第7話 クソ魔法は人間相手には強いらしい

「ちょっと教育的指導が必要なようだな兄ちゃんよぉ!」


 おっさんが拳を振り上げた。モーションはかなり大きい。力任せにぶん殴るだけなんだろうけど、殴られたら痛いよな。


「強制便意!」


 俺はこのクソ魔法に賭けた。強烈な便意は実に抗い難いものがあるはず。


「うっ!?」


 おっさんは突然少し仰け反りケツを押さえた。膝がガクガク震えている。これはもしやウンコを我慢しているのでは?


「おっさん、文句があるなら聞いてやるから言えよ」


 俺はおっさんの右手首を掴み、逃げられないようにしてやった。その高慢ちきな鼻わ折ってやるぜ。


「ま、待て……、ちょっとトイレに……!」

「おいおい、おっさんから絡んで来たのに逃げんなよ。ちゃんと謝ったら許してやる」


 ここで強制便意を重ねがけしたらどうなるんだろうな。きっと二度とここに来られなくなるくらい恥ずかしい思いをさせられるかもしれん。やばっ、なんかめっちゃ楽しくなってきたぞ。


「わ、悪かった……! だから頼む、トイレに行かせてくれ!」


 おっさんは涙目で謝罪するが誠意が感じられねぇな。仕方なく謝ってる感凄いぞ。今後のためにもクソ魔法の効果を試しておきたいし、尊い犠牲とやらになってもらおう。人の不幸は蜜の味って言うしな。


「謝るときはごめんなさいだろ。これはお仕置きだな。強制便意」


 おっさんの耳元で囁やき、クソ魔法を発動させる。そして俺はニヤリとほくそ笑んだ。その瞬間、おっさんの尊厳は踏みにじられることとなった。


 ぶりっ、ぶりぶりぶりぶり……。


 閉めていたおケツは決壊し、大量のクソが音を立てておっさんのズボンを温めた。うん、めっちゃ臭いわ。


「あ、あ……っ!」


 おっさんは膨らんだズボンを押さえながら涙目で震え声を漏らす。さらに。


 ピチョン。


 便のみならず尿失禁。ズボンの前はびしゃびしゃで尿が滴り落ち、後ろはこんもりホカホカと臭気を放って膨らんでいた。


「ギャハハハ! なんだおっさん、いい歳こいてお漏らしかぁ?」


折れはおっさんを指差してバカ笑いしてやった。周りもおっさんを白い目で見たり笑ったりしている。いいザマだな。


「あーーーっ、困るよお客さん。いい歳こいてこんなとこで失禁すんな!」


 カウンターにいたおっちゃんが騒ぎに気づきやって来た。そしておっさんを叱責する。うん、これはさぞ恥ずかしいだろう。こいつのお仲間らしき奴らもクスクスとこちらを見て笑っている。これで仲間内でもカースト最下位は確定だなおっさん。


「あーもう、さっさとトイレ行って来い。まったく、余計な仕事を増やさんでくれ!」


 おっちゃんは向こうの扉を指差し半ギレであった。そしておっさんは逃げるようにその扉へ駆け込んでいった。うーん、あのおっさんもうここには来られないかもしれんな。ちとやり過ぎたかもしれん。


「すまねぇな兄ちゃん。すぐに掃除するから他の席へ移ってくれるか」

「ええ、そうですね。ここ臭いですし」


 さすがにウンコ臭いし場所を移そう。それにしてもこのクソ魔法、実は物凄く役に立つんじゃなかろうか。対人限定になりそうだけど。後でちゃんとどんな魔法が使えるのか見ておくか。


 俺は取敢えず席を移し、自分との対話を始めた。ふむ、なかなか面白そうな魔法が結構あるかもしれん。問題は魔物相手に役に立つのか甚だ疑問なとこだな。


「やー、すまねぇな。奢りのエールとオークのステーキ、それとパンだ」


 俺が自分との対話を進めていると、その間に料理ができたようだ。オークのステーキは見た目がポークステーキそのものだな。パンはロールパンか。そしてエール。これは香りがあるんだな。柑橘系のフレッシュな感じの香りか。


 エールを一口飲んでみた。はー、ビールは喉で飲むって聞いたことあるけど、これはそういうのじゃなさそうだな。常温なんだけどフレッシュな感じがして美味い。逆にこれは冷やすと香りがなくなるだろうし味もわかりにくくなるだろう。


 そしてパン。よく異世界ものの物語だとパンが硬いのが定番だが、これはそんなことはなかった。さすがに日本のパンの方が柔らかいし美味いが、これも十分食べられる味だ。よし、オークのステーキを味わってみるか。


 ナイフとフォークでステーキを切り分け一口。味はまんまポークステーキだ。味付けは塩胡椒のみとシンプルだが、逆に味がわかりやすくていいかもしんない。ちゃんと胡椒も効いていて噛むと肉汁混ざりスパイシーな味わいだ。塩胡椒はそんなに高くないのだろうか。


 うーん、真っ昼間からエールを飲んでオークのステーキをかっ食らう。とても高校生の日常の1ページとは思えないのがいい。俺友達いねぇし親は毒親だから元の世界よりこっちのほうが楽しいかもしれん。


「ふーっ、食った。いやーこれで銅貨7枚なら悪くないわ。よし、ナークリ亭という宿屋に行ってみるかな」


 俺は上機嫌に席を立ち、ギルドを後にした。あのおっさんはまだトイレにいるのか出てこないな。水で洗わんと綺麗にならないと思うけど、トイレに水場はない。ボットン便所というやつで尻を拭くための紙は受け付けで買わないといけない。さらに手を洗う場所もないのだ。


 それもそのはずで、水は基本有料だ。わざわざ井戸から汲んで来ないとないんだから無料というわけにはいかないらしい。しかしそうなるとあれだけ派手に失禁したんだから相当な枚数の紙を使うよな。20枚一束で銅貨1枚と安くないので結構散財してるんじゃないのかね?


 いやぁ、クソ魔法なかなか使えるじゃねぇか。俺はおっさんの尊厳を踏みにじれた快感に酔いしれつつギルドを後にするのだった。

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