第6話 初仕事オワタ
「はい、それでは銀貨2枚と銅貨6枚のお釣りになります」
ギルドに戻った後、俺は早速魔道具屋でアルバイトをしていた。この世界では教育がそれほど普及していないため、計算のできる平民は少ないらしい。足し算引き算ならまだしも掛け算割り算になると二桁以上のものはかなり高難度なのだそうだ。
まぁ、難しくしている原因はこの世界の数字がアラビア数字のような性質ではなくローマ数字の系統だからだろう。例えば銀貨72枚をローマ数字で表すとLXXⅡで、この世界の表記もこんな感じなのだ。当然0という数字は存在しない。だから計算するとき結構頭がこんがらがると思う。
「いやー助かったよ。接客態度も良かったし計算も早いね。良かったらここのスタッフにならないか?」
「ありがたい申し出なのですが、俺は冒険者として頑張りたいので」
生活は安定するんだろうけどね。せっかくの異世界なんだからやっぱり冒険がしたい。
「そうか、それは残念だ。良かったらまた手伝ってくれ。今人手が足りなくてね」
「ええ、そのときはまたお願いします」
「じゃあこれは依頼の達成表だ。評価は最高の◎にしておいたよ。はい、これは心付けだ」
ギルドの評価表は◎、◯、△、☓、☓☓の5段階評価となっている。◎の場合は追加報酬を出したことを示しているそうだ。ちなみに☓☓は依頼失敗。☓はクレームあり。△は可もなく不可もなくで◯は満足だ。非常にわかりやすくていいと思う。
「ありがとうございます!」
心付けの額は銀貨4枚。依頼の報酬は4時間で銀貨6枚だからかなりの増額だ。俺は礼を言って店を出た。時刻は午後3時を回っている。そういや昼飯食ってなかったな。ギルドでも飯食えるしギルドへ戻ることにしよう。評価表も渡さないとだし。
俺はギルドに戻ると早速評価表を受け付け嬢に提出した。
「初依頼で◎は素晴らしいですね。この調子で頑張ってください。これは報酬の銀貨6枚です。そのうちの半分、3枚と心付け4枚から2枚を税金として納めますので預かりますね」
受け付け嬢は報酬の銀貨6枚のうち5枚を抜き取った。半分も税金で取られるのか。なかなかエグいよな。しかし心付けも税金の対象なのか。容赦ないな。手に入れた銀貨は心付け4枚と報酬1枚の計5枚か。労働意欲ガリガリ削られそう。
「気持ちは理解できますが、皆さん払ってますので。それと、収入の銀貨が10枚ですので1割の控除があります。ですので銀貨を1枚お返ししますね」
「収入次第で控除があるんですか!?」
俺は返ってきた銀貨1枚を受け取り、握りしめる。これが還付金というやつか?
「ええ。そうしないと労働意欲に影響でるじゃないですか。特に討伐依頼は最低限2割は控除があります。討伐で金貨100枚以上の収入ともなれば税金は2割まで減額されますね」
「そんなにですか!?」
三割免除とかすげえな。俺は思わず変な声をあげた。なぁぜなぁぜ?
「ええ。金貨100枚クラスの魔物となると危険度も相当なものですからね。半分も持っていったら誰も依頼を受けてくれませんよ」
確かに。命懸けで手に入れたお金を半分も持っていかれたらやる気なくすわな。なかなか良くできているのかもしれない。
「銀貨6枚あればここで飯食っても宿屋に泊まるくらいできますか?」
「中堅クラスの宿屋でしたら銀貨4枚で停まれますよ。オススメはナークリ亭ですね。食事も美味しいオススメの宿です」
ナークリ亭か。よし、飯食ったら行ってみるか。
「ありがとうございます。昼飯まだなんでここで食べていきます」
「はい、注文はあちらのカウンターでお願いしますね」
右半分が食堂のカウンターになっており、そこで注文するらしい。よし、早速この世界の飯を堪能してみよう。
俺は食堂のカウンターに向かい、張り出されているメニューを見た。リードランゲージの魔法を使い、文字を解読する。すると知らない文字なのになぜか内容を理解できた。魔法ってすげぇな。
オークのステーキなんて異世界ぽくて良さそうだ。他にもラビットや狼、ボア、コケー鳥など色々な種類の肉がある。殆どはステーキや小間切れをソテーしたものが主流らしい。揚げ物はないのか。
「オークのステーキとパンを2つ」
カウンターにいたおっちゃんに料理を注文する。おっちゃんは俺の顔を覗き込むようにジロジロ見るとニカッと笑った。
「おう、銅貨7枚だな。初めて見る顔だが新入りかい?」
「ええ、さっき初仕事を終えたところなんです」
「そうか、ならエールは飲まないのか? 仕事終わりにゃエールだ」
「いえ、未成年なんで……」
未成年に酒勧めんなよ。あれ?
でも確かこういう世界って確か成人の年齢違うんだっけ。
「未成年? 兄ちゃんいくつだ」
「16です」
「なんだ、成人してんじゃねぇか。初仕事だってんなら俺の奢りでエールをご馳走してやるよ。ちょっとしたお祝いだ」
おお、なんて気前がいいんだ。これは実に嬉しい。
「ありがとうございます」
「いいってことよ。またここで飯を食ってくれればいいさ」
ガハハハと笑い、銅貨7枚を受け取ると注文を受け付けた証の木の札を俺に手渡す。3番か。そういや昼間からエール飲んでる奴もいるな。ま、俺も飲むんだけど。
木の札を持ち、俺は空いている席に座る。すると少し離れたところで飲んでいたグループの一人が話しかけてきた。
「よぉ兄ちゃん。聞こえたぜ? 今日が初仕事だったんだってな。俺様がためになる話をしてやるからちょっと奢れよ。なに、銀貨5枚分でいいんだぜ?」
こいつ、顔が赤いな。さては酔っぱらっているな。まさか体格のいい革製の鎧を着込んだおっさんに絡まれるとはね。普通にケンカしたら負けそうだけど銀貨5枚は高すぎる。断固拒否だな。
「エール一杯とかならともかく、銀貨5枚は高すぎるだろ。新人にたかるなよみっともない」
おっさんをジト目で睨み、ピシャリと言い放つ。ここで銀貨5枚も払ったらまた目をつけられかねんからな。カモ認定だけはされちゃいかん。
「ほぅ、俺様のありがたい話を聞きたくないというわけか。新人は先輩の言うことを聞くもんだぜ?」
おっさんの眉が釣り上がり、明らかに不機嫌な様子だ。酔っぱらってるから自制が効かないのかもしれんな。しかしめんどくさいことになったもんだ。
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