第十話

「あそこが俺んちだ。」


 学校を出た後、麗華を連れて帰宅し、自宅を指さす真也。


「パン屋さんなの?」


「ああ。」


 建物の1階を見て問う麗華と答える真也。


「親父、ただいま。」


「おお、おかえ……」


 パン屋のカウンターにいた真也の父は真也の後ろにいた麗華を見て驚いたような顔をしている。


「初めまして、真也くんのクラスメイトの、天宮寺麗華です。」


 行儀よくお辞儀をする麗華。


「あ……ああ、初めまして。」


 麗華の行儀の良さに若干戸惑っている様子の父。


「玄関はこっちだ。」


 店の横の階段を指さして上る真也、麗華もそれに着いて行く。


「……」


 階段を上る二人をポカンとした表情で見送る父、真也は今まで男友達すら一人も連れてきた事が無かったので、突然女の子を連れて来た事に驚いているようだ。


「ただいまー」


「おかえり、真也……あら?」


 真也を迎える母、母も真也の後ろで靴を脱ぐ麗華に気付いた。


「初めまして、天宮寺麗華と言います。」


 父親の時と同じように礼儀の正しい挨拶をする麗華。


「あ……あらあら、これはご丁寧に……」


 そして母も父の時と同じように麗華の礼儀正しさと真也が女の子を連れて来た事に驚いていた、そして真也は足元に女の子の物と思わしき靴を見つけた。


「お袋、揚羽今日も来てんのか?」


「え……ええ、香奈の部屋にいるわよ。」


「なら良かった、こっちだ。」


「うん。」


 麗華を香奈の部屋に案内する真也。


「……」


 ポカンとした表情で二人を見送る母。


 真也は香奈の部屋のドアをコンコンと叩く、以前勝手に開けたらノックしろと怒られたからである。


「香奈。」


「お兄ちゃん!」


 ドアを開け、真也を迎える香奈と揚羽。


「……あなたは?」


 二人はすぐに真也の後ろの麗華に気付く、キョトンとした様子で問いかける香奈。


「ああ、俺のクラスメイト。」


「天宮寺麗華、よろしくね。」


 ニコッと笑いながら自己紹介をする麗華。


「よ……よろしく……」


 若干戸惑ったような笑顔を見せる香奈、揚羽は香奈の後ろに隠れていた。


「ひょっとして……お兄ちゃんの恋人?」


 ニヤニヤ笑いながら茶化す香奈、対して真也は冷ややかな顔で香奈の額に軽いデコピンをする。


「バーカ、揚羽の話を聞きに来たんだよ。」


「私の……話?」


 香奈の後ろに隠れたままキョトンとした顔を二人に向ける揚羽。


「真也くんから聞いたの、あなたが見た幽霊の事を。」


「……!」


 それを聞いた揚羽の表情に恐怖が現れた。


「どうした?」


「……お兄ちゃん、実は……」


 揚羽は教室で起こった出来事を香奈に話していた、香奈は深刻な表情でその事を二人に話す。


「教室に現れた? その幽霊がか?」


 4人は輪になって座り話している、真也の問いに対し揚羽は怯えた表情のまま黙ってこくりと頷いた。


「ひょっとしてあなた……その幽霊と目を合わせたりしたの?」


 麗華の問いに対し、揚羽はこくりと頷いた、それを見た麗華は顎に手を添えて深刻な表情で考え込む。


「どうした? 麗華。」


「真也くん、ちょっと……」


 麗華は真也の腕を掴んで一緒に部屋を出る。


「……ひょっとして何かマズい事なのか?」


 二人は香奈と揚羽に聞こえないように小声で話す。


「うん……かなり……」


 麗華の話によると、成仏せずに長い間彷徨い、邪気に侵された霊は自分を認識した者に対して強く執着する傾向があるという。


「幽霊にとって目を合わせるという事は、自分を認識してくれてるという事だから、下手するとあの子に憑りつくかもしれないわ……そうなると、あの子の周りの人達も危なくなるかも……」


「……そうか……」


 麗華の話を聞いてやや深刻そうな表情になる真也、その視線は香奈の部屋に向いており、香奈の身を案じている事が見て取れる、やがて部屋のドアが開き、香奈と揚羽が顔を出した。


「二人共……どうかしたの?」


 香奈はキョトンとした表情で問いかける。


「……なんでもないわ、勘違いみたい。」


 麗華は微笑みを浮かべて返す。


「……そうなの?」


 二人は香奈の部屋に戻る、揚羽の表情にはいまだ恐怖と不安が見えていた。


「……」


 そんな揚羽の顔を見た麗華は揚羽の頭を優しくなでる。


「心配しないで……大丈夫だから。」


 優しい微笑みを浮かべる麗華に対し、揚羽はコクリと頷いた、その時急にドアが開く。


「みんな、おやつでもいかが?」


「わーい!」


「ありがとうございます。」


 母が人数分のケーキとお茶を持って来た、香奈は喜んで母に駆け寄り、麗華は丁寧にお礼を言う。


「ほら、揚羽ちゃん。」


 香奈は不安な表情の揚羽にケーキを勧める。


「……ありがとう……」


 揚羽はお礼を言うと、ケーキを一口食べる。


「……!」


 すると、揚羽の表情が明るくなった。


「ふふっ、気に入ってもらえたようで何よりだわ。」


 その様子を見ていた母は優しく微笑んだ。


「揚羽ちゃん、来た時から元気無さそうだったから、甘い物食べて元気になって欲しかったの。」


「……ありがとう……ございます。」


 ややはにかんだ様子でお礼を言う揚羽。


(……待てよ……)


 その時、笑顔でケーキを食べてる真也の表情が変わった、まるで何かを思いついたように、そして、麗華もそれに気付いたようだ。


 その後、みんなでケーキを食べた後、しばらく過ごして揚羽と麗華は帰宅する事にした。


「それじゃあまたね、揚羽ちゃん。」


「うん、またね。」


「じゃあ行くぞ。」


 二人と一緒に歩き出す真也、家まで送っていく事になったようだ。


「真也ー、寄り道したら駄目だぞー。」


 真也に忠告する父。


「わかってるよー。」


 真也は振り返らずに手を振って返事をする。


「ごめんね真也くん、送ってもらって。」


「別に構わねえよこれくらい。」


 真也に苦労を掛けた事を謝る揚羽。


「ところでさ、揚羽ちゃんって、好きな番組とかあるの?」


「えっと……エルフ戦記とか……」


「え、揚羽ちゃんもあれ見てるんだ!」


 帰路を歩きながら世間話を始める揚羽と麗華、真也は二人の後ろを歩きながら辺りを見回す。


(……揚羽に憑りつくんなら、近くに現れるかも……と思ったが……)


 真也は件の幽霊が現れないか探しているようだ。


(見つからねえな……そう簡単にはいかねえか。) 


『もっと良い方法がありますぜ。』


「!?」


 突然響いた声に驚き、立ち止まって周りを見回す真也。


「真也くん、どうかしたの?」


 真也が突然立ち止まったのでキョトンとしている麗華と揚羽、どうやら二人には聞こえてないようだった。


「……何でもない、気のせいだ。」


 再び歩き出す三人。


(さっきの声……隠の野郎だったな。)


『ご名答! 今は隠れて旦那の頭に念話を送ってるんでやんす、ちょいとその子達に見つかるとまずそうなんで……』


 再び響く隠の声、恐らく麗華がいるからだろうと真也は二人に目を向ける。


(……その口振りからすると、今までの事は知ってるんだな?)


『勿論でやんす、その女の子に取り憑いた霊を何とかしたいんでやんしょう?』


(……ああ。)


『なら、その霊をおびき出す良い方法がありますぜ。』


(……なんだ?)


『簡単ですよ、まずは……』


 隠は念話でその方法を真也に伝える。


 その後、三人はまず1番近い揚羽の家に来ていた。


「またね、揚羽ちゃん。」


「うん。」


「……揚羽、ちょっとごめんな。」


「……え?」


 真也は突然揚羽の頭を撫でる。


「し……真也くん?」


 突然の真也の行動に驚く麗華。


「……よし、悪いな突然。」


 真也は少しの間撫でた後、手を放した。


「……う……ううん……良いけど……」


 揚羽は俯いて少し照れている様子だった。


「じゃあな。」


「うん……また明日。」


 揚羽は家の中に入って行った。


「何をしたの? 真也くん。」


「……ちょっとな。」

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