第十二話
※補足・隠の見た目を変更しました、詳しくは第七話と八話をお読み下さい。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
そこは、黒い空間に白い壁で構成された迷路のような場所、一人の少女はその迷路を走っていた、切羽詰まった様子で、まるで何かから逃げるように。
「ハァ……ハァ……!?」
しかし、少女がたどり着いた先は行き止まりだった。
「そんな……助けて……誰か……誰か……!」
少女は壁を叩くが、その壁に変化は無い、やがて少女の目の前に影が現れ、少女は恐る恐る振り向く。
「ヒ……イ……イヤアァァーーー!!!」
謎の迷路に、少女の悲鳴が響き渡る。
そして、廃工場の出来事から数日後、真也は香菜、そして母親と共に病院に来ていた。
「はい、揚羽ちゃん。」
造花の花束を揚羽に渡す香菜、揚羽の見舞いに来ているようだ。
「ありがとう。」
ベッドに座って花束を受け取る揚羽。
「申し訳ありません、わざわざ来ていただいて……」
長髪を首の後ろで束ねた女性が真也達に頭を下げる、揚羽の母だ。
「いえいえ、普段から子供達と仲良くしてもらってますから。」
「それにしても、食中毒とはついてねえな。」
真也は同情の目を揚羽に向ける、隠も一緒にいるが、真也以外には見えていない。
「そうなのよ、昨夜の食事のサバが悪かったみたいなの、でも症状は軽いみたいだから少しの間入院すれば治るって。」
「そうですか、それは幸いでしたね。」
「ちょっとトイレ。」
病室を出る真也、隠もそれについて行く。
「あの子が真也くんですか、揚羽から聞いてますよ、頼りになる男の子だって。」
「お……お母さん。」
笑顔で真也を褒める揚羽の母、揚羽は少々恥ずかしそうな様子だ。
「ええ、あの子は生まれた時から……大人びているというか、妙に手のかからない子で……まあ、度々トラブルを起こす事はありますけど。」
真也の出ていったドアを眺めながら話す真也の母、
やや苦笑している様子だった。
「へえ……良かったわね香菜ちゃん、頼もしいお兄ちゃんがいて。」
笑顔で香菜に話しかける揚羽の母。
「……」
コクリと頷き、母と同じようにドアを見つめる香菜。
「……どうしたの? 香菜。」
「……ううん、なんでも無いよ、なんでも……」
そう言う香奈の表情には、どこか寂しさがにじみ出ていた。
その後、用を足した真也は病院の廊下を歩いていた。
「先生! 真衣は……真衣は大丈夫なんですか!?」
「……ん?」
突然通りかかった病室から女性の叫びが響いたので立ち止まる真也、病室を覗き込んでみると、一人の少女がベッドに寝かされており、その横では少女の両親と思わしき二人の大人と五十代と思わしき男性の医者が話をしていた。
「……昨夜の時点では、いつも通りだったんですよね。」
医者は深刻な表情で女の子の両親に問う。
「そうなんです……寝る前までは元気そのもので……なのに、今朝から何をしても起きなくて……」
父親が答える、それを聞いた医者の表情はますます深刻になった。
「こちらの検査でも……異常な所は見られませんでした、体のどこも……実に、健康そのもので……」
そう話す医者の表情にはわずかな恐怖も見えていた。
「もうこれで9人目よ……」
「変よねぇ……体のどこにも異常は無いのに……」
その様子を真也の近くで見ていた看護師二人、その視線はその病室と別の病室を交互に向いていた。
「……」
話を聞いていた真也は隠にチラッと目配せをする、隠は黙って頷くと、ドアをすり抜けて横になっている女の子のベッドに上がり、女の子の頭に触れる。
(……! こりゃあ……)
女の子を調べていた隠は、何かに気付いたようだ。
その後、真也と隠は病院の裏に移動し、誰もいない事を確認する。
「……で? 何かわかったか?」
周りに聞こえないように小声で話す真也。
「へい旦那、あの女の子達……魂を抜かれていましたぜ。」
「魂を?」
隠の返答に驚く真也。
「はい、だからあの子達は何をしても起きないんでやんす、肉体は生きていても魂が無いんでやんすからね。」
隠の説明に対し、腕を組んで考えこむ真也。
「……魂を抜くって、そんな簡単に出来るもんなのか?」
真也の問いに対し、隠は真也の前をグルグル歩きながら考える。
「……そこなんでやんすよねぇ……いくらなんでも、元気な子供から魂を抜くなんて、余程上位の妖魔でも……ん?」
「どうした?」
「ひょっとすると……夢の中で干渉されたのかもしれやせん。」
そう言うと、隠は真也の方に向き直る。
「夢の中? 」
「ええ、寝ている間は、魂と肉体の繋がりが曖昧になりやすからねえ……とはいえ、
夢に干渉出来る怪異となると、それこそ種類が限られてきやすが……」
隠は前足を顎に当てて再び考え込む。
「……」
腕を組んで隠と同じように考えこむ真也。
「……ん?」
ふと何か違和感を感じ取ったのか、近くの電柱を見上げる真也、しかし、太陽と直線状にあるので、右手で光を防いでいる。
(……なんだ……あれは?)
その電柱の上には、腰かけているような人影があった、太陽を背にしている為よく見えないが、青い着物を着た青いロングヘアーの少女のようだ。
(……?)
真也には僅かだが、その少女がこちらを見て微笑んでいるように見えた。
「旦那?」
「……!」
しばらく少女と目を合わせていたが、隠に呼ばれて我に返る真也、再び電柱に目を向けると、少女は消えていた。
「あの電柱がどうかしたんですかい?」
電柱に目を向ける隠、どうやら隠は少女を見ていないようだった。
「……いや、何でもない。」
そう言う真也だが、やけに先程の少女が気になる様子だった。
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