第9話 魔界ぎょう虫の恐怖
講習の終わった後はまだ時間もあることだし採取依頼をしてみることにした。採取する対象は常時依頼の薬草だ。このギルド内にはちゃんと資料室があり、そこに薬草の種類や特徴、注意点や群生地が書かれている本もあるのだ。本に使われている紙は大した質でもないがちゃんと紙だったぞ。
そんなわけで俺は今この王都ナトリウムを出て少し離れた所にある森に来ていた。この森の中には薬草が自生しており、駆け出し冒険者の貴重な収入源となっているとか。
森も浅いところならそうそう魔物に出くわすこともないが、たまにゴブリンやオークが出てくるらしい。運が悪いとオーガとか出てくるそうだ。だがそれより厄介なのは狼なんだと。必ず集団で行動しており、獲物を組織的な動きで狩るため逃げるのも難しいのが問題なんだそうだ。
なもんだから当然俺は森の浅いところで薬草を探して歩いていた。深い所には絶対いかないぞ。迷うからな。
ガサッ。
草むらの方で何かがうごめいた。俺はそちらに目を向ける。姿を見せたのは背はガキくらいだが顔が緑色、鼻が妙に高くそして醜い顔だち。そしてまっはなるほど、あれがゴブリンだな。某ゲームに出てくるイメージまんまじゃないか。
「ゲゲゲゲゲッ!」
ゴブリンは素手か。俺は剣を抜き構える。ゴブリンはその辺の石ころを拾うといきなり俺に投げつけてきた。
キン!
辛うじて剣で弾く。さらにゴブリンの第二投。剣で受け損ね、左腕に命中。
「いてっ、こんの野郎ぉっ!」
さらにゴブリンが石を投げつけてくる。こいつ意外と厄介だな。石を避けるとゴブリンが一気に距離を詰めてきた。そして右手を振り上げる。こいつ、手に土持ってやがる。目潰しに使うつもりか。
俺は後ろに飛び退き、投げつけてきた土を避ける。
「ゲゲゲッ!?」
失敗したことに気づき、ゴブリンは着地と同時にまた土を拾い上げる。ちっ、このままじゃやばいな。クソ魔法使ってみるか。
「くらえ、ウンコアロー!」
左手をゴブリン目がけてかざし、魔法を発動させる。そして虚空に現れたウンコ。そのウンコがゴブリンめがけて飛んでいった。
「ゲゲッ?」
結構な速度で飛び、ゴブリンの頭に命中したが所詮はウンコ。人間なら発狂するかもしれんが、ゴブリンには精神的なダメージすらなかった。全く平然としてやがる。
「ならば強制便意!」
これならどうよ?
便意に隙ができるのを期待し、俺は剣を振りかぶって距離を詰めた。
「ゲゲゲーッ!」
しかしゴブリンは便意などどこ吹く風でうんこを撒き散らしながら後ろに飛び退く。そして俺の着地した先にはゴブリンのうんこが!
……。
思いっ切り踏んでもうたがな。おのれゴブリン許すまじ!
ならば使ってやろうじゃないか。クソ魔法の恐ろしさ、その身で味わってみるがいい!
「寄生虫召喚、魔界ぎょう虫!」
俺の目の前に魔法陣が現れ、光とともに現れたのは小さな虫たちだ。これが魔界ぎょう虫か。一匹あたり体長が10センチくらいあるんだが。しかもそれが数十匹。ちょっと見た目がキショいな……。
「あのゴブリンに寄生しろ!」
俺の命令でぎょう虫どもがウネウネ蠢く。なんてキショい絵面なんだ。しかも遅い。これ役に立つのか?
なんかそのへんの石ころ投げたほうが強い気がしたわ。俺も右手で石ころを拾う。ゴブリンは寄生虫など気にせず俺に飛びかかってきた。石ころを拾う動作が隙に見えたのかもしれんな。
「ギャギャギャ!」
「うぜえっ!」
ゴブリンが土を投げるより早く俺が石を投げつけ、それはごぶりんの顔面にヒットした。慌てて後ろに下がった位置には魔界ぎょう虫の群れ。
うぞぞぞぞぞ……。
魔界ぎょう虫どもはゴブリンの脚を伝って這い上がっていく。ゴブリンのケツの穴を目指しているのだろう。
「グギャゲギャギャ!?」
ゴブリンは突然飛び上がり、しきりに尻を掻き始めた。寄生されて尻が痒くなったな。今がチャーーーンス!
「うおおおっ、死ねや!」
俺はここぞとばかりに間合いを詰め、剣を振りかぶる。そして思いっ切り剣を振り下ろした。しかしゴブリンはすんでのところで俺の剣をかわし、横に転がる。
「グギャゲーーーッ!!」
しかしゴブリンは転げ回った後うつ伏せで身体を止めると、ケツを高く掲げて痙攣し始めた。どうやら魔界ぎょう虫が暴れ始めたようだ。なんせ呼び出したのは成体の魔界ぎょう虫。こいつは身体のサイズが大きい分食う量も多い。そしてこいつは厄介なことに宿主の身体を食い荒らすのだ。
ちなみにこいつら、宿主が死んで寄生先が無くなると地上界ではものの10分で死滅してしまうほど脆弱だ。魔界とやらにはこんな危険な寄生虫がいると思うとそら恐ろしいものがあるな。
様子を見ているとゴブリンはやがて吐血し始め、苦しみにのたうちまわり始めた。その様子を5分ほど眺めていただろうか。やがてゴブリンは全く動かなくなった。そしてケツの穴から血が流れ出る。ちょっと怖いぞ魔界ぎょう虫。
そしてゴブリンの胸のあたりに剣を突き刺して穴を開けると黒光りする石があった。これだな、魔石とかいうやつは。魔石は魔物であればだいたいの奴は持っているもので多くは心臓の位置にあるそうだ。そして、その魔石を取り出そうと手を伸ばすと、その周りを魔界ぎょう虫が蠢いていた。
「うわっ、気持ち悪い!」
いかん、めちゃくちゃ気持ち悪いぞ。だがこいつらは俺の命令に従うはず。
「ま、魔石から離れろ!」
俺が命令すると魔界ぎょう虫たちは一斉に魔石から離れた。これで魔石が取り出せる。俺はゴブリンの胸から魔石を取り出すとポーチの中へとしまった。魔石のサイズは小さく、一辺が2センチくらいの正八面体といったところか。
しかしこの寄生虫召喚、実はとんでもなく恐ろしい魔法なのではないだろうか。この魔界ぎょう虫でさえクソ魔法レベル3の魔法なのだ。俺の魔法レベルは5。そこに位置する魔界寄生虫ダキムってのがいるが、こいつもかなりヤバイ寄生虫なんだよな……。
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