三題噺

河伯ノ者

第1話 「山」「矛盾」「冷酷な存在」(ジャンル:純愛)

 君は命の重みを知っているか?

 ずっと一緒にいたいという気持ちとどちらかしかしか生き残れないという矛盾した現実を前にして、君はどちらを選択するか?

 私はきっと、愚かな選択をしたのだろう。

 目の前に横たわる、かつて愛したモノを食料と呼べるほど私は非道にはなれなかった。

 家族のように共に生き、兄のように私を導いた彼は、最後には私を生かすためにその目を閉じた。

 山になど登るべきではなかった。私は目から零れ落ちる熱いものを拭い、その胸にめがけてナイフを振り下ろす。

 最後に聴いたそれは、決して”悲鳴”ではなかった。

 溢れ出る血潮の一滴さえも決して逃してはいけない。

 嗚呼、許されるならば彼の横で一緒になりたい。だが、私は生きねばならぬ運命を背負ってしまったのだ。

 愛を口にできなかった唇を、まだ熱の残った彼の唇に重ねた。

 

 飢えはもう限界だった。

 きっと彼は天国に行くのだろう。だが、私はそちらには行けぬ。

 人を喰らうは獣のどう。私は行く先に待つのは暗い、とても暗い闇の底になるだろう。

 死でさえも私たちを結んでくれぬとは、運命とは何とも冷酷な存在なのだろう。

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