……!」

「哀れゲリベーナは人間どもに敗北し、隷属魔法で慰み者じゃ。ほれ、貴様の親友だったホルタヴィアヌスの未来も見せてやろう」


 ボットンブーリは別の箇所に新たな映像を映し出す。そこではホルヌスが人間と戦っていた。しかしその人間は怒涛の攻めでホルヌスの首を跳ねる。そして転がった首を踏みつけるとニタリと笑った。


「うわあああああっ!!!」


 その映像に俺は涙を流して絶叫する。そして次の映像ではヌクートが、オクシオーヌが次々と敗北し命を落としていった。ダメだ、とても正視できねぇぞこんなもん。


「悔しかろう? ワシの教会を破壊しまくってくれた報いじゃよ。神罰というやつじゃな。まったく、人間との融和政策を進めたなら滅ぼさないでいてやったのにのう。残念じゃったな♪」


 ボットンブーリはゲラゲラと笑いながら俺を煽る。クソッ、融和政策なんて進められるほど魔族の憎しみは浅くなかったんだよ。それもこれもてめーのせいだろうが!


 こいつ殺してぇ……!

 でも勝てるわけないよな、神様に。


「さて、最後にお前さんにワシから素敵なプレゼントじゃ。お前さんの後を追ったメルディナと2人で永遠にここで暮らすがいい」


 ボットンブーリは全ての映像を消す。そして虚空から一人の女性を生み出した。それは紛れもなくメルディナだった。しかもすっぽんぽんかよ。


「ソロモン様、またお会いしましたね」

「メルディナ……なのか?」


 やはり作り物でも紛い物でもなくメルディナだ。どういうつもりだ?


「ボットンブーリ様、感謝いたします。私の願いを聞き入れてくださったのですね」

「そうじゃ。メルディナよ、この世界の一部を切り取りお前さんにプレゼントしよう。そこで永遠にその男と愛し合い、そして殺しまくるが良い」

「ありがとうございますボットンブーリ様。そしてソロモン様、私はやはり貴方を殺したいほど愛しています。ここでなら何度死んでも大丈夫なんですって。だから沢山殺して沢山愛して差し上げますね?」


 はぁっ!?

 なんか凄いサイコパスになってるぞ。つか殺したいほど愛してるって矛盾してないか!?


「ちょ、ちょっと待て! なんで殺されにゃならんのだ!」

「ワシ言うたよな? この女はとっくに壊れておると。まぁ、ちぃとばかし壊れ具合をイジったのはサービスじゃな。特別に貴様にも寄生虫ダキムをプレゼントしようではないか」


 てめーのせいかこのクソジジイ!

 しかも寄生虫ダキムをプレゼントとか勘弁してくれよ。あー、でも痛い思いするよりはマシなのか?

 どっちにしても嫌じゃあっ!


「まぁ、ソロモン様良かったですね。これで殺されるのも快楽に変わりますよ。ウフフフフ」


 メルディナの目は完全に逝っちゃってますわ。うんこれダメなヤツだね。そして俺はケツの穴から何かが侵入してくる感触を確かに感じた。

 ヤバい。俺オワタ。


「じゃあたっぷりと睦み合うがよかろうて。それじゃあの」


 ボットンブーリの姿が掻き消えると、空間が切り離され、僅か3メートル四方程度の空間に取り残される。


 いやー、メルディナと二人っきりだわーい、なんて喜んでる場合じゃねぇ!

 メルディナは手にナイフを握っている。その刃を愛おしそうに舐め、楽しそうに笑った。


 そして、俺の腹にナイフが突き立てられた。それは激しい快楽となりオレの股間を直撃する。


 ほとばしる鮮血。

 快楽に打ち震える身体。

 吹き出した白いマグマが俺のズボンを汚した。


「うふふふふっ、早いんですねソロモン様。そんなに気持ち良かったですか? じゃあもーっと気持ち良くして差し上げますね。愛してますわソロモン様……」


 こうして俺は永遠の愛を手に入れたのだった。




      FIN



 御清覧ありがとうございました!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【下品、胸糞注意】異世界召喚されたけどもらったスキルがクソだった件 まにゅまにゅ @manyumanyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ