第36話 再会

「ところでよ、ソロモンに会いに行くのはいいがあいつ城にいるんだろ?」

「そうでしょうね。普通に考えて会えるとは思えないんだけど。もしかして力で押し通るつもり?」


 4人は王城に向かって歩を進めているのだが、そもそも会えるのかと狩井海斗は疑問に思ったようである。


 それは朝凪志津香も同様であった。力で押し通ることは可能だろう。ただし確実に戦いになる。その場合の最悪はソロモンと戦う羽目になることだ。


「駄目だよ駄目だよ、もしソロモン君と戦う羽目になったら困らない?」

「そうだね。もしソロモン君を殺すことになればいよいよ魔族と人間は全面戦争になるかもしれない。それは僕も望んでいないよ。確かに僕らは強くなったけど戦いたいわけじゃない」

「そうね。勝つ自信はあっても犠牲者は必ず出るもの。今は魔族に剣を向けるべきじゃないと思うわ」


 4人としては今のこの状況だけを見れば悪い方向には向かっていないように思えていた。人種差別は撤廃され、敗北した人間達でさえ不利益な扱いを受けていないのだ。わざわざそれを壊す意味を感じなかったのである。


「まぁ、とりあえず行ってみようよ。もしかしたらすんなり会えるかもしれないし」

「ま、確かに行かないとわかんねぇけどよ」

「無理だったらまた別の方法を考えましょ。悠だったらこっそり忍び込むことだってできるでしょ?」

「多分ね。でも魔王もいるし四天王も何人かいるみたいだからね。ノーリスクってわけじゃないかな」


 藤真悠としては最悪忍び込めばいいかと考えていたりした。一人なら最悪逃げるぐらいのことは難しくないのと想っているのだ。


 そんな感じで4人は駄弁りながら王城へと向かう。そして到着すると城の門番をしている兵士に話しかけた。


「あの、すいません。この城にソロモン君が居ると聞いたのですが」

「ソロモン様を君呼ばわりか。貴様何者だ?」


 藤真悠は城の門番に声をかける。門番をしているのは鬼人族と呼ばれる大柄で武を誇りに持つ気高き民だ。その門番は魔王に忠誠を誓っており、その側近たるソロモンにも忠誠を誓っている。


 そんな彼らだけに藤真悠の一言にあからさまな不快感を示した。


「僕は藤真悠といいます。彼と同じ異世界からやって来た者です」

「藤真悠……だと? ということは後ろのは狩井海斗、大木美奈代、朝凪志津香で間違いないな?」


 その門番は藤真悠とその後ろにいる人達の名前を言い当てる。魔族に名前を知られており、狩井海斗は目をパチクリさせた。


「そうだけどよく知ってるな。もしかして俺等って有名なのか?」

「俺は少なくとも良く知らん。だがソロモン様よりこの4人が訪ねて来たら必ず報せるよう仰せつかっている」

「そりゃまた話が早いな。なぜだ?」


 ソロモンがそのような言伝を門番にしていたことが意外だった。立場的に考えればソロモンが自分達を恨んでいてもおかしくはない。少なくとも狩井海斗はそう思っていたからだ。


「一介の兵士が話していいことではないとだけ言っておこう。今ソロモン様に確認を取ってくる。少し待ってろ」


 その門番はもう一人の門番に声をかけると城の中へ消えていった。


「悠、どう思う。ソロモンの奴は俺達が来ることを予想していたようだぞ」

「そのようだね。正直意外だよ。恨んでいてもおかしくいからね」


 あの王子にいらないと言われ追放されたわけだが、その王子ももういない。ではその王子に追随し、一切養護せず彼を嘲笑った自分達はどうなのか。普通に考えて良い感情はないだろう。


「そうねぇ、確か王子の話だとグランドマスターの脅威は魔族の間でも有名な話だったわよね。ソロモンとしては戦うより仲間に引き入れようと考えたのかもしれないわね」


 朝凪志津香は無意識に希望的観測も混じえて推察する。ソロモンが理性的な人間であれぱ見込める話ではあった。


「それはあるかもね。魔族にとって僕らは目の上のたんこぶなはずだ。でもこの世界の人間と魔族の確執は魔族よりも人間に非があるように思う。実際この世界の人間は他の種族を神の名の下に迫害してきたわけだからね」


 しがらみのある藤真悠達と違い、ソロモンにはしがらみがない。つまり己の感情に従って生きていけるのだ。それなら魔族の味方をすることはあるのかもしれないと藤真悠は考える。


「確かにな。それを知ったときはこいつらの味方をしていいか本気で悩んだぞ」

「ソロモン君はその力で魔族の味方をして差別をなくそうとしてる。これは僕らにとっても共感できる話だ」


 そして現実にナトリウム王国の王族を処刑し魔族を勝利に導いた。それなのに人間が迫害されていないのはソロモンのおかげだ。これは間違いないようである。


「そうだねそうだね。私達だったら今なら味方に付けられると考えててもおかしくないかも」

「そうかぁ? あいつがそんな善性のおる奴には見えんぞ。絶対何か企んてるんじゃないか?」


 ただ一人狩井海斗だけが懐疑的でソロモンを信じられないようだ。


「あはははは。第一印象は最悪だったから仕方ないのかな~」

「ま、なんにせよ話をしてみないと何もわからないからね。わざわざ門番に言伝まで頼んでいるんだから話くらいはできるでしょ」


 4人がソロモンのことを話しているうにちに門番が戻って来る。そしてその門番の後ろにはソロモンがいた。上質な貴族用の服を着ており、髪も整っていて別人のようである。そしてどことなく風格を感じさせるオーラがあった。


「ソロモン君!」

「ようお前ら。久しぶりだな」

「なんだおい、お前本当にソロモン?  なんか見違えたな……」

「ご挨拶だな。まぁいいさ、お前らとは話をする必要があると思っている。飯でも食いながら話せないか?」

「わかった。以前のお詫びも兼ねて僕らが奢るよ。そのくらいはさせてほしい」

「ん? まぁ気にしてないがせっかくだしゴチになるわ」


 そして彼ら5人は久し振りに顔を合わせると、話し合うために食堂へ向かうのだった。

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