第五話

 旧校舎に入った真也と麗華、すると、直後に異変が起こった。


「玄関が消えた……?」


 周りを見回す真也、そう、先程男子グループが入った時と同じように玄関が消え、廊下だけになってしまったのだ。


「この旧校舎自体が“幽界ゆうかい”になっているのよ。」


幽界ゆうかい……?」


 麗華が言う“幽界”とは、上級の怪異が作れる外界と隔離された異空間を示すという。


「その幽界ってのは、作った奴をぶっ倒せば消えるのか?」


「うん……だけど、幽界の様子からして、かなり強い怪異だと思うから、倒すのは無理かも。」


「マジか……やっちまったな。」


 不用意に入った事を悔やんでいる様子の真也。


「私の力で少しの間弱らせる事は出来ると思う、そうすれば幽界も少しの間弱くなる筈だから、その間に出るしかないわ、けどその前に、ここに入った3人を探さないと……」


「ここに入った3人って、あの馬鹿野郎共か?」


 麗華はコクリと頷く。


「ここに入った以上、置いて行く訳にはいかないでしょう。」   


「自分達で入ったんだぜ、自業自得って奴じゃねえのか?」


 麗華は首を横に振る。


「だとしても、見捨てられないよ。」


「……」


「お願い、協力して。」


 強い瞳で懇願する麗華に対し、真也は前世の事を思い出した、それは、欲にかられた盗賊が古代の遺跡にて不死王リッチの封印を解いてしまった時の事である……


『た……助けてくれぇ!!』


『許してくれぇ!!』


 盗賊達は腰を抜かして後ずさっている。


『愚カ者メ……欲ニ駆ラレテ我ノ封印ヲ解クトハ……』


 盗賊の目の前にいるのは漆黒のローブに黄金の装飾を身に着けた骸骨であった。


『愚カナ人間ヨ……我ガ眷属トナルガイイ!!』


 不死王が生成した漆黒の魔法陣から黒い矢が放たれる。


『い……嫌だぁぁぁーーー!!』


『止めてくれぇぇぇーー!!』


 黒い矢が盗賊達を捕らえようとしたその時、勇者セリカが盗賊達の前に割って入り、その剣で黒い矢を斬り払った。


『!?』


『お……おい!』


 セリカの行動に驚く盗賊達とアルゲルス、アルゲルスは中型犬程の大きさになっている。


『逃げて! 早く!』


『あ……ああ。』


『すまねえ!』


 盗賊達は逃げ出した。


 『ソノ剣……成程ナ……貴様ガ勇者カ……』


 セリカと対峙した不死王は威圧感を放つ。


『貴様ノ血肉ト魂……我ガ力トシテクレヨウ!!』 


『……ッ!!』


 セリカは剣を構える。


『……クソッ! 馬鹿が!!』


 小さくなっていたアルゲルスは元の姿に戻り勇者に加勢、その後、二人はなんとか不死王を倒したのだった。


『……なあ。』


『なに?』


 不死王を倒した後、アルゲルスはセリカに問いただす。


『何故あいつらを助けた?』


『……え?』


『不死王を倒さなきゃならねえのは分かるが、あいつらに関してはどう見ても身から出た錆だろ、助ける意味があったとは思えねえぞ。』


 アルゲルスの問いかけに対し、セリカは悩んでいた。


『うーん……そう言われると言い返せないんだけど……やっぱり、放っておけないんだよね。』


 セリカは苦笑しながら答えた。


『周りからもよく言われるよ……お人好しだって……自分でも、わかってるんだけど……だけどそれが、私のやりたい事だから。』


 真也は思い出していた、そう言うセリカの満面の笑顔を。


「真也くん?」


 突然黙り込んだ真也を不思議そうに覗き込む麗華。


「わかった、協力するよ。」


「……ありがとう。」


 優し気な笑顔で礼を言う麗華。


「まあ……どのみち俺もあいつらに用があったし……不用意に入った俺にも責任はあるしな。」


 真也はやや気恥ずかしそうに眼を逸らす


「さっさと行くぞ。」


「うん。」


 男子グループを探す為、近くの教室に入る二人。


「おーい馬鹿共、いるかー?」


 教室を見回す二人。


「いないみたいね。」


「だな、他へ……」


 二人が教室を出ようとしたその時、教室の扉が独りでに閉まった。


「なっ!?」


「なんだ……!? クソ……」


 真也は扉を開けようとするが、扉は全く動かない、さらに周りの机や椅子がガタガタと動き出す。


「まさか……」


 麗華の予感が的中、机や椅子が宙に浮き、二人に向かって飛んでくる。


「危ねえ!!」


「キャッ!?」


 真也は麗華を抱えて飛んできた物を避ける。


「……!?」


『ヒヒヒヒヒヒ』


 よく見ると、教室の中には多数の悪霊が蠢いており、その悪霊達が教室の物を動かしていた。


「あいつら何故……」


 実体を持たない筈の霊が物を動かしている事に戸惑う真也。


「幽界の主の力で、物を動かせるようになったのよ。」


「チッ……厄介だな。」


 さらに物が飛んでくる。


「喰らうかよ!!」


 真也は近くの机を立て、悪霊の攻撃を防ぐ、さらに物が飛んでくるが、机を使って防ぎ続ける。


「……このままじゃ……まずいな……」


「そのまま防いでて!」


 真也が悪戦苦闘していると、麗華は真也の後ろに隠れたまま数珠を取り出す。


「祓いたまえ、清めたまえ……」


 麗華は呪文を唱え始める、すると、麗華の身体が淡い光に包まれる。


(……? これは……)


 長い呪文を終えると、麗華は真也の前に出て数珠を構える。


「オン・アビラウンケン・ソワカ……ハアアアーー!!」


『ギエェェェーーー!!!』


 数珠を振ると、麗華の前に五芒星が現れ、強い光が放たれる、すると、悪霊達は一瞬にして消え去った。


「ふぅ……」


 麗華は一安心といった様子でため息をつく。


「そう言えばさっきも使ってたな、今のはなんだ?」


「悪霊や妖魔への対抗するための術……といった感じね。」


 麗華は数珠を見せながら説明する。


「実は私の家は代々退魔師の家系で、この校舎の事もある程度家で聞いてたの。」


 麗華は説明しながら歩き出し、真也も麗華について行く。


「元々この校舎は場所が良くなかった上に、建てる時に必要な儀式を怠っていたから、良くない霊が集まっちゃったみたい。」


「なら、この校舎を潰せば良かったんじゃねえのか?」


 真也の疑問に対し、麗華は首を横にふる。


「建ててから長い時間が経過したせいで、もうこの建物自体が境界線のようになっているから、下手に壊したりしたら幽界が広がる可能性があったみたいなの、だから厳重に封鎖するしかなかったらしいわ。」


「……成程な……!」


 二人で廊下を歩いていると、廊下の奥からボールや箒など様々な道具が飛んできた。


「オラァ!!」


 真也は飛んできたボールを蹴り返した後、飛んできた箒をキャッチして振り回し、飛んできた道具を叩き落としていく。


「祓いたまえ、清めたまえ……」


 真也が攻撃を防いでいる間に、麗華は先程と同じように呪文を唱える。


「ハァァァーーー!!」


『ギャーーーー!!!』


 廊下に蠢いていた悪霊達は、麗華の術で消滅した。


「真也くんがいてくれて良かった、結構詠唱に時間がかかっちゃうから。」


「……俺も、お前がいなかったら危なかったかもな……その……ありがとよ。」


 ぎこちないお礼を言う真也、それに対し麗華は微笑みを向ける。


 その後、二人は1階を一通り見た後2階に上がり、悪霊達を退けながら進んで行く。


「この調子で行けば、大丈夫そうだな。」


「ううん、幽界のぬしが相手になると、恐らくこうはいかないわ。」


 楽観的な真也に対し、警戒している様子の麗華。


「主が出て来る前に、3人を見つけないと……」


『ギ……ギ……』


「!?」


「!」


 突然廊下の階段から唸り声が響き、二人は階段に目を向ける。


『ギ……ギギ……』


 ギシギシ階段の軋む音と共に、廊下の階段を巨大な影が降りて来る。


「まさか、こいつが……」


「間違いないわ……幽界の主よ。」


 階段から現れたのは、廊下を塞ぐ程の巨大な異形の怪物だった、全体的なシルエットは蜘蛛のようだが、その頭部は髪の長い青白い顔の女性、しかし犬歯が異常に伸びており、唇を含めた下顎全体からも長い髪のような髭が生え、その髪と髭が蜘蛛の体を形成、さらに左右からは青白い人間の腕と足が互い違いに生え、4対の肢となっている。


『ギギ……ギ……ギ……』


 主は、濁った金切り声のような唸り声を上げ、ニヤリと笑って二人を見つめる。

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