プロローグ3
(ここは……どこだ……)
アルゲルスは何も無い空間を漂っていた。
(そうか……俺は……死んだのか……)
アルゲルスは自身の一生の最後に見たセリカの泣き顔を浮かべていた。
(セリカ……)
そして、勇者セリカとの旅を思い出していた、魔王を倒す旅の最中に出会い、時に手を組み、時に争った様々な人間を、身体を縮めて傍から見ていたセリカと人間達の交流を。
(できる事なら……もっと、人間を知りたかったな。)
(……ん?)
アルゲルスが物思いにふけっていたその時だった、アルゲルスは自身がどこかに引っ張られるような感覚を覚えた。
(なんだ……?)
その感覚はどんどん強くなる。
(何が……どうなってやがる……?)
そして、とてつもない勢いでアルゲルスはどこかに引っ張られる。
「う……うおぉおおおぉぉーーーー!!!」
その引っ張られる感覚が収まると、アルゲルスの目の前が真っ暗になった。
(……?)
アルゲルスが目を開けると、そこには見た事も無い白い天井が広がっていた。
(ここは……どこだ……?)
アルゲルスは目の前にあった棒状の照明に手を伸ばすが……
(!?)
その手は明らかに自分の物ではなかった、小さく丸い、さらに自慢のかぎ爪どころか鱗さえ無い、それはまるで……
(人間の……手!?)
そう、アルゲルスは人間の赤ん坊になっていたのだ、 しかし、アルゲルスは自分の姿が見えないので気付いてない。
(いったい……何がどうなってやがる……!?)
アルゲルスが困惑してると、部屋の扉が開いた。
「優香! すまない、遅くなって……」
部屋に入って来たのは、三十代前半程の眼鏡をかけた男性だった。
「あなた……」
ベッドには長い髪の女性が横になっていた、どうやら男性の妻のようだ。
「……」
男性はアルゲルスの顔を覗き込む。
「ようやく……生まれたんだな。」
「ええ……私たちの子よ。」
二人は眼に涙を浮かべて赤ん坊のアルゲルスを見ていた。
(子……? まさか……)
アルゲルスも自分が人間に生まれ変わっている事に察したようだ。
(嘘だろ……そんな事が……ん?)
アルゲルスは自身の両親と思わしき人物の背後に違和感を感じた。
『ケケケケケケケ』
『ヒヒヒヒヒヒヒ』
『…………………』
両親の背後には黒く禍々しく不定形な何かが多数蠢いていた。
『シネ……シネ……』
その何かは両親の背後から赤ん坊のアルゲルスに近寄って来た。
(こいつら……)
そして、それらが自身に向けているのが害意であると、本能で察したアルゲルスは……
『消エ失セロ、虫ケラガ!!』
それらを、威圧した。
『―――――――――――――――!!!!!』
すると、威圧された者達は怯えたような悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らしたように霧散した。
「!?」
同時刻、病院から離れた日本のとある神社にて、巫女装束を纏った一人の少女は何かを感じ取り、振り向いた。
「どうかしたのですか? 麗羽。」
傍にいた髪の長い女性が少女に尋ねた、女性は妊娠しているらしくお腹が膨らんでいる。
「お母さま……今、何か途轍もなく大きな力が動いたような……」
少女が見つめるのは、アルゲルスが生まれ変わった病院の方角だった。
同時刻、イギリスのとある場所にて、黒い装束を身に纏った老婆が、机に向かい、散りばめられたカードの中の1枚を手に取った、そのカードはタロットカード、塔の逆位置。
(……天変地異、またはそれに匹敵する何かが……。)
老婆は冷や汗を垂らすと、横に置いてあった水晶の球に手を添える。
(場所は……日本か。)
『本日13時頃、日本各地の動物達に異常な行動が見られました、専門家はこの行動に対し、何らかの大規模な災害の前兆である可能性があると指摘しており……』
その日の夜、病院のテレビではニュース番組が放送されていた、そのニュースでは動物達がまるで何かから逃げようとしているように騒いでいる様子が映されている。
「なんか、物騒なニュースですね……」
「……はい……」
そのニュースを見ていたアルゲルスの父親は苦笑しながら隣に座っている老人と話していた。
「
(クッ……この俺が……こんな……)
一方アルゲルスは、最強を誇っていたドラゴンである自身が人間の赤ん坊としてあやされている事に屈辱と恥辱を覚えていた。
こうして、異世界最強の竜、輝煌龍アルゲルスは人間、
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