第17話 ホルヌス出陣
「街の様子はどうだった?」
今俺達はブルーレットの街を攻め落とすべく平原にて陣を張っていた。大将であるホルヌスは大きな天幕の中で豪華な椅子に座り込んでいる。そして腕を組んで草からの報告を受けていた。
「はっ。街は疫病によりパニック状態でした。治癒院でも治療が追いつかず、さらに騎士団員や兵士達もその多くが病に倒れているそうです。ベッドも応急手当の薬も足りず、病気も特定されていないため有効な手立てもないでしょう。さらに領主やその家臣も病に倒れ、あの街の指揮系統は機能していません」
草からの報告を受け、ホルヌスはニヤリと笑う。
「ククク、この戦負ける要素無しだな。全軍出陣準備をさせろ。ブルーレットの街を占領し、ナトリウム王国を壊滅に追い込む足がかりとする。この一戦もはや負けはないだろうが油断はするな」
「ハハーッ!」
報告を受けホルヌスが出撃の準備を命じると周りの配下達は跪いて一礼し、各所に走っていった。いよいよ進軍か。
「ソロモンよ、お前の策ここまでは上手くいっているな。例の騎士はなかなかのハンサムらしいから生け捕りにする。わかるな?」
ホルヌスが舌なめずりをして俺に問う。奴の股間は既にギンギンだった。こいつ男色趣味なんだよな。俺はイケメンじゃなかったから助かったぜ。
「お任せください。ホルヌス様の良い慰みものとしてみせましょう」
まぁ寄生虫ダキムを寄生させれば肉便器にできるだろう。俺に男色趣味はないがイケメンが泣き叫ぶ様は見たいぞ。
「うーむ、しかしこのような勝ち方でよろしいのですかホルヌス様。我等は誇り高き魔族です。力で蹂躙してこそ魔王様の威光を示せるというものでしょう」
このライオンの顔をした奴はリーウ。生粋の武人らしく俺の立てた作戦に最後まで反対した奴だ。
「リーウ様、私のいた世界ではこんな言葉があります。勝てば官軍、負ければ賊軍。歴史は勝者が作る。戦いにおいて卑怯は褒め言葉。私のいた世界では既に証明されている言葉でもあります」
多くを語る気はねぇけどさ、実際その通りなんだから仕方がない。それは歴史が証明してるし事例も1つや2つじゃねーだろ。
「その通りだリーウよ。実際、300年前に我々魔族が敗北したとき、人間どもは真正面から戦ってきたか? 同胞を肉の盾にし、人質破壊工作は当たり前。挙げ句は殺し尽くされ、焼き尽くされ、奪い尽くされたのは我等だぞ」
「なかなか壮絶な過去だな。そういや奴隷商が扱ってる商品て魔族もいたよな」
ブルーレットの街でも見かけたな。どうせ俺等が侵略したら解放させるから買わなかったけどよ。メルディナの話によるとそれがこの世界の普通らしいしな。神に選ばれた人間様は他の種族よりも偉いらしいぞ。めっちゃ選民思想じゃねーかそれ。まぁ、クラスなんていうものがあるのは人間だけらしいから、そう思う材料は揃ってるのかもしれんな。
「その通りよ。魔族といえど奴隷契約させられてしまってはもう抗う術なんてないのよ」
オクシオーヌが忌々しそうに吐き捨てるとチッ、と舌打ちする。もしかしたら過去に知り合いや親しい相手が奴隷にされたのかもしれんな。
「まさに恥辱の極みですな」
リーウが強く歯を食いしばり視線を落とす。握りしめたこぶしはカタカタと震えており、怒りに満ちているのがありありとわかる。
なんでも奴隷契約は人間のみが扱える契約魔法らしい。ひでぇことに魔族側には一切の拒否権はなく、術式が完成してしまえば四天王クラスの魔族でさえも隷属させられてしまうらしい。
「そう思うなら俺の力を使えよ。言ったはずだぜ、ナトリウム王国が召喚した奴の中にはグランドマスターがいたと。それを聞いてお前らめちゃくちゃ焦ってたじゃねーか」
グランドマスター藤真悠。見た感じチビのくせに頭良さそうだし顔立ちも整ってやがった。女の先輩とかに可愛がられてんだろうな、ああいうタイプは。なんかムカつくぞ。
「そうだ。そのグランドマスターが力をつける前にナトリウム王国を滅ぼさねばならん。300年前にそのグランドマスター1人に先代の魔王様は討たれたのだからな」
そうなのか。グランドマスターやべぇなおい。だが相手が同じ人間なら殺す方法はあるはずだ。奴が力をつける前に何とかできれば俺の魔王軍での地位は確固たるものになるはず。力は無くても頭脳労働で昇りつめてやんぜ。
「ホルヌス様、全軍準備が整いました。出陣のご命令を!」
「よし、できたか。いくぞソロモン、リーウ、オクシオーヌよ。人間どもを蹂躙し、我等魔族の怒りを刻みつけてやるのだ!」
「うむ」
「もちろんよ」
「地獄を見せてやんよ」
俺達は意気込んで立ち上がるホルヌスに続き天幕を出た。天幕の前には大勢の魔族たちが立ち並び、出陣の命令を今か今かと待ち望んでいるようだった。
「待たせたなお前ら。今度こそ、今度こそ我等は300年前の借りを返す。この一戦はその第一歩である。我等虐げられし者たちの怒りを、憎しみを全てぶつけるのだ。ナトリウム王国をこの手で滅亡させたとき、我等魔族の誇りは甦ると知るがいい!」
「うおおおおおおーーーっ!!」
ホルヌスの発破に兵士達が歓声を上げ剣や槍を高く掲げた。こいつらにとっちゃ待ちに待った戦いなのかもしれんな。
なら俺は俺のために戦うぜ。ブルーレットの兵士達よ、俺が生き抜くために死んでくれ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます