クソ野郎らしく
第8話 初回講習
「よーし、初回組は全員ここに集まれ」
指導役の人が訓練場内に響き渡る声で招集をかけた。その呼びかけに応えるように俺達はその指導役の人の所に集まる。
そう、今日は冒険者ギルドが行っている戦闘訓練の日なのだ。この日のためにの俺はカッターシャツをやめ、冒険者らしく革鎧を着込み、剣もぶら下げている。俗に言うショートソードだが長さは90センチくらいありそうだ。重さは1キロよりはある感じだがなんとか片手でも扱えそうかな。
「よし、今集まったな。俺は剣などの武器のの指導役のモラースだ。こっちは魔法の指導役を担当するベンズな。じゃあ戦士系は俺の前に、魔法使い系はベンズの前に移動しろ」
モラースの指示に従い俺達は魔法使い組と戦士組に分かれた。俺はもちろん戦士組だ。クソ魔法は特殊過ぎるから独学でやろうと思っている。というより教えられる奴なんか多分いないだろ。
「よし、じゃあまずは素振りだ。まずは自分の剣を真っ直ぐ振り下ろせるようになるんだ。俺が見本を見せるからやってみろ」
モラースは剣を上段に構え、真っ直ぐ振り下ろした。空気を切り裂く音がとても力強く感じられる。よし、俺もやってみるか。
俺は早速みんなと距離を取り、上段に構えてみた。そして剣道のイメージで真っ直ぐ振り下ろす。剣道の素振りのやり方なので最後は剣が真っ直ぐ前に延びる。俺は剣道をやってないからよくわからないが、確かそんな振り方だったと思う。
他の人を見ると、中には最後に地面に剣先が当たっている人もいた。大抵の人はそんな勢いで剣を振っている。そういや見本の人もそんな振り方してたな。
「おい、そこのお前。剣はしっかり振り抜くんだ。そんな途中で止めるような振り方していたら威力が足りなくなるぞ」
「え、そうなんですか」
剣道の素振りじゃダメなんか?
確かに魔物を倒すなら一撃必殺の威力を優先したほうがいい気もするな。でも外したら隙だらけな気もする。
「そうだ。その位置で剣を止めたらゴブリンには当たらんぞ。奴らは小さいからな。オークなら当たるが、やつの骨は太い。それでは骨を断てないだろうな」
なるほど、一発の威力が求められるのか。となると身体全体を使って叩き斬る感じになりそうだ。
「こうですか?」
今度は身体全体を使い、真っ直ぐ振り下ろす。イメージ的には薪割りかな。やったことないけど。
「そうそう。いい感じだ。やればできるじゃないか」
「ありがとうございます」
ふむ、一つ勉強になったな。俺は躰に覚え込ませるためにひたすらに剣を振った。しかしこれ結構疲れるぞ。実際100回振り終わる頃にはヘトヘトになってしまった。
「よし、素振りはそこまでだ。少し休憩を挟み実際にゴブリンの死体を斬るぞ」
うおお、いきなりゴブリンの死体を斬ることになるとは。もしかしてこのためにわざわざゴブリンの死体を集めてきたのか?
まぁ、とにかく疲れたので座って休むことにしよう。他の奴らも疲れたのか地面に座り込んでいるしな。
そして5分ほどの休憩の後はゴブリンの死体が杭に縛られた状態で立てかける作業が始まった。これも俺らがやらないといけない。魔物の死体に慣れるためだなんて謂われたが結構大変な作業だからだろう。
しかし作業中に吐くやつもいたし気分が悪くなるやつもいたりで作業は難航した。俺はってーと魔物の死体とか初めての見たが別に何も感じなかったな。
結局人数分の死体を杭に縛り付け終わるのに1時間くらいかかったわ。だがこれからはいよいよ試し斬りだ。正直ちょっと楽しみだったりする。
「よし、各自ゴブリンの死体を斬りつけるわけだが、一撃で殺すつもりでやれ。狙いは頭、鎖骨辺りがいいだろう。先ずは相手を斬ることに慣れろ」
斬ることに慣れるか。確かに一理あるな。ゴブリンは魔物とはいえ、仮にも人型だからどうしても忌避感が生まれるのかもしれんな。俺にはそんなもんねぇけど。
「よし、いっちょやったるか!」
俺は剣を上段に構え、勢いよく振り抜いた。剣はゴブリンの頭に命中し、頭蓋骨を粉砕する。しかし真っ二つとはいかず、顔の半分くらいのところで剣が止まった。
そして斬りつけた頭から血が溢れ出す。噴水みたいに飛びだすのかと思ったが、もう死んでるからそんな勢いはないらしい。うーん斬り殺した感が薄いな。
他の奴らを見てみるとビビってまだ剣を振り下ろせていない奴とか吐いている奴もいるようだ。もちろん俺のようにゴブリンの頭を叩き潰して喜んでいる奴もいるがな。
「お前らこんな死体の試し斬りで吐いていたら魔物を斬れんぞ! 慣れろ、慣れるしかないんだ。吐かなくなるまで試し斬り付きの初回講習を受けた方がいいぞ」
指導役のモラースが吐いている奴らを叱咤する。確かにこんなもんで吐くやつはゴブリンを斬るのにすら躊躇って死ぬだけだな。
「よし、この後は普段行うべき鍛錬を教えてやる。死なないためにもしっかりと自分を鍛えるように。冒険者ってのはロマンもあるが常に死と隣合わせでもあるからな」
この後俺達は普段の剣の稽古の仕方を習い初回講習が終わった。なかなか有意義な時間だったし、俺は早速次の講習の予約を入れておくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます