第19話 ブルーレット最強の騎士

「アニヒレーション!」


 騎士団員の1人が浄滅魔法を用い巨大な寄生虫を消滅させた。


「すまん、助かったケツマーン」

「気にするな。それよりこの魔物はどこから湧いて出てきたんだ?」


 ケツマーンと呼ばれた騎士は宿舎をうろつく異形の怪物を恨めしそうに睨む。


「なんでも騎士が何人か突然腹痛を訴えだしたんだが、そいつらを食い破って出てきたらしい。間違いなく魔族の仕業だろうな」

「なるほど、恐らくこの疫病も魔族の仕業ってことか。どんな方法を使ったのかさっぱりだったが、恐らく毒ではなく何らかの病原体の仕業なんだろうな」


 ケツマーンは騎士の離しを聞き、その答えに辿り着く。しかしだからといって対処できるわけではないが。


「浄滅魔法じゃ消えないのか?」

「無理だな。そもそもこの魔法は人間以外の生物を滅ぼすものだが、人の体内に入り込んだ生物は滅ぼせないそうだ」


 浄滅魔法。それは人間以外であれば獣人だろうが猫だろうが滅ぼしてしまう高位の神聖魔法である。使い手は限られており、ケツマーンがこの魔法を使えるのもひとえに最高峰のクラスであるセイントウォリアーの恩恵であった。


 ブルーレット最強の騎士たるケツマーン=コーデッス。彼こそがオクシオーヌが警戒していた騎士であり、端正な顔立ちと才能に恵まれた若きエースであった。


「とにかく残りは後3体。卵を植え付けられて増やされたら大変だ。急ぐぞ」

「ああ。さすがにうちの騎士団でも浄滅魔法を使えるのは僕を含めて3人しかいないからね。対処が遅れると数に押されかねない」


 そしてケツマーンは残りの寄生虫マンイーターを倒しに騎士団の宿舎を奔走することになる。





    *   *   *



 作戦は順調だ。外壁で応戦する兵士は少なく、飛んでくる矢も少ない。俺達はホルヌスの指揮の下吊るされた奴隷魔族の解放と拘束を行っていた。


 外壁に吊るされた奴隷魔族は100人にもおよび、中にはどう見てもエルフな女性や獣人なども含まれている。そして吊るされていたのは例外なく女子供という徹底ぶりはドン引きもんだった。


「すまんな、すぐに隷属魔法を解いてやることはできんのだ」


 なんでも隷属魔法を解くのは人間のみが行える儀式魔法を使うしかないらしい。その魔法を使えるのは高位の騎士か特定のクラスを持つ者だけだそうだ。幸いにしてメルディナがその儀式魔法を使えるらしく、解いてくれることを約束してくれていた。


「よし、助けた奴隷は拘束したまま後方へ運べ。今メルディナが儀式魔法の準備をしてくれているからな」

「ほんと、メルディナが仲間になってくれて助かったな」


 俺はホルヌスの側に立っていた。直接的な戦闘力という点では俺はそんなに強いわけじゃないからな。それでも代替えの効かない人材ということでそれなりの地位を与えられている。


「全くだ。今までは街を占拠し、儀式魔法を使える者を脅して使わせるくらいしか方法がなかったからな。メルディナを仲間にできたのはソロモン、お前のおかげだ」

「それだったらメルディナを捕えたオクシオーヌ様の功績にもなるな」


 俺の直属の上司はオクシオーヌなので様付けで呼ぶ。あのナイスバディをご褒美に堪能したいものだが今の俺にはメルディナがいるからな。あいつを裏切る真似はしたくない。


「ホルヌス様、奴隷の回収が終わりました」

「よし、総攻撃だ。我等の怒りを人間どもに思い知らせてやれ!」

「おおおおおおお!!」


 ホルヌスの総攻撃の命令に魔族達は雄叫びをあげてブルーレットの街への攻撃を開始した。魔族は脳筋が多いのか攻城兵器というものはハシゴくらいしか持っていないらしい。まぁ、空を飛べる鳥人もいるから不要なのかもしれんが。


「騎士団宿舎にいたマンイーターは全滅したようだ。外壁近くのマンイーターはまだ残っているが、全滅は時間の問題だろう」


 俺は自分の召喚した寄生虫の反応を確認した。あれはかなり強い部類の寄生虫なのだが騎士団にはあれを楽に倒せる奴がいるようだ。恐らく例の凄く強い騎士だろう。ケツマーン=コーデッスとかいうふざけた名前だが実力は確かということか。まぁホルヌスの本名もあれだが、ローマ帝国にはオクタヴィアヌス帝てのもいたし別に変じゃないのか?


「そうか。だが時間は充分稼げた。ここからは力の勝負よ!」


 鳥人部隊は一斉に飛び上がり、外壁を守る兵士達に襲いかかる。大盾で矢を防ぎながら突進し、衛兵を吹っ飛ばす。シールドバッシュとかいうやつか。そして力自慢の獣人や巨人族がハシゴを運び、外壁に立て掛ける。そこを次々と兵士達がよじ登っていった。


 巨人族の平均的な身長は約4メートルほどだ。ハシゴを登るには重すぎるため門の破壊に移る。後続の同胞から巨大な棍棒を受け取ると力任せに門をぶっ叩き始めた。まるで銅鑼の音が鳴るようなけたたましい音を立てて門が凹んでいく。


 やがて門は破壊され、街の中への道が開いた。既に門の近くには魔族と人間、寄生虫マンイーターが入り乱れての戦闘になっているようだ。


「あの寄生虫は味方だ。人間のみを狙うんだ! 隷属させられた同胞はできる限り殺すなよ」


 やはり隷属魔法は厄介だ。殺しちゃいけない敵ってことだもんな。隷属魔法を解除できる寄生虫とかないんかね?


 実際隷属魔法をかけられた同胞には手を焼いており、優勢でありながらも未だ押し切れていない現状があった。こうなったら仕方がない。とにかく隷属魔法をかけられた奴隷魔族を無力化させるのが先決だろう。


「ホルヌス、俺も前に出る。隷属させられた魔族達を無力化させてみる」

「できるのか?」

「まぁ若干の苦痛というか地獄は伴うが死ぬわけじゃないからな。多分その場で寝転んで動けなくなる。なんなら敵の兵士にも寄生させればいい」

「よし、俺が護衛してやる。好きにやってみろ」


 そう名乗り出たのはリーウのおっさんだった。これは頼もしい限りだね。

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