第41話 メルディナの愛

「今日もソロモン様は魔王様の下へ行ってしまわれたのですね……」


 私は広いベッドに腰掛けため息をついた。この部屋はソロモン様のお部屋。そして同時に私の飼育小屋でもある。


 私の名はメルディナ=ベートリッヒ。ソロモン様の愛の奴隷だ。それと同時に恋人でもある。そのはずなのにもう一週間も相手をしてもらっていない。


 私は彼のベッドにダイブし、匂いを嗅いだ。そこにあの人の匂いはない。それもそのはずでもう一週間もこの部屋で寝ていないのだから当然だ。


 私は捨てられたのだろうか?

 そういえばホルヌス様の性欲処理をしていたケツマーンも飽きたという理由で殺処分されている。魔族が人間を愛することなどないのだろう。だがソロモン様は人間だ。人間のはずだ。


 だから魔王様もさすがにソロモン様を伴侶に選ぶことはないだろう。大丈夫、まだ私は捨てられていない。


「駄目ね、考えてしまうと悪い考えばっかり浮かんじゃう」


 そしてその悪い考えを払拭したいがために安心するための材料を作り、大丈夫だと自分を信じ込ませるのだ。


 それほどまでに私はソロモン様に捨てられるのが怖い。そうなれば私は肉体的にも精神的にも生きていけないだろう。


 でもいつからそうなったんだっけ?

 確か最初はあいつに色々人としての尊厳を奪われて憎んでたはずなのに。


 なんでだっけ?

 ドウシテナノカナ?



    *   *   *



 俺は今日もゲリベーナの肉体を貪っていた。寄生虫ダキムを使ったプレイはゲリベーナも気に入ったらしく、すっかりハマってしまったようだ。


 たっぷり愛し合った後は俺の腕枕でゲリベーナが添い寝だ。いやぁ、最高すぎるわこれ。


「ふぅ、しかし凄いのうこれは。こんなのを味わったらもうこれ無しでは生きていけんわい」

「フフッ、だったら俺のモノになれよゲリベーナ。俺もすっかりお前の身体の虜になっちまったわ」


 俺達は仲良く睦み合い、お互いの耳元で誘うように囁きあった。もうこれは相思相愛だよな?


「ふふっ、前向きに考えてやろう。もう一つくらい手柄を立てたら誰も文句は言わんじゃろうからな」

「なるほど、周辺諸国をどうにかすれば俺の女になってくれるわけか。望むところだ。近日中に先手を打つとするか」

「もう策謀ができておるのか?」

「まぁな。周辺諸国の情報はちゃーんと集めてるからな。それに既にこの街の商人に命令して他国に寄生虫入りの食材を売りつけてある。裏切らないように寄生虫を植え付けてあるから作戦の遂行も確認済みさ」


 作戦はかなり前から立案して実行しているからな。もうかなりの街に大量の寄生虫どもが眠っているはずだ。戦争準備に入っている国もあるようだし先手を打つのは当たり前だな。


「ほほう、それは期待させてもらおうではないか。妾がこの大陸の支配者となる日は近いかもしれんのう」

「ああ、ゲリベーナ。俺がお前をこの大陸の支配者にしてやるよ。その代わりお前の身体を支配するのは俺だ」


 魔王がこの大陸の支配者になれば、俺が支配者も同然だ。なにせ魔王ゲリベーナは俺の女になるんだからな。


「好き者め。ま、妾も言えた義理ではないのう。じゃがそうよな、お前の一生分くらいの年月なら悪くはないな」

「ホントか? じゃあ約束のチューをしてくれ!」


 やっぱり約束といえばチューだよな?

 もちろん舌を絡ませるぞ。たっぷり吸い付くぞ!


「お前さん時々要求が子供っぽいのう。ま、そのくらいはかまわぬが」


 ゲリベーナはクスクスと笑いつつも俺を受け入れ、再び唇を重ねる。もうこれだけでチャージ完了だな。さぁ第5ラウンドと行くかぁっ!



     *   *   *



 そして翌朝、俺はゲリベーナの部屋で目を覚ます。シャワーを浴びて服を着た後は仕事か。今日も会議があるからな。おっと、そういや資料は部屋に届けてもらったんだったな。取りに行かないと。


 俺は支度をしてゲリベーナの部屋を出ると自分の部屋へ向かった。そういやここしばらく部屋に帰ってなかったな。メルディナともご無沙汰だっけ。とはいえもう全弾打ち尽くしたし、後1時間もしない内に会議が始まっちまう。


 ま、メルディナとはまた今度だな。今はとにかく魔王と仲を深めたいし。それにどっちを選ぶとか言われたらゲリベーナを選ぶだろうな。ま、ゲリベーナと結婚してもメルディナは俺のペットとして可愛がってやるか。あれだけの女、捨てるには惜しいからな。


 などと考えながら俺は自室の扉を開けた。うーん、久しぶりに入った気がするわ。俺のベッドにはメルディナが座っている。俺に気づいたのか微笑むが、どこか悲しげだな。寂しい思いをさせちまったかな?


「ソロモン様、おはようございます」

「ああ、おはようメルディナ。資料を俺の部屋に届けるよう手配していたんだが知らないか?」

「資料ですか? ええありますよ。これのことですね」


 メルディナは既に封筒を手にしていたようだ。持っていた封筒を俺に渡すと優しく俺に微笑む。それにしても片手で渡すなんて珍しいな。いつもなら丁寧に両手で渡してくれるのに。


「おお、助かるわ。サンキューな」

「いえ、ところでソロモン様。昨夜もゲリベーナ様のお部屋ですか?」


 ま、いっか。とりあえず資料の中身を確認しないとな。


「まぁな。周辺諸国をぶっ潰す約束をしたよ。そしたら晴れてゲリベーナは俺の嫁になるんだ」


 俺は封筒の中身を確認しながら昨夜ゲリベーナと交わした約束の話をする。


「ゲリベーナ様の……? やっぱりそうなんですね。もう貴方は私だけのものじゃないんですね」

「まぁ俺ほどの男になるとそうだな。だが安心しろ、俺の妾として可愛がってやるか……ら……ぐふぅっ!?」


 不意に腹に激痛が走った。

 俺の腹には深々とナイフが刺さっている。そして刺したのメルディナだ。なんで、なんでなんだよ……!


「ソロモン様、愛しています。そして同時にお恨み申し上げます。1番でいられたから許せたのに残念だわ。でも貴方の居ない世界なんて考えられない。だから私と一緒に死んで?」

「ぐばぁっ!」


 メルディナは更にナイフを俺の腹にねじ込む。俺は血を吐き、メルディナを見つめた。


 笑っていた。

 涙を流して。

 恍惚の表情で。


「すぐに後を追いますわ。これでソロモンは永遠に私のもの」


 そしてメルディナは俺と唇を重ねる。これが人生最後の抱擁と接吻かよ。なぜだ、なぜなんだ!?

 なんでこうなっちまったんだよ……。


 俺はメルディナに強く抱かれたまま意識を失った。

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