第3話 クソ魔法ってなんやねん

「失礼、クソ野郎というのは前代未聞のクラスだね。どんなクラスなのかを知るにはスキル欄を見ればいい。それで特性がわかるはずだ」


 下剤王子はひとしきり笑った後、涙を拭いて教える。やめてくれ。スキルを知ったら更に笑うことになるぞ。


「えーっと、スキルはクソ魔法!? レベルは5だけどどんな魔法なんだよこれ」

「……なんか嫌な予感しかしないんだけど気のせいかな」


 クソ魔法、と聞いて悠が何かを察したようだ。俺も嫌な予感しかしねぇよ。クソみたいな魔法しか使えねぇってことなんだろうな。


「現在使える魔法を知りたいなら目を閉じて自分と対話をするんだ。そうすれば詳細がわかる」

「そんな方法があるんですね。私もやってみよ」


 よし、俺もやってみるか。期待はしていないけどな。俺は目を閉じて自分自身に質問を投げかけた。


 俺よ答えてくれ。クソ魔法とはなんだ?

 すると答えが返ってきた。まじか。


(クソ魔法。それはウンコや寄生虫に関連した魔法。唯一無二の系統であり、この魔法はクソ野郎以外の者が使うことは不可能とされている)


 ホントにクソだったぁーーーーっ!

 今使える魔法教えろください。


(強制便意。相手に強烈な便意を与え、戦闘を困難にする妨害魔法。

 寄生虫召喚。様々な寄生虫を呼び出し、相手に寄生させたり戦わせたりできる。

 ウンコアロー。周りの生物の便を集めて召喚し、矢のように飛ばす。物理的なダメージは皆無)


 ロクなやつがねぇっ!

 他にもあるようだが、聞いているだけで頭が痛くなって聞くのを止めてしまった。こんなもんどう説明すればいいんだよ……。


「スゴーイ。私魔法で爆発とか起こせるみたい。まさに女魔道士だね」


 美奈代があはっ、と可愛く笑ってできることを教える。爆発魔法とか絶対強いやつじゃねぇか羨ましい。


「すげーじゃねぇか。で、ソロモンのクソ魔法はどんなんだったんだよ」

「……ウンコや寄生虫に関係した魔法が使えるらしい」


 海斗が聞いてくるので素直に教えてやった。尋問されたら怖いじゃん。あ、周りがドン引きしてる。特に女性陣の視線が痛い。


「はぁっ!? お前それマジで言ってんのかおい」

「冗談であってほしかったけどな」


 半ギレで聞き返してくるが、ホントなんだから仕方がない。不本意ではあるけどな。そんなんだから海斗の目をまっすぐ見ることなんてできず視線を逸らす。


「は、ウンコクセェお前にはお似合いか」

「トイレで踏ん張っているときに召喚されたんだ、仕方ないだろ。まだケツも拭いてねぇってのに……」


 ウンコクセェ、という言葉にカッとなって俺は言い訳を始めた。しかし俺は途中でそれがとんでもない失言であったことに気付く。


「え、お前ケツ拭いてねぇのかよ。それでウンコクセェのか。カード返すから近寄んな」


 海斗は俺に向かってカードを投げ捨てる。カードは床に落ち、そして海斗は指が汚れたと言わんばかりにズボンで指を拭った。


 俺はマイカードを拾い、スボンのポケットにしまい込む。周りの奴らは俺を冷ややかな目で見つめていた。酷くないか?


「悪いけど君はいらないな。勝手に呼び出したのに申し訳ないが、君はこの世界で自由に暮らすといい。せめて幾ばくかの路銀は持たせよう」


 下剤王子は頭を抱え、ため息混じりに俺に告げる。随分と勝手じゃないかそれ。


「待ってくれ。だったら元の世界に返してくれないか? そもそも戦うことに同意なんてしちゃいないんだ」


 なんで何のしがらみもない異世界で暮らさにゃならんのだ。ましてや世界のために戦えとか何様だよ。俺は当然の要求を突きつけた。


「あ、そうだよね。戻れるんだったら私も元の世界に帰りたいな」

「まぁ、そうだよな。死ぬかもしれんし」


 俺の要求に周りも賛同する。


「悪いけどそれはできない。異世界に送れるなら魔王を異世界送りにしてしまえばいいだろう。倒すよりよっぽど現実的だ」


 戻るのと送るのじゃ違う気もするぞ。それに戻す方法があっても教えるメリットはないから教えないだろうな。あることだけでも判明すれば方法を探し出すだろうし。


「ちょっと待てよ。じゃあ俺らは戦うしか選択肢がないってことか? なんの庇護もなく知らない世界で生きていけるわけないだろ」

「まぁそうなるね。ここを出て自由に暮らすという選択肢もあるが、何の知識もお金もないのに生きていくのは相当な困難がつきまとうだろう。そして我々もそれを許すほどお人好しじゃない。万一他国や魔族に協力なんてなったら困るからね。だが我々に協力し、その力を振るってくれるなら生活は保証するし相応の地位も与えると約束しようじゃないか」


 普通に考えれば困難なんて最初だけだろ。少なくとも俺以外は才能があるんだ。それよりもこいつらがそれを許さないのが問題なんだよな。国家を敵に回すなんて人生詰む未来しか見えんわ。


「選択肢がないんじゃしょうがないね。僕は戦うことにするよ」


 悠の奴は勘がいいだけあって早々に戦うことを選んだようだ。


「切り替えが早いなお前は」

「選べる選択肢から最良を考えるしかないからね。一個人が王族に逆らうとか愚かでしょ」

「つまり諦めて従うしかないってことね」

「まぁそういうことだ。理解が早くて助かるよ」


 悠の説明に志津香がため息をこぼす。ぶっちゃけ過ぎじゃね?

 下剤王子は満足気に頷いてるけどさ。


「ではクソ野郎を除く四人は私と共に来てもらおう。そこのクソ野郎にはそうだな、これくらいあれば足りるだろ」


 下剤王子は懐から金貨を数枚取り出し神官に手渡した。そしてその神官が俺に金貨を手渡す。金貨5枚か。いくらくらいだこれ?


「その少年を城の外に案内してやれ。私はこの四人と話がある」

「はっ。ではクソ野郎様、城の外へご案内致します付いて来て下さい」


 いや、俺の名前はクソ野郎じゃねーし。文句を言いたいが黙っておこう。金貨取り上げられたら困るし。


 そして俺は一人、城の外へと追い出されるのであった。人生ハードモードかよ。

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