第十三話
(……)
そろそろ戻らないと怪しまれるだろうと思い、病室に戻る事にした真也と隠、しかし、真也はまだ先程の少女の姿が頭から離れない様子だった。
「それにしても、小学校低学年の女の子だけ……というのが妙ですね。」
「……ん?」
偶然通りかかった部屋から話し声が聞こえる、ドアが半開きだったので覗き込んでみると、先程の少女達について男性2人が話しているようだった、1人は二十代後半程の若い医者、もう一人は五十代程の熟年の医者だ。
「ああ……15年前のあの事件を思い出すな。」
「あの事件……というと?」
以前起こったある事件を思い出す熟年の医者だが、若い医者はピンと来ていない様子だった。
「何だ、知らないのか? この辺では有名な事件だぞ。」
「えっと、その頃は私……両親の都合で海外で暮らしていたもので……」
若い医者は気恥ずかしそうに笑いながら話す。
「ああ、そういえばそうだったな。」
「どんな事件なんですか?」
若い医者の問いに対し、熟年の医者は眉間に若干の皺を寄せ、窓から遠くを眺める。
「実に、胸糞の悪い事件だよ……」
熟年の医者の話によれば、15年前この辺りで小学校低学年の女の子が次々と行方不明になったという、しかも犯人は一流大学を卒業した医者であり、職場での評判も大変良かった、その為警察にもそのような事をする人物には思えず、当時近くに住んでいた全く関係ない無職の男が犯人として疑われてしまったという。
「そういった警察のミスもあり、捜査が難航してしまったんだ……実に、9人もの女の子が行方不明になった。」
話を聞いていた若い医者は驚きを隠せない様子だった。
「それで……女の子達は……どうなったんですか? 助かったんですか?」
若い医者の問いに対し、熟年の医者は黙って首を横に振った。
「まさか……」
若い医者は沈黙する、女の子達の末路を察した様子だった。
「それだけじゃない……」
熟年の医者は更に不快感を強めた表情で、近くの椅子に腰かける。
「男は、少女達の命を奪った後……自分の趣味の服を着せて、ホルマリン漬けにしていたそうだ。」
「……!」
若い医者はその顔を更なる驚愕に染めて絶句した。
「どうして、そんな事を……」
「実に下らん理由だよ。」
そう言うと熟年の医者はペットボトルのお茶を一口飲むと、ドンっと音を立てて乱暴にペットボトルを机に置いた。
「男は小児性愛者でな……少女たちに、いつまでも一番かわいいままでいて欲しかったそうだ。」
熟年の医者は腕を組んで不快感と嫌悪感に満ちた表情で話を続ける。
「全く許しがたい奴だよ……同じ医者としても、子を持つ親としてもな……!」
半開きのドアから覗き込んで話を聞いていた真也と隠。
「趣味の悪い野郎がいたもんでやんすねぇ……」
隠も犯人の所業に引いている様子だった。
「……」
「旦那?」
隠が呼びかけるが、真也は一言も話さずに歩き出す。
(そう言えば、前の世界でもいたっけな……)
真也は窓から空を見上げながら生前の出来事を思い出していた。
それは勇者セリカと旅をしていた道中、人間の村がスケルトンの軍勢に襲われた事件、その元凶である一人の
『どうして……どうしてこんな事を!!』
崖の上でセリカは屍霊操士に対して怒りの声を上げる、屍霊操士は黒いローブを纏い、髑髏と人骨で出来たような杖を持った三十前半代程の金髪の男だった、アルゲルスは小さくなってセリカの肩に乗っており、崖の下では人間の村がスケルトンの襲撃により阿鼻叫喚に包まれている。
『どうして……? 決まってるでしょう、美しいからですよ。』
屍霊操士は歪な笑顔を浮かべながら言い放った、セリカは信じがたい回答に耳を疑っている様子だった。
『美しい……何が……?』
セリカの問いに対し、屍霊操士は崖下で泣き叫び、逃げ惑う村人達を眺めると、再び口を開く。
『見なさい、村人たちの恐怖に満ちた表情、危機感に満ちた悲鳴を……』
屍霊操士はその笑顔を更に歪める。
『絶望に満ち、恐慌に駆られた状況でも、それでも生き残りたい一心で、ある者は逃げ惑い、ある者は祈り、僅かな希望に縋り、足掻く……しかしその僅かな希望も摘み取られ、大勢の命が儚く散っていく……実に美しいじゃありませんか!!』
屍霊操士は襲われている村を背にセリカの方へと向き直り、両腕を広げ天に向かって叫ぶ。
『これこそが最高の美! これこそが我が喜び! これこそが私の全て! 私の生涯はこの為だけにあるのですよ!』
狂気に満ちた笑いを受かべて叫ぶ屍霊操士に対し、セリカは剣を構える。
『……あなた……狂ってるわ。』
嫌悪感を露にする勇者に対し、屍霊操士は呆れたように無表情になる。
『理解できませんか……所詮勇者というのも、ただの肩書……あなたも私の崇高なる思想を理解できない凡人……という事ですね。』
屍霊操士は杖をセリカに向ける、すると杖の先の髑髏から黒いエネルギーが漏れ出し始めた。
『……!』
攻撃を察して身構えるセリカ、すると突然巨大な何かが屍霊操士に向かって振り下ろされた。
『ヌゥッ!!』
『アル!?』
必死で避ける屍霊操士、アルゲルスは元の巨大な姿に戻り、屍霊操士に向かって拳を振り下ろしたのだ。
『俺にもさっぱり理解出来ねえが……まあどっちみち、てめえを叩き潰す事に変わりはねえ……そうだろ、セリカ。』
笑みを浮かべてセリカに目配せをするアルゲルス、セリカは微笑んで頷くと、屍霊操士に向き直る。
『あなたを生かしてはおけない……みんなの為にも、ここで終わらせて見せるわ!』
セリカは屍霊操士に向かって剣を構える。
『チッ……木偶の棒め……』
屍霊操士は杖を地面に突き立てる、すると、背後に巨大な魔法陣が現れた。
『!?』
『なんだ?』
『来たれ……死したる者よ……我が魂に従いて……我が下へ……!』
そして、屍霊操士の呪文に答えるように魔法陣から膨大な黒い魔力と共に巨大な何かが這い出して来た。
『あれは……!!』
這い出して来たそれの姿に驚くアルゲルス、続いてセリカが口を開いた。
『ドラゴン……ゾンビ……!!』
部分的に残った黒い鱗に覆われた表皮、そして腐敗した肉体と露出した骨を引きずりながら、竜の屍は呻き声を上げた。
『私とて、ここで死ぬつもりはありません……なので、最大級の戦力でお相手させていただきますよ。』
さらに、屍霊操士とドラゴン・ゾンビの周りに多数の魔法陣が現れ、そこから多数のスケルトンが現れる。
『……』
スケルトンの軍勢に対し息を呑み、剣を構えるセリカ。
『へっ……面白えじゃねえか。』
アルゲルスは手応えのありそうな相手と捉え、ニヤリと笑ってドラゴン・ゾンビを睨みつける。
真也はそんな屍霊操士との闘いを思い出し、窓から空を見上げている。
(どんな世界にもいるもんだな……訳の分からん人間ってのは。)
「旦那? どうしたんです?」
不思議そうな顔で真也を見上げる隠。
「……別に、何でもねえよ。」
真也と隠は病室へ戻る為、再び歩き出す。
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