第32話 捕らえられた国王

 魔王軍がスカトールの街を攻め込むと街はたちまちパニックになった。慌てて門の前の人達を通し、門を閉じる。もはや検問や徴税などしている暇もない。


 そして非情にも中に入れず門の外に置いていかれた者たちは必死に門を叩いて開けてくれと懇願した。しかしそんな懇願は聞き入れられるわけもない。


「非戦闘員でも邪魔な者は殺してかまわん。オクシオーヌ門を破壊しろ!」

「はっ!」


 ホルヌスの命令でオクシオーヌとその配下たる妖魔族が呪文を唱え始める。この世界の魔法は殆どが詠唱を必要としないが、詠唱のあるものは例外なく強力な魔法である。


 そして妖魔族がその力を結集させ、一つの魔法が完成した。仲間の妖魔族の魔力がオクシオーヌへと集められる。


「滅びろ、ダークマッシャー!」


 オクシオーヌは自分の数倍の太さの黒い閃光を放った。極太の闇はスカトールの門や城壁を呑み込み、そして貫く。そして城壁に巨大な風穴を開けた。


「よし、全軍突撃せよ!」


 そして街の中へ入るべくホルヌスを戦闘に魔族達が突撃する。先程の一撃で門の内側にいた兵士たちは蒸発しており、迎撃しようにも数が足りなかった。


 それでも兵士たちはその命を賭して立ち塞がる。中には強力なクラスについている者もいただろう。しかし士気の高いホルヌス達の敵ではなかった。


「我が名は魔王ゲリベーナ四天王の一人、魔戦将軍ホルタヴィアヌスなり! 命の要らぬ者は我に剣を向けるがいい」


 ホルヌスは嬉々として巨大なバスタードソードを振るい兵士をなぎ倒していく。その剛腕の前には盾も鎧も無意味。受け止めた盾ごと相手を吹き飛ばし、鎧をひしゃげさせる。そして地面を叩きつければ土砂が吹き上げ、周りの兵士たちをまとめて吹き飛ばした。


 そんなホルヌスに恐れをなした兵士たちは彼から逃げる。しかし後続の兵士たちは彼らを見逃さずその首を身体をぶった斬り、或いは消し飛ばした。


 国の騎士団も城がクソまみれになったことで機能しておらず、未だ迎撃に来る様子はない。ホルヌス達は一直線に城を目指し、途中の家や見かけた民間人は無視していた。


「城が見えてきたぞ!」

「み、見事なまでにクソまみれね……」


 ナトリウム王国の城は荘厳さを失いクソまみれであった。悪臭は城外にまで及んでおり、さすがのホルヌスたちも近づくことはできなかった。


「任せろ」


 そして多くの護衛に守られたソロモンがホルヌスの前に現れる。


「ゆくぞ、ウンコ消滅!」


 ソロモンがウンコ消滅魔法を使うとたちまち匂いはたち消える。そしてソロモンを先頭にウンコ消滅を使いまくり進んでいく。ただあまりにもクソまみれなため浄化した辺りから軽く便臭が漂ってはいるが。まだ臭いは薄いがジャスミンの香りよりは少し強い。


 そしていよいよ城の中に入ると、マンイーターやゾンビワームに寄生された犠牲者達が蠢いていた。これらは全てソロモンの支配下にあるため、魔族を襲うことはない。


「よし、この辺りで使うか。見た感じだいたい終わってるな」


 蠢く寄生虫ゾンビには騎士っぽい人間が大勢見受けられた。さすがにこのクソまみれとなった城の中では騎士団でさえ十分に力を発揮できなかったのである。実に多くの騎士団員が犠牲となったことだろう。


「じゃあ今からウンコ全部消すわ。ここからならいけるだろ」

「で、できるんならさっさとしてほしかったんだけど……」


 オクシオーヌとしては便臭は堪え難いものがあった。もっとも、便臭が大好きという奴もそういないだろうが。


「すまんすまん。一応城の様子を見て判断したかったんだ。まぁ、寄生虫と特別に作ったゴーレムは生き残るけどな。普通のウンコゴーレムは消えるんだよ」

「と、とにかく頼むわね」

「任せろ。いくぞ、超ウンコ大浄化!」


 超ウンコ大浄化。それはウンコ消滅の上位魔法であり、その範囲は実に半径20キロにも及ぶ。もちろんその消費は激しく、膨大な魔力を持つソロモンの魔力でさえも残り二割となった。


 そしてソロモンを中心に茶色い光が広がっていく。その光は全てのウンコを消滅させ、臭いすらも消してしまう。滅菌効果により衛生面もばっちりだ。


「す、凄いな……」

「ふぅ、魔力を使いすぎた。回復ポーション飲まないとな」


 ソロモンは懐から魔力回復ポーションを取り出し飲み干した。それでも魔力は半分もない。


「よし、国王を捕らえよう。奴は謁見の間にいる」

「よし、案内を頼む。護衛は俺とオクシオーヌとメルディナで行う」

「はっ!」

「お任せください」


 そしてソロモンの案内で謁見の間へと向かう。後続の魔族達もその後に続く。ウンコというバリアーが消えた今、騎士団の介入も考えられるのだ。


 謁見の間まではマンイーターや寄生虫ゾンビはいたが生きている人間に出会うことはなかった。


 ホルヌスを先頭に謁見の間へと押し入る。中ではマンイーターや寄生虫ゾンビが蠢いていた。そして国王は青い顔をしたまま玉座に座っている。


「おお、我が主! 主の命令通り国王には例の寄生虫を植え付けてあります。さぁ煮るなり焼くなり切り刻むなりしてやってください」


 そして出迎えたのは喋る人型ウンコ。うんこの戦士ウニー=トンサーである。


「おい、ソロモンこいつは……」

「こいつは俺のウンコ英雄創造により創り上げた戦士だ。ウニー、ご苦労だったな。また何かあったら頼む。ウンコ英雄送還!」

「はっ! では我が主。また会う日を楽しみにしてますぞ」


 ウニー=トンサーは腰に片手を当て、スチャッとポーズを決めたまま虚空へと消えていった。


「よし、ホルヌス。国王を捕らえよう。それとこいつには死ねなくなる寄生虫を植え付けてやった。頭を潰さない限り死ねないからな。たっぷりと恨みを晴らしてやれ」

「ほほう。それはそれはセクシーな話だな」


 ソロモンの話を聞き、ホルヌスにニヤリと口を歪ませた。


「や、やめろ。余は魔王を倒した勇者ではないのだぞ!?」


 その笑みに国王は恐怖する。果たして自分はどんな目に遭うというのか。最早それは想像すらしたくないことだろう。


「あら? 確かその勇者が興した国がナトリウム王国じゃなかったかしら? つまりあなたは勇者の子孫。ゲリベーナ様の復讐はあなたを処刑しないと終わらないのよねぇ」


 オクシオーヌが冷たい視線を向ける。その視線に国王は寒気すら覚え身震いが止まらなかった。


 先々代の魔王の仇。そしてゲリベーナ自身の復讐心と虐げられた過去。それこそが魔族が人間達と敵対する理由なのであった。

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