第18話 寄生虫マンイーター

「ホルヌス様大変です。奴ら、やはりとんでもない手段を使ってきました!」

「予想はついているがちゃんと報告をしろ」


 街の様子を見に行った猫の獣人が大慌てでそう報告した。とんでもない手段っていうと話に聞いていたあれか。


「そ、その……。街の外壁に同胞達が吊り下げられています」

「おのれ人間どもめ……、またも隷属させた同胞達を肉の壁に使うか!」


 うわー、俺でもひくわ。リーウのおっさんなんかキレそうなくらい青筋立てて怒ってるし。


「おいおい、話には聞いていたけどホントにやるんだな。当然助けるんだろ?」

「無論助ける。だが注意しろ、助けた同胞はすぐに拘束せねばならん。恐らく人間どもは助けられた後は我々を殺すように命令しているはずだ」


 二段構えまでテッパンなんかい。ほんと容赦ねぇなこの世界の人間は。


「ああ、わかっているさ。そのための対策も提案しただろ?」

「ああ、腹は決まったか?」

「ああ、これで俺もマジで容赦なくやれるわ。赤痢アメーバ以外にも仕込んでおいて正解だったぜ。任せておけ、あの街に仕込んでおいた寄生虫を孵化させればたちまち街はパニックに陥るさ。その隙に助けるんだ」


 寄生されていた人間は助からないから出来れば使いたくなかったんだがな。まぁ人間以外は食うなと命令させれば魔族の人は助かるだろ。


「ああ、頼んだぞ」

「任せろ。目覚めろ、人食い寄生虫マンイーターども! ただし、人間以外は食うのを禁止する」


 ホルヌスが俺の目を見て頼む。やってやるさ、この最悪の寄生虫でな。これで街は地獄と化すだろう。



     *   *   *



「パパー、お腹が、お腹が痛いよー!」

「ど、どうしたんだ? まさか最近流行りの疫病か?」


 とある一軒屋では子供が突然腹痛を訴えていた。顔面は蒼白で床に倒れ込み、転げながら必死で訴えていた。


「!!」


 そして吐血。さらに腹部の衣服が生きているかのようにボコボコと蠢く。心配のあまり父親が子供に近づいた。


 すると突然子供のお腹を突き破り、一本の蛇のような触手が姿を見せる。その触手は大きく口を開けた。それこそバスケットボールでさえ飲み込めそうなほどの大きさである。


「ひぶっ!?」


 その口が父親の頭にかぶりつくと、辺りに鮮血が飛び散った。触手が父親の頭を食い千切ると、肉体は無造作に後ろに倒れる。その父親の遺体にまた別の触手が食らいつき始め、家の中には不気味な咀嚼音だけが響いていた。


 子供も既に息絶えており、その身を異形の生物に食われていた。その異形はものの数分で親子の肉体を喰らい尽くすと次の獲物を求めて家の外に出ていった。





 街の中は非常事態宣言が出ており人影はなかった。その異形たちは餌を求め多くの兵士達がいるであろう門の方へと向かっていく。1体の大きさはゆうに5メートルもあり、その身からピンク色の触手を大量に生やしていた。それは一言で表すならば大量の触手を生やしたナメクジのようである。その触手一つ一つに頭があり、人間えさを求めて匂いを嗅ぎ分けていた。


 やがてマンイーター達が多くの兵士達が集まる門に近づくと、たちまち戦闘が始まった。


「な、なんだあの化け物は!?」

「クソッ、なんで街の中にモンスターが出てくるんだよ!」

「奴隷ども、あの化け物を殺せ!」


 現場の指揮官が戦闘用の奴隷魔族に命令

 すると、奴隷達は否応なしにマンイーター達に向かっていった。しかしマンイーター達は奴隷魔族を一切無視し、ただひたすらに人間エサを求める。


「!?」


 突然マンイーター達がその身を半分にまで縮ませ、その次の瞬間には大きく空に跳び上がった。


 そして奴隷魔族の集団を飛び越え、一足飛びで人間エサの集まる地点へと到達した。


「う、うわぁぁぁぁっ!!」


 大量の人間エサに歓喜したマンイーター達には一斉に人間どもの頭にかぶりつく。そして頭を吐き出すと、剥き出しになった首の切断口から触手が入り込む。マンイーターは人間を食べるが金属は食べられない。そのため鎧を着込んだ相手には食い千切った所から侵入し、体内を食い荒らすのである。


「ひ、ひぃぃぃぃっっ!!」


 さらに生け捕りにされ、宙吊りにされた兵士がいた。彼に向けられたのは触手の牙ではなく太い針だった。その針が兵士の口の中を深く刺す。


「あがぁぁぁぁっっ!!」


 兵士が激痛に喘ぐが、マンイーターは色々な所を刺し卵を植えつける。しばらくその兵士は宙吊りにされていたが、5分ほどで再び苦しみ始めた。卵が孵化して体内を食い荒らし始めたのである。


「ひ、ひぎぃぃぃぃっっ、ぶはぁっ!」


 そして血反吐を吐き出すと、口から新たなマンイーターが姿を見せた。その光景を見た兵士達は恐怖におののき遂には逃げ出す者も現れた。


「ば、化け物だ! た、助けてくれ!」

「クソーっ、魔族か、魔族どもの仕業だな! 卑怯者めぇぇぇっ!」


 現場はこのマンイーターの出現によりパニックに陥っていた。そしてそのタイミングに合わせるかのように魔族達が進撃を開始した。


「た、大変です! 魔族どもが現れました。騎士団はまだですか!?」


 領主軍と騎士団は別組織である。この街の騎士団は教会に属しており、領主に指揮権はなかった。無論街を守る際は協力するし、魔族相手は主に騎士団の領分である。しかし騎士団長が病に倒れたため編成が間に合わず、しかも騎士団の方にもこのマンイーターが出現していたのであった。

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