プロローグ2
魔王の最大級の魔法により、瓦礫も残らず吹き飛んだ魔王城、その跡地には煙が立ち込めていた。
「ヌ……ヌゥゥ。……」
やが煙の中で一つの影が立ち上がった、立ち上がったのは魔王だった。
「フ……フフ……フ……フハ……ハハハ……」
魔王は自身の魔法により瀕死の状態だが、その顔は笑いが浮かんでいた。
「フハハハハハ!! やった、やったぞ! 勇者は死んだ! もはや我の障害となる者はいない、我の天下だ!!」
魔王は勇者が死に、自身が世界を征服したと思い、歓喜の声を上げる、しかし……
「ハハハ、ハハハハ……ぬ?」
魔王は煙の中から何かが自分に向かって来ている事に気付いた。
(なんだ……? まさか……)
「……ハアアアアアアアーーーー!!」
「な!!」
それは、自身の魔法により、跡形も無く消し飛んだ筈の勇者だった、勇者はボロボロになった姿で剣を構え、魔王に突っ込んで行く。
「ば……馬鹿な……!!」
その剣は、魔王の身体に深々と突き刺さった。
「グァ……!!」
そして、剣から聖なる力が魔王に注ぎ込まれた。
「ア……アアア……」
(な……何故だ……あれ程の威力の魔法で……生きて……そんな筈は……!?)
魔王は気付いた、煙の中で横たわるアルゲルスに。
(……へへ……)
アルゲルスは瀕死の状態だが、こちらを見て笑みを浮かべていた。
(ま……まさか……自身の持てる全ての力で……勇者を……守ったのか……)
剣の聖なる力によって、魔王の身体に亀裂が入る。
(何故だ……何故……自分の身を……犠牲にして……まで……)
「アアア……ァァ……ァ……」
魔王の身体の亀裂から光が漏れ出し、さらに亀裂が大きくな
(馬鹿な……我が……こんな……所で……)
「ガ……ガアアアアーーー!!!」
魔王は断末魔の叫びを上げると、眩い光と共に消滅した。
「ハア……ハア……アル!」
魔王を倒した勇者は剣を手放すと、アルゲルスに駆け寄った。
「ハ……ハハハ……ざまあ……見やがれってんだ。」
アルゲルスは魔王の魔法により瀕死の状態だった。
「アル! しっかりして、今治すから!」
「……止めとけ……無駄だ……」
勇者は傍に座り込み、魔法で治そうとするが、自身の命が尽きかけている事を悟ったアルゲルスは勇者を止める。
「最後に……一つ……伝えておきたい……」
「え?」
アルゲルスは弱々しい声で勇者に語る。
「さっき……魔王に……きかれた事だ……」
「最後って……何言ってるの……?」
「俺が……人間に……味方した……理由……」
アルゲルスは左手を勇者に添えて話し続ける。
「お前にだけは……話して……おきたい。」
アルゲルスは瀕死の状態で、自身が勇者と出会った時の事から話し続ける、最初は自身の命を狙う魔王を討つため、即ち単なる利害の一致からの協力だった、その為、身体を小動物のように小さくして自身は勇者の旅に同行した。
「俺は最初……人間を……脆弱で……一人じゃ何もできない……種族だと……思っていた。」
「けどよ……お前との旅……色々……あったよな。」
アルゲルスは話し続ける、勇者との旅で起こった出来事を、勇者が同じ人間である山賊と闘い、山賊の一人が改心して勇者に味方した時の事、人間でありながら魔王に組し、勇者を騙した魔法使いの事、そして勇者が村を守る為スケルトンの軍勢に一人で立ち向かい、その勇者に何の力も無い筈の村人が農具を武器として加勢した時の事。
「そして……お前と旅をする内に……思ったんだ……」
「人間ってのは……面白い連中だ……ってな……」
「アル……」
勇者の眼に涙が浮かぶ。
「短い付き合いだったが……お前との旅は……俺の生涯で……一番……楽しい……一時だったぜ……」
「何言ってるのアル、死んじゃダメ!!」
「まさか……この俺の最後が……人間を庇って……だが……悪くねえ……気分だな。」
「さよならだ……幸せになれよ……セリ……カ……」
最後に勇者の名前を呼ぶと、アルゲルスはそっと目を閉じた。
「アル……? ねえアル……? 返事してよ、目を開けてよ。」
勇者は涙を流しながら呼びかけるが、アルゲルスは答えない。
「お願いだから……答えてよぉ……アルゥゥゥーーーー!!!」
やがて、少女の泣き声が響き渡った、長い時を生きた一頭のドラゴンの生涯は、ここに幕を閉じたのだ。
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