第四話

 男子グループは真っ暗な旧校舎の廊下を懐中電灯で照らしながら進んで行く。


「うう……」


「やっぱ怖えよ……」


 男子グループの二人は怯えている様子だった。


「な……なんだよお前ら、ビビってんじゃねーよ、情けねーなハハハハ!」


 リーダー格の男子はそんな二人を笑っているが、内心では怖くなってきているようだった。


「おい……もうこの辺で良いんじゃねえか?」


「まだだよ、なるべく奥に誘い込んでから……」


 その時、横の教室からガタガタと物音が聞こえたので、男子達はビクッと慄き、教室をライトで照らす。


「誰も……いない筈だよな。」


「き……気のせいだよ! 先に進……」


 リーダーの男子が先に進もうとした時、ガタンっとより一層強い物音が響いた。


「……戻ろうぜ。」


「そ……そうだな。」


 踵を返す男子グループ、リーダーの男子も完全に怖気づいたようだ。


「……」 


「……」


「……な……なぁ。」


 男子グループは廊下を進んでいたが、妙な違和感を感じていた。


「俺達……校舎に入ってから、そう進んでなかった筈だよな……」


 男子グループの一人は、その問いかけに対しコクリと頷く。


「玄関は……どこだ?」


 そう、どこまで歩いても廊下が続くだけで入って来た筈の玄関が見えないのだ。


「どうなってんだよ……これ……」


「どうすれば……出られるんだ?」


 男子グループが戸惑っていると、一人が肩をポンポンと叩かれる。


「? なんだよ……」


 振り向くと、そこにあったのは男子グループが持って来た幽霊の衣装だった。


「ぎゃあああ!! 」


 肩を叩かれた男子は衣装に驚き、尻餅をつく。


「……ば……馬鹿野郎!! 悪ふざけはやめろよ!!」


 他の男子に驚かされたと思った男子は怒った様子で突っかかる、しかし……


「……おい。」


「……誰だ? それ……」


「……へ?」


 尻餅をついた男子が振り向いた、そう、この男子がいるのはメンバーの1番後ろ、即ちその後ろには誰もいない筈なのだ。


「ヒヒヒヒヒヒヒ!!」


 持ち主がいない筈の幽霊の衣装は勝手に浮遊し、動き、笑っていた。


「「「ギャアアアアア――――――!!!!!!」」」


 男子グループは悲鳴を上げ、逃げ出した。


「な……何だよあれ!! どうなってんだよ!!」


「知らねえよ!! てか知るわけねえだろ!!」


「良いから逃げるんだよ!!」


 男子グループは廊下を走り、階段を上り、教室に逃げ込む。


「ハァ……ハァ……」


「何なんだよ……一体……」


「だから……止めた方が良いって……」


 息を切らしている男子グループ、その目の前の閉めた扉に大きな影が現れた。


「「「……」」」


 恐る恐る振り向く男子グループ。


「「「アアアアアアアア――――――!!!!!!」」」


 男子グループの悲鳴が旧校舎に響き渡る。


 一方その頃、真也達3人は……


「……!」


「揚羽ちゃん、どうしたの?」


 旧校舎の近くまで来ていたが、揚羽が突然歩みを止めた。


「何か……変。」


「変って、何が?」


「何か……前より怖くなってる。」


 どうやら揚羽は旧校舎に起こった異変を感じ取ったようだ。


(確かに……何か妙な気配を感じるな。)


 異変を感じているのは真也も同じのようだ。


「……ここからは俺一人で行く。」


 真也はランドセルを肩から降ろした。


「え?」


「お兄ちゃん?」


「お前らはここで待ってろ。」


 真也はランドセルを香奈に渡した。


「本当に……大丈夫?」


 揚羽は心配そうな表情をしていた。


「どのみちお前らがいたって何も出来ねえだろ。」


 そう言うと真也は旧校舎に向かって行った。


「……すごいね、真也くん……」


「そうなのよ、お兄ちゃんって前から、怖いもの知らずって言うか……物怖じしないっていうか……」


 二人は不思議そうな表情で旧校舎に向かう真也の背中を見つめていた。


 一方その頃、旧校舎では……


「……遅かった。」


 真也よりも一足先に麗華が訪れていた、麗華は巫女服に着替えている。


『ケケケケケケケ』


『ヒェヒェヒェヒェヒェヒェ』


 校庭では多数の悪霊が蠢いていた、それは男子グループが板を外した玄関から出て来ているようだった、


『ケケケケケケケ』


『ヒェヒェヒェヒェヒェヒェ』


 麗華に向かって行く悪霊達、それに対して麗華は数珠とお札を取り出し、呪文のような言葉を唱える。


「ハァ!!」


『ギェエエエエ!!』


 麗華がお札を振ると、悪霊達は悲鳴を上げて消え去った。


「お前……天宮寺か?」


 名前を呼ばれたので振り向く麗華。


「真也君!?」


 そこにいたのは封鎖された校門を乗り越えようとしている真也だった。


「よっと。」


 校門から飛び降りる真也。


「駄目よ戻って! ここは危険よ!」


「危険って、あいつらがか?」


 麗華は真也が目を向ける先に振り向く、すると尚も多数の悪霊が玄関から出て来ていた。


「まだこんなに……」


 麗華は悪霊を祓おうと身構える。


「……真也くん!?」


 しかし、真也は麗華には目もくれず悪霊達に向かって歩き出す。


「駄目よ、下がって!」


 麗華は下がるよう忠告するが、真也は無視して向かい続ける。


『キャキャキャキャー!!』


「……!」


 悪霊達は真也を取り囲み、麗華は札と数珠を構える。


『キャ……!?』


「……え?」


 しかし、悪霊達は突然戸惑うように動きを止めた、麗華もそんな悪霊達に対して若干の戸惑いを見せる。


「……失せろ。」


 真也は悪霊達を睨みながら言葉を放つ。


『キ……キェエエエエーーー!!!』


 それにより、真也から強大な何かの気配を感じた悪霊達は逃げるように旧校舎に戻っていった。


「……一体、何をしたの?」


「何をって……脅しただけだが?」


 真也の隣に駆け寄り問いかける麗華、対して真也はしれっと答える。


「お……脅した?」


 麗華は真也の言葉が信じられないといった表情だった。


(どういう事……? 幽霊に全然怖がらないどころか向こうが怖がるなんて……)


 軽く混乱している様子の麗華、真也が前世で魔王や不死王リッチなどそんじょそこらの幽霊より遥かに危険な相手と戦ってきた事など知る由もないので無理もないだろう。


(初めて見た時、只者じゃないとなんとなく感じてはいたけど……)


「あなた一体……って、あれ?」


 麗華は真也の方に向き直るが、真也はいつの間にかいなくなっている、辺りを見回すと、真也は既に旧校舎の玄関をくぐっていた。


「ちょ、真也くん待って!」


 慌てて真也の後を追う麗華。


 その頃、旧校舎の廊下では……


『ギ……ギ……』


 まるで蜘蛛のような、廊下を塞がんばかりの巨大な影が蠢いていた。

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