第八話

「なに?」


 疫病神と名乗ったなばりに対し、警戒心を強め、自らの封印を解こうとする真也、疫病神がどういう物かは真也も理解しているようだ。


「ちょ……待った待った! 敵意はありませんて! 疫病神ったって、別に傍にいるだけで不幸にするわけじゃありませんよ。」


 前足をブンブンと降り、慌てて真也を制止する隠。


「……なら、俺に近付いた目的はなんだ?」


 真也は警戒を緩めずに問いかける。


「正直に言いやすと……旦那の舎弟になりたいんでやんす。」


「舎弟だ?」


 隠の話によると、疫病神は怪異としての力は弱いらしく、他の怪異や退魔師にはほぼ対抗手段がないらしい。


「なので、旦那の近くにいる事で、他の怪異から身を守ろうって魂胆ですよへへへ……」


「……で? お前を近くに置いて、俺に何の得があるってんだ?」


 隠はその問いかけを待っていたかのようにニヤリと笑う。


「例えばさっき旦那が追い払った連中、何度も来られたらうんざりでしょう?」


「……まあな。」


「ご安心くだせぇ、あの二人との縁は切っておきましたぜ。」


「なに?」


 隠の説明によると、疫病神は"厄"を操る事である程度の運や人との縁を操れるという。


「人間ってのは、色々と厄介な連中でやんすからねぇ、色々と姑息な手で復讐を企む奴らも多いんでやんす、そこで、あっしの出番という訳です。」


 隠は真也の前を歩いて横切った後、器用に二本足で立ち、自分の胸に前足を当てる。


「あっしの力なら、ああいう連中との縁を切って、二度と関われねえようにする事も、不幸な目に遭わせて痛めつける事もできますぜ。」


 さらに隠はベンチに上り、真也の隣に立つ。


「さらに、あんたに大事な人がいれば、その人の厄を取り除き、不幸から守る事もできます。」


「さらにさらに、長く生きて来たあっしは、人間社会を色々見て来やしたので、それなりに知識もありやす!」


 隠は大げさに両前足を広げる。


「いかがですか旦那、あっしは人間社会で生きて行く上で、役に立つ事間違いありませんぜ。」


 真也に向かって器用に両前足をすり合わせる隠。


「……断る。」


「ありゃ!?」


 しばらく黙っていたが断る真也、隠はずっこけてベンチから落っこちた。


「悪いが、いまいちお前の事を信用できねえんでな。」


 立ち上がってランドセルを背負い歩き出す真也。


「そんな! 待って下さいよ!」


 慌てて真也を追う隠。


「ついて来んな、俺は別に舎弟なんて求めてねえんだよ。」


 真也は鬱陶しそうな顔を隠に向ける。


「お願いしますよ旦那、ご迷惑はかけませんて!」


 帰り道を歩く真也に着いて行く隠、しかし、真也は無視して歩き続ける。


「……ん?」


 しばらく歩いていると、隠の声が聞こえなくなったので振り向く真也、すると、隠の姿は見えなくなっていた。


(……ようやく諦めたか。)


 真也は少々安堵したような表情で再び歩き出す。


 しばらく歩くと、住宅街の中に1階がパン屋になっている3階建ての建物が一件建っていた、ここが真也の自宅である。


「ただいま。」


「おお、真也、お帰り!」


 カウンターにいた眼鏡をかけた男性の店主が真也を明るく迎える、真也の父親だ、真也はそのまま2階への階段を上がり、上がった先のドアを開けて入る。


「ただいま。」


「あら、おかえり真也。」


 長い髪を後ろに束ねた女性が真也を迎える、真也の母親だ。


「ん?」


 靴を脱いだ真也は違和感に気付いた、香奈の靴ではない女の子の物と思わしき見慣れない靴があったのだ、真也が不思議に思っているとリビングから走って来る二人の足音が聞こえて来た。


「お兄ちゃん、お帰り!」


 リビングから走ってきたのは香奈と揚羽だった。


「揚羽、来てたのか。」


「お兄ちゃんも一緒にゲームやろ!」


「おい、ちょ……!」


 元気に真也の腕を引っ張りリビングに向かう香奈。


「ふふ……」


 母は兄妹の仲良しなやりとりに笑みを零す。


「てめ……! この……!」


「隙あり!」


「ああっ!!」


 その後、3人はレースゲームで対戦していた、香奈がアイテムで真也を妨害し、香奈と揚羽がゴールする。


「やったー! 私の勝ちー!」


「えへへ……」


「くっそー……」


 元気に喜ぶ香奈と控えめに笑う揚羽に対し悔しそうな真也、どうやらゲームはそこまで強くないようだ。


「はーい、ゲームはここまで。」


「えー……」


 母にコントローラーを取り上げられ不満げな香奈。


「しょうがねーだろ、諦めな。」


 飲み物を求めて台所に向かう真也。


「ちぇー……あ、そういえば揚羽ちゃん。」


「なに?」


「前に学校でお化けを見たって言ってたけど、どんなお化けだったの?」


「え?……えーと……女の子だった。」


「女の子?」


 揚羽が言うには、校庭の真ん中で黄色い着物を着たおかっぱ頭の女の子を見たという、その女の子は揚羽と目が合うと、スーッと消えていったようだ。


(なるほどな……)


 麦茶を飲みながら話を聞いていた真也。


(あいつらに何かあったらまずいしな……明日調べてみるか……)


 そう思う真也は香奈と揚羽を見つめていた。

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