第十六話
とある休日の昼下がり、真也は公園のベンチに腰掛けて物思いにふけっている様子だった、因みに隠も一緒だが、勿論真也以外には見えていない。
(あいつは一体……何者なんだ……?)
真也は先日香菜の危機を自分に伝えてくれた少女の事を考えているようだ。
(何故俺達の手助けを……? 何が目的なんだ……?)
真也が謎の少女の正体について考え込んでいた、その時だった。
「お兄ちゃーん!」
「ん?」
突然香奈が駆け走って来た、何かから逃げている様子だった。
「ほーら、逃げろ逃げろー!」
「ハハハハ!」
後ろに目を向けると、真也と同じか少し上ぐらいの男子4人が笑いながら香菜を追いかけて来た、その先頭にいる一人はエアガンを香菜に向けている、真也はそれを見て全てを理解したらしく、香菜と男子達の間に立ち、男子を睨みつける。
「なんだよお前、その目は。」
エアガンを持ったリーダー格の男子は真也の目つきが気に障った様子だ。
「隠れてろ。」
真也は背後の香奈に小さい声で伝える、香奈は小さく頷くと、木の陰に隠れる。
「何カッコつけてんだ、撃たれたいのか?」
リーダー格の男子は意地悪な笑みを浮かべながら真也にエアガンを向ける。
「やってみろ。」
しかし、真也は少しもビビった素振りを見せず言い放つ、そんな真也の態度に腹を立てたのか、エアガンの引き金を引く男子、高い音を立ててBB弾が発射された。
「!?」
しかしその直後、男子たちの顔が驚愕に染まった、真也は何食わぬ顔でエアガンの弾を避けたのだ。
「避け……た……?」
弾を避けた真也に表情がポカンとなる男子たち。
「で……できるわけねえだろ! まぐれだまぐれ。」
リーダー格の男子は続けてエアガンの引き金を引くが、真也はいとも簡単に避けながら男子グループに近付いて行く。
「何だよあいつ……なんで避けられるんだよ!」
真也の人間離れした動きに戸惑いを隠せない男子達、そうしている内に真也はいつの間にか男子達の近くまで迫っていた、真也はエアガンを持つ男子の手を蹴り上げる。
「いたっ!」
真也の蹴りによってエアガンが男子の手を離れ、宙を舞う、さらに真也は宙に舞ったエアガンを回し蹴りで川に向かって蹴飛ばす。
「ああっ!!」
蹴飛ばされたエアガンは音と水飛沫を立てて川に落ちた。
「俺のエアガンが……この野郎!!」
エアガンを失った男子は怒りを露にして真也に殴り掛かる。
「グェ!!」
しかし、その拳は真也には当たらず、それどころかカウンターの拳を顔面に叩き込まれ、仰向けに倒れる。
「野郎!!」
もう一人の男子は拾った棒で真也に殴り掛かろうとする、それに対し真也は咄嗟に三人目の男子の後頭部を掴む。
「ゲブッ!!」
「あっ!」
真也は三人目の男子の顔面を盾にして棒を防いだ、さらに真也は棒を持った男子の顔面に蹴りを入れる。
「……!」
その後、真也はふと香菜の方に目を向けると、石を1つ手に取って全力で投げた。
「え……キャッ!」
「ガッ!!」
「……え?」
真也が突然石を投げてきたので怯む香菜、しかし、石は香菜には当たらずその右上を通過、香菜が目を向けると、いつの間にか最後の一人が香奈の背後に迫っており、石はその男子の顔面を直撃した、更に真也は男子に向かって数個の石を投げる。
「イテッ! ギャッ!」
投げた石は立て続けに命中、男子は逃げ出した。
「うう……覚えてろよ!!」
半べそをかくリーダー格の男子、ボコボコにされた男子達は逃げ出した。
「べーだ、ざまーみなさい!」
真也の背後から男子達に向かって舌を出す香奈。
しかし、その翌日の事であった。
「私の息子がお宅の息子に虐められたそうですが!?」
「ん?」
「何だろう。」
真也と香奈が自宅でゲームをしていると、下の階から女性の怒鳴り声が聞こえた、二人は父の店がある下の階へ降りる、隠も真也に着いて行く。
「あなた、一体どんな教育をしてるんですか!」
父の店へ行くと、身なりの良い女性が真也の父親を怒鳴りつけていた。
「あっ! あいつ!」
女性の後ろには昨日エアガンを持って香奈を追いかけてた男子がいる、どうやらこの男子の母親のようだ、そして男子も降りて来た二人に気付く。
「あ! あいつらだよママ、いきなり俺のエアガンを奪われて川に放り投げられて、暴力を振るわれたんだ!」
男子は母親に泣きつきながら二人を指さす。
「何言ってるのよ! あんたが私にエアガン向けて追いかけて来たから、お兄ちゃんに追い払われたんでしょ!」
香奈は怒った様子で言い返す。
「嘘だよママ、俺はそんな事してないよ!」
泣き顔で母親に縋りつく男子。
「うちの子はこう言ってるわよ! それとも、何か証拠でもあるの!」
「うっ……」
母親の言葉に対し言葉を詰まらせる香奈、実際証拠は何も無いので言い返せないのだ、男子はニヤニヤと笑いながら二人を見ている。
「真也、香菜の言っている事は本当なのか?」
黙って話を聞いていた父は真剣な表情で問いかける。
「……本当だよ。」
真也も父の目をじっと見て話す。
「……そうか。」
それを聞いた父は安堵したような微笑みを浮かべた。
「あなた、まさか私達の言う事を疑うのですか!?」
母親の方に向き直り、父は再び真剣な表情になる。
「私の息子の事は私がよく知っています、確かに少し乱暴な所はありますが、少なくとも理由も無しに暴力を振るうような子供ではありませんよ。」
きっぱりと言い放つ父、そんな父に対し、母親は機嫌を悪くしたような表情で腕を組み、フンと鼻を鳴らす。
「良いのかしら、そんな事言って。」
「……え?」
「実は私、社長夫人ですの、ですからこの辺の人間とはそれなりに交流があるんですよ。」
母親は父の店をチラッと見る。
「ですから、私にかかればこの店の悪い評判なんて、あっという間に広がりますわよ。」
「……!」
母親の口から出た明らかな脅迫、父の眉間に若干の皺が生まれた。
「先ほどの言葉、撤回してあなた達全員で謝罪するのであれば、見逃してあげても良いのですよ?」
明らかにこちらを見下した様子の母親、対して父は、一度深呼吸した後、強い眼差しで口を開いた。
「お断りします。」
きっぱりと言い放つ父、それに対し母親は眉間に皺を寄せ、父を睨む。
「そうですか、その台詞、後悔しないと良いですね。」
そう言うと母親は息子と共に歩き去った。
「お父さん……」
香奈は心配そうに父を見る。
「……大丈夫だよ。」
そう言うと父は優しい笑顔で香奈の頭を撫でる。
「……クソッ、厄介な事になったな……」
想定外の事態に顔を顰めて頭を掻く真也、すると、足元にいた隠がチョンチョンと足を突いてきた、真也はなんだ?と言うような表情で目を向ける。
『心配いりませんよ旦那、既に手は打ってありやすぜ。』
「?」
不敵な笑みを浮かべる隠、真也は隠の意図が解らずキョトンとした表情になっていた。
それからしばらく経った頃の事である、店の営業時間が終わり、店じまいをして自宅の玄関を潜った父親、その表情は雲っていた、母が心配そうな表情で歩み寄って来た、香奈と真也は自室にいる。
「あなた、店の売り上げは……」
父は苦渋の表情で首を横に振る、やはり男子の母親が流した噂による物なのか、この所店の売り上げはかなり下がっていた。
「……やっぱり、誤った方が……」
「駄目だ。」
男子の家族への謝罪を提案する母、しかし父は小さく、しかしはっきりとした声で拒否する。
「真也は香奈を守っただけだ……あの時と同じ間違いを繰り返したくはない。」
父の言うあの時とは、以前真也が女子生徒に暴力を振るった事件の事である、その時は相手が女子という事で両親は頭ごなしに真也を怒鳴り付けたが、その後香奈の口から相手の女子が香奈を虐めていた事を聞かされた、それで真也の誤解は解けたが、自分を守ってくれた真也を話も聞かず怒鳴りつけた事でしばらく香奈は両親と口を聞かなかった。
「大丈夫だ……いざとなれば、引っ越せばいい、それだけの貯金はあるからな。」
「……」
そう言う父親は笑顔を浮かべているが、その笑顔は苦しそうだった、そんな父の顔を母は心配そうな表情で見ている。
「お父さん?」
香奈が部屋から出て来た、その顔は若干父の表情を心配している様子だった。
「……夕食にしようか。」
父は満面の笑顔でしゃがみ、目線を合わせて香奈の頭を撫でる、対して香奈は心配そうな表情のまま小さく頷いた。
しかし、それからまたしばらく経った時の事である。
「うーん……」
店の定休日、父は居間で店の売り上げの帳簿を見て思い悩んでいる様子だった。
「どうしたの?」
洗濯物を畳んでいた母が話しかけてきた。
「いや、この所、店の売り上げが上がって来たんだ。」
報告を聞いた母の顔が明るくなる。
「あら良かったじゃない、でもなんでそんな顔してるの?」
「それが……やけに初見の、それも若い女性の客が多くてな……」
父は怪訝な表情のまま母に近況を報告する。
「そうなの、なにか女の子受けするような商品なんてあったかしら。」
「いや、別にそういう商品を出した覚えは無いんだが……」
父が近頃の客層の変化を不思議がっていたその時、突然インターホンが鳴った、比較的玄関に近い父が玄関に向かう。
「……!!」
父が玄関のドアを開けると、身なりの良い四十代程の男性がこの前の男子とその母親を連れて立っていた、後ろの二人を見た父の眉間に若干の皴が生まれる。
「祭堂さんのお宅でよろしいでしょうか?」
男性の言葉に対し、父は黙って頷く。
「今回の出来事について、全て息子と妻から聞きました……」
そう言う男性は眉間に皴を寄せた厳しめの表情をしていた、どうやら男性は母親の夫、男子の父親のようだ。
「それで、用件は何でしょうか。」
話を聞いて父親が怒鳴り込んで来たと思っているのか、父は毅然とした態度で用件を聞く。
「今回の件は……誠に申し訳ございませんでした!!」
しかし、父親の口から出たのは、怒声ではなく謝罪の言葉であった、父親は深々と頭を下げる。
「……はい?」
男子の父親の口から出た予想外の言葉に対し、思わず素っ頓狂な声が出た父、良く見てみると父親は手土産のような物を持っており、男子は誰かに殴られたのか頬が赤く腫れている。
その後、父は一家を家に上げて詳しい事情を聞いた、男子の父親の話によると、会社の部下と食事をしていた時、部下から息子と思わしき子供が映っていると動画を見せられたのが始まりだという。
「その動画がこちらになります。」
男子の父親からスマホ受け取る父、母も一緒に覗き込む、そこに表示されているのはSNSに投稿されている一つの動画だった。
(……!?)
両親は驚いた、そこに映っているのは目の前の男子が射つエアガンの弾をいとも簡単に避ける真也の姿だった、その投稿はかなりの反響を呼んでおり、 『バケモンみてーな小学生いるんだがww』というタイトルを初めに様々なコメントが書き込まれていた。
『エアガンの弾ってこんな簡単に避けられるもんだっけ?』
『反射神経どうなってんのw』
『銃口の向きと指先の動きにうんぬんかんぬん』
そのコメントの大半は真也の所業に驚いている様子だったが、その中には目の前の男子の行動を非難するような物もあった、中には女の子にエアガンを向けて追い回しているのを目撃したというコメントも多数ある。
「その動画で、息子のやらかした事を知りまして……それで急遽家に帰った所、妻からこの事を聞いたのです。」
「はあ……」
父親の説明に対し、両親は驚きが拭えないという表情で顔を見合わせる。
(まさか……)
父は若い女性客が増えたのもこの動画が関係しているのではと考えていた。
「今回の件に関しては、仕事の忙しさを理由に、家庭を疎かにしていた私の責任でもあります、妻と馬鹿息子に対しては私の方から厳しくお灸を据えておきます……勿論、近所に流された噂も私の手で払拭いたします、本当に申し訳ありませんでした!」
再び深々と頭を下げる父親。
「お前らも謝れ!」
横の母親と息子に目をやると、二人共不機嫌そうに目を逸らしていたので、怒鳴りつける父親。
「も……申し訳ありませんでした!」
「……ごめんなさい。」
二人は父親に対してビクつきながら頭を下げる。
「ま……まあまあ、子供のやった事ですから……それに、うちの息子も暴力を振るってしまった訳ですし、ここはお互い様という事で……」
父はやや圧倒されている様子で相手の父親をなだめる、その時、玄関のドアが開いた。
「ただいまー!」
「ただいまー」
真也と香奈が二人揃って学校から帰宅した。
「あっ……」
男子とその母親に気付いた香奈、同じく気付いた真也も香奈を庇うように前に立つ。
「君たちが、この家の子だね?」
男子の父親が問いかける、対して真也は睨みながら頷いた、すると父親は息子の腕を掴んで立ち上がり、乱暴に二人の前に突き出す。
「……ごめんなさい。」
「息子が迷惑をかけて、本当に申し訳ない……」
しょぼんとした様子で謝る男子と、申し訳ないという表情で謝る父親、真也と香奈は予想外の行動に若干戸惑っている様子だった。
「今回の事は、本当に申し訳ありませんでした。」
その後、一家は手土産を渡し、謝罪の言葉と共に深々と頭を下げて帰って行った、そして真也は家族と共に見送った後、自分の部屋に戻る。
「隠。」
「へい。」
真也は椅子に腰掛け、隠に話しかける。
「今日の出来事はお前の仕業か?」
真也は先日母親が乗り込んできた時、隠が既に手を打っていると言っていた事をを思い出し問いかける。
「御名答、正確にはあっしがあのガキにつけた“厄”による物でやんす。」
隠はニカッと笑いながら説明する。
「あっしはあのガキとにそれに味方した全員に厄が振りまかれるようにしましたからねぇ、まあ具体的にどうなるかまではわかりませんでしたが、少なくともあのガキにとって良くない結末になるのは確実だったんでやんすよ。」
隠は机の上に飛び乗り、意地悪な笑顔で話を続ける。
「そうか……ありがとよ。」
真也は少し笑みを浮かべて感謝の言葉を述べた。
「いえいえ、これくらいお安い御用でやんすよ。」
屈託のない笑顔で答える隠。
その後、噂が払拭されたのか父の店の客足は戻り、新しい客層が出来た事も相まって以前より売り上げが伸びた、そしてあの母子は父親によってかなり厳格な親戚の元に送られたという。
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