第5話 リードランゲージを覚えたい
「ボットンブーリボットンブーリ、偉大なる神よ我が証は更新された。新しき証をここに刻みたまえ」
恥ずかしさに耐えながら俺は更新の呪文を唱えた。すると茶色い輝きが放たれ新たな文字が追加されたようだ。追加された項目は冒険者ランクだ。それによると俺のランクは第10位らしい。
「ランクについて説明いたしますね。最初のランクは第10位で受けていい依頼は街の雑用や採取に限定されています。第9位に上がるためには戦闘訓練に5回参加する必要があります。そして戦闘許可証をもらえば第8位に昇格することができ、討伐依頼を受けられるようになります」
いきなり討伐依頼は受けられない仕組みなわけか。確かに武器持ったからって野生の魔物に勝てるわけないもんな。俺なんかじゃ仮に日本刀持ってても野生のイノシシにさえ勝てそうもない。
「戦闘訓練はどこで受けるんですか?」
「はい、ギルドの方で週に2回行っております。一回の参加費用は銀貨2枚ですね」
「有料なんですね……」
銀貨2枚だと感覚的に1回2000円か。でも生き抜くために戦う力はほしい。これは受けるしかないな。
「はい。ですが戦闘訓練の結果次第では第8位への飛び級もあります。それと、戦闘許可証無しでも魔物と戦うのは自由ですが自己責任ですので」
「なるほど、わかりました。あの、ところでそのリードランゲージっていう魔法使いましたけど、俺にも使えますか?」
「リードランゲージはコモン魔法といいまして特に素質の必要な魔法ではありません。知恵の神アッパラパー様を祀る神殿でお布施を払えば魔法の契約をさせてくれるでしょう」
知恵の神の名前がアッパラパーですか。この世界の神様のネーミングセンスは一体どうなってんだよ。
「その神殿の場所を教えてください」
「街の地図がありますのでこちらを購入されますか? 1枚銅貨5枚ですが」
「買います」
銅貨5枚なら安いものだ。しかし細かいのがないな。お釣りもらうか。
「金貨しか持ち合わせがないのですがいいですか」
俺は財布から金貨を1枚取り出し受け付け嬢に差し出す。
「ええ大丈夫です。では角銀貨9枚と銀貨9枚、それと銅貨5枚お返ししますね」
受け付け嬢は俺から金貨を受け取ると、地図とお釣りをトレーに入れて寄越してくれた。それにしてもこの角銀貨、結構大きいな。銀貨のサイズも500円玉くらいなんだが、角銀貨はスマホの半分くらいのサイズで硬貨と同じくらいの厚みがある。財布に入れると結構重いかもしんない。他に入れる物がないから入れるけどな。
「それと、アッパラパー様を祀る神殿はここですね」
受け付け嬢は丁寧に地図を広げ、文字の読めない俺のために場所を示してくれた。結構近いな。先ずはそこへ行くか。
「色々ありがとうございました。まだ色々聞きたいことがあるのでまた伺っても大丈夫でしょうか」
「ええ。冒険者のサポートが私達の仕事ですからね。わからないことはどんどん聞いてください」
「ありがとうございます。では失礼します」
色々教えてもらえるのは心強い。俺は丁寧に礼を述べると早速ギルドを出てアッパラパーを祀る神殿へと向かった。
アッパラパーの神殿は見た目から神殿だった。イメージ的にはパルテノン神殿みたいなのを想像してたが、マジでパルテノン神殿みたいな外観だわ。階段を登らにゃならんのは年寄りには優しくなさそうだ。10段ほどだから大丈夫かもしれんが。
中に入るとすぐに講堂があり、奥に翼の生えた幼女の石像が飾られている。その石像の前には人々が集まり祈りを捧げていた。ということはあの羽根の生えた幼女がアッパラパーなのか。想像と全然違うぞ。
「ようこそアッパラパー様の神殿へ。礼拝ですかな?」
俺が中を眺めていると神官が話しかけてきた。ちょうどいい。この人に聞いてみよう。
「あの、ここでリードランゲージの魔法を契約できると聞いたのですが」
「ええ、できますとも。お布施として金貨1枚いただきますがよろしいですか?」
リードランゲージの魔法を覚えるのに金貨1枚か。つまり10万円。しかし利用価値を考えれば安いかもしれない。
「ええ、お願いします」
「ではこちらへどうぞ」
俺が了承して金貨を1枚手渡すと、神官はニコニコしながら案内してくれた。案内された部屋は床に魔法陣が描かれており、その真ん中には例の羽根の生えた幼女の石像が鎮座している。
「ではこれよりリードランゲージの魔法の契約の儀式の説明をさせていただきます」
神官は説明に入る前に棚に並べられている小瓶を一つ取り、俺に手渡した。小瓶の中身は白い液体のようだ。なんかの薬か?
「先ず私が契約のための文言を唱えます。すると魔法陣が輝きますのでその小瓶の中の聖水を聖なる言葉とともにあの御神体の顔にぶっかけてください」
「聖なる言葉……?」
「はい。エーノンカーエーノンカーと3回唱えるのです。古代語で我に知恵を、という意味ですが。それと、小瓶の中の聖水はネバネバしているので自分にかからないよう注意してください」
えーっと、あの幼女に白くてネバネバした液体を「エーノンカーエーノンカー」と言いながらぶっかけると。なんだこの怪しい儀式は。
「準備はよろしいですか? では契約の魔法陣の中に入り、小瓶の蓋を開けてお待ち下さい」
「わ、わかりました」
カルチャーショック受けてる場合じゃないよな。うん、これは聖なる儀式なんだ。真面目に取り組むぞ!
俺は意を決して魔法陣の中に入る。
「では始めます。偉大なるアッパラパーよ彼の者に読解の知恵を与え給え。ヨージョーサー イーコーモー ソーハ カドール!」
神官がなんとも不穏な呪文を唱えると、魔法陣が輝き出した。今だ!
「エーノンカーエーノンカー!」
聖なる言葉を吐きながら小瓶の中身を石像にぶっかける。もうほとんどヤケクソ。
「エーノンカーエーノンカー!」
幼女の石像の顔面に白濁の液体が降りかかり、タラーっと垂れ落ちた。なんだこのヤヴァイ絵面は。
「エーノンカーエーノンカー!」
そして残りの白いネバネバした液体を全てぶっかけると俺の頭に言葉が響いてきた。
(きゃるーん☆ 聖なるエキスをありがとー。君にリードランゲージの魔法を与えちゃうよーっ!)
知恵の神とは思えない軽いノリだな。まぁリードランゲージの魔法をくれるならなんでもいいけどさ。まぁ、言葉をくれたおかげで変な罪悪感が軽減されたのはありがたい。
「ふむ、どうやら契約は成功したようですね」
「ええまぁ、お陰様で」
取敢えずこれで文字が読めなくて困るということはなくなるか。よし、ギルドに戻って何か仕事がないか探してみよう。
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