第2話 「春」「少年」「家の中の可能性」(ジャンル:邪道ファンタジー)

 桜の花びらが吹雪く庭園。

 相対するは少年と女性。甲冑を身に纏う少年は眼前の女性に剣先を向ける。

 豪奢な黒い色のドレスと金をあしらった装飾品を身に纏い、山羊に似た角を生やした女性はその切っ先を冷たい瞳で見ている。

「勇者よ、よくぞここまで辿り着いた。物は相談だが、我の傘下に入らぬか? 世界の半分を貴様にくれてやろう」

 勇者と呼ばれた少年は目を丸くするが、すぐさまにその眉根を顰めた。

「断る。誰が魔王である貴様の傘下になど入るものか! 貴様に殺された同胞の無念、ここで晴らせてもらうぞ!!」

 勇者は剣を構える。

 魔王と呼ばれた女性は空を見上げると、果然とした思いに溜息を吐いた。

 興味を失ったかのように魔王は踵を返した。

 勇者は魔王の態度に奥歯が砕けるほどに噛み締めた。

「敵前で背を向けるか!」

 怒号と共に駆けだす。

 刹那、勇者の視界は反転した。

「嗚呼、勇者よ、死んでしまうとは情けない。力量差すら理解できぬなら我の傘下に入ればよかったものを。井の中の蛙とはよく言ったものよ、元引きこもりでは家の中の可能性にしか気づけぬか」

 魔王は春の風に髪を揺らし、その大きな扉の中へと入っていく。

 眼前に立ち並ぶのは彼女の傘下に下った元勇者の魔人たち。

「諸君、待たせたな。勇者は死んだ。さぁ、世界の分け前について話そうか?」

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三題噺 河伯ノ者 @gawa_in

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