魔戦参謀ソロモンの策謀
第34話 グランドマスター藤真悠
「終わりだよ、必殺剣神威八連斬!」
藤真悠の剣閃が煌めく。その剣閃は剣筋に沿って光を残し、魔神アンラ・マンユの肉体を16等分に斬り分けた。
「やったわ!」
「よし、これでダンジョンの最下層のボスも撃はだぜ!」
「さっすがー!」
藤真悠と共に戦ってきた仲間が歓声をあげる。3人とも結構ボロボロであったのはこの最下層のボス、アンラ・マンユがそれだけ強敵だったということだ。
「ば、バカな、この俺様がに、人間ごときにぃぃぃっっ!」
アンラ・マンユはその身を割かれ、恨み言を残して消えていく。藤真悠の放った技は彼の強力な魔力をふんだんに帯びており、その悪魔の身を朽ちさせる。それはまるで光の粒子に飲み込まれるようであった。
「君のおかげでまた一つ強くなれた。消えゆく君にも最大限の感謝と敬意を」
藤真悠は消えゆくアンラ・マンユに向かい剣を眼前に構えた。この世界の騎士流の敬礼である。彼はその悪魔が完全に消えるまでその姿勢を崩さなかった。
「やったな悠。さすがだぜ!」
狩井海斗は藤真悠に駆け寄るとその首に右腕を回す。そしてわしゃわしゃと乱暴に頭を撫でた。
「あはははは、みんなの力あってこそだよ」
藤真悠も慣れたものなのか、楽しそうに笑いつつ言葉を返す。この二人はこの世界で知り合った仲だが、今やお互い親友と呼べる程仲良くなっていた。
「でもあんたがいなきゃ勝てなかったのは事実よ。誇っていいわ」
「うんうん、でもみんな頑張った! 私達だって誇っていいと思う」
朝凪志津香が藤真悠の健闘称えると、大木美奈代は相変わらずのみんな仲よくの精神を発揮する。大木美奈代はその調和を大事にする性格で常にチームのムードメーカーとして機能していた。
朝凪志津香もその体格を生かし、タンクと回復、支援を両方こなすというチームの支柱である。
そして狩井海斗はその攻撃力とタフネスを生かしたアタッカーとして活躍していた。そして藤真悠はその全てを上手くまとめ上げるチームの中心である。
4人はこのダンジョンに挑んだことで絆を深め、確かな実力を身に付けたのだった。
「さ、奥へ行こう。このダンジョンの秘宝とやらを拝みにね」
「よし、行くか!」
「うんうん、行こう行こう」
「どんな秘宝か楽しみね」
そして4人はダンジョンの最奥へと向かった。その最奥に至る扉を開け中へと入る。その部屋の中央にはやたらと大きな黒い球体がブオンブオンと伸び縮みするような音を立てていた。そしてその下には宝箱が置かれている。
「あれはダンジョンコアとかいうやつだよな多分」
「そうだね、あれに触れると地上に戻れるんだっけ」
「それよりお宝ね。開けるわよ?」
返事も待たずに朝凪志津香が宝箱を開ける。その中には大量の金貨と宝石、そして一振りの剣が入っていた。
「剣か……。なんか凄い力を感じる。きっと凄い剣に違いないよ」
「それは悠のだな。剣を使うのお前だけだし。俺等は財宝があれば十分だ。これだけあれば一生遊んで暮らせるんじゃないか?」
「そうだねそうだねぇ、魔王を倒したら悠々自適な暮らしを楽しもう!」
「そうね。諸国漫遊なんてのもいいんじゃないかしら」
4人は金銀財宝を目の当たりにして戦いの後に思いを馳せる。できることなら戦いなど止めてそうしたい程だろう。
「じゃあ丸ごと収納するよ。それインベントリ」
藤真悠が宝箱を丸ごと収納魔法でしまい込む。そしてダンジョンコアに触れ地上へと戻った。破壊するとダンジョンは消えてなくなるため、壊さないよう厳命されているのである。
「うーん、青空が眩しいね」
「ほんと、久しぶりだよな」
「そうだねそうだねぇ、結構日にち経ってるはずだけど、今日はいつなのかなぁ?」
「うーん、空気が美味しい! ダンジョンの中ってなんか埃っぽいしジメジメしてたからね。とりあえず風呂に入りたいわ」
地上に戻った4人は久しぶりの青空に背伸びをする。そしてゆっくりと王都スカトール目指して歩くのだった。
* * *
スカトールの街の南門。そこで彼らはすぐに異変に気付いた。
「門番がリザードマンだと? おいおいどうなってんだ」
「おかしいわね、確か人間以外の種族の総称が魔族だったわよね?」
「おかしいねおかしいね。もしかして仲直りしたのかな?」
「それだったらまだいいんだけどね」
ただ門番をしているリザードマンは人間の通行も普通に許可している。だが人間の方はかなりビクビクしている様子が見て取れた。
「おい、あんたら知らねぇのか?」
「なにをだよ」
4人が不思議そうに話していると冒険者風の男性が話しかけてきた。
「すまないね、つい最近までダンジョンに挑んでいたもんだから」
「ああ、そういうことか。だったらしょうがねぇな。いいか、よく聞け。ナトリウム王国は滅亡した。国王は拷問の果てに処刑され、王子二人は化け物の餌。王女様達は民衆の前で
「な、なんだってぇ!?」
「そ、それ本当なの?」
冒険者の話を聞き、4人は驚愕した。とても信じられない、という顔である。
「こんなこと冗談で言えるかよ。不敬罪で首が飛ぶぞ。しかしこれから俺達どうなるんだろうな。今のところ人間の処遇については魔族側の方で議論中なんだとよ」
「即刻奴隷とかじゃないんだ。意外ね」
朝凪志津香としては議論の余地があることが不思議であった。ナトリウム王国を滅亡させたのは復讐のはずである。王族を処刑して精算とはならないだろう。
「ああ、なんでも意見が分かれてるらしくてな。人間に虐げられてきた恨みから奴隷として支配すべきだ、という意見と共存の未来を模索すべきだ、という意見で分かれているらしい」
「共存か。それだったら僕も剣を振るう必要がなくなるからいいんだけどね」
正直、藤真悠としても魔王を討つのに躊躇いがあった。あの王子からは耳触りのいい話しか聞いていなかったが、当然真実は調べ上げている。そして調べれば調べるほど恨まれて当たり前だろ、としか思えなかったのだ。
「ますます意外だわ。魔族って相当人間を恨んでるそうじゃない。なんで共存しようなんて思うのかしら」
「ああ、なんでもナトリウム王国滅亡の立役者が人間らしいからな。共存はそいつの発案らしい」
立役者が人間。その話を聞いて藤真悠はソロモンのことを思い出す。
「もしかしてソロモン君のことかな?」
「あいつがか? ないない。あいつにそんな力があるわけないだろ」
狩井海斗は即座に立役者ソロモン説を否定する。あんな使えなくて追放された奴がナトリウム王国の滅亡に関わっているなど考えられなかったのだ。
「うーん、でもねでもね。共存なんてこの世界の人達は考えないと思うな。共存なんてむしろ私達の世界の考え方だと思うよ」
「そうね。人間様が一番偉いなんて宗教に毒されたこの世界の人にそんな考えが浮かぶとは思えないわね」
少しげんなりした様子で朝凪志津香が語る。正直この世界の宗教が彼女は大嫌いだった。こんな宗教を信仰し、その教えに従って魔族を虐殺、迫害するのは反吐が出そうなほどである。
「ああ、確かそんな名前だったな。魔戦参謀ソロモンって名乗ってたぞ。魔王ゲリベーナと一緒にこの城にいる」
「マジかよ」
意外な答えに狩井海斗がガクリとうなだれる。そして乾いた笑いを浮かべた。
「よし、城へ行ってみよう。もしかしたら彼と話ができるかもしれない」
「そうだねそうだね、行ってみよう。それで今後のことを決めようよ」
「賛成ね」
「しゃーねーな」
そして4人はソロモンに話を聞くため城へ向かうことを決意するのだった。
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