七十八話 剛勇の勇者と西の地と


 ポトム王国にも夏の足音が聞こえてきた。

 都市の周りでは荒野が白のベールを脱ぎつつあった。


 王国南部の都市ガヤ。

 アップルトン公爵が治める南部最大の町。


 シトラスとミュールは領主の館に与えられた部屋から街を見下ろしていた。

 街の雪化粧も季節と人の活気にすっかり薄くなっていた。


「雪解けの季節か。時間って言うのは来るまでは長く感じるが、来てしまうと速く感じるよな」

「そうだね。南の夏は短いとも聞くし」


 智勇の勇者は哨戒任務中にはぐれて行方不明。

 彼女の死はそう処理されていた。


 勇者を殺すほどの魔物がガヤ近辺にいるのではないか。

 一時期はそういう噂がまことしやかに囁かれていた。


 勇者の歴史を知る者は、思うところ、察するところがあるのかもしれない。

 それでも、それを言及する者はいなかった。


 魔具を用いて王都の魔勇の勇者に連絡を取った際にも、何も言われなかった。

 魔勇の勇者は智勇の勇者と仲が良さそうであったので、言われるとしたら彼女かと身構えていたが、それは杞憂に終わった


 魔具を通じた通信では特に何か言われることもなく、ただ次の指示を受けた。

 いらぬ噂を避けるため、シトラスは半年ガヤに留まること。

 それが魔勇の勇者からの指示であった。

 

『――勇者が死んですぐに撤退しちゃうと、勇者の沽券にかかわるからね! 半年くらいそこにいて! 狂化した魔族の討伐に加えて、フロス公国の侵攻をせいだ防備の休暇だと思って! やったね!』


 それ以来本当にただの一度も勇者の通信魔法具に連絡はない。

 マーテル王からの伝令を務めたアドニスも、用が終わると王都へとんぼ返りしていた。


「なぁシト」

「希望の勇者」


 今生陛下マーテルより与えられた勇者の号――希望の勇者。

 王が代替わりしてから初めての勇者。

 王城で出会った勇者たちとは異なり「勇」をその名に宿さない二つ名。

 あらたな治世の希望となるべき勇者。


 ミュールは肩を竦めて、

「何でもいいよ。シトはシトだろ?」

「むぅ……」


 希望の勇者を名乗ったときから続く二人のやり取り。


 不満そうなシトラスを無視してミュールは話を続ける。

「雪解けがの季節が来たのはありがたいが、春から夏にかけて活発になるのは人だけに限らない。最近また魔物の目撃情報も増えてきているぜ」


 名前付きや狂化した個体以外は軍や冒険者たちへ。

 それでも手に負えない個体に対して勇者の出番がある。

 勇者が出ればすぐに終わるかもしれない。


「そう考えると智勇の勇者はよくやってたんだな。加えて俺たち後進の育成まで」

「……そうだね。彼女の分までぼくは人を守るよ」

 シトラスは目を伏せてしんみりとそう言った。


 部屋に沈黙が流れた時だった。


 シトラスは胸元に振動を感じた。

 それは貝殻状の通信魔具であった。

 ほんのり点滅し、小刻みに震えている。


 この通信魔具は魔力を流すことで、対になる魔具と遠距離通信を可能にしていた。


 シトラスが魔力を流すと、

『やっほー! 希望の勇者の名が馴染んできた頃かな?』

「魔勇の勇者。久しぶり」


 通信の相手は勇者二位、魔勇の勇者であった。キ

 勇者の中でも魔法及び支援担当する魔勇の勇者は、主に王都をキ拠点に活動していた。


『うんうん久しぶりだね? 希望の勇者は、キーくんってよんでもいい? いいよね!? キーくんの次の行き先が決まったよ! どこだと思う? ねぇ、どこだと思う!?』


 智勇の勇者の亡きあとでは、紅一点。

 彼女はいつもハキハキとしていた。

 最年長の年齢か、性別か、はたまた気質ゆえか話しの押しが強いのも特徴であった。


 少し考えたが思いつかなかったので、

「……どこでしょうか?」

 率直に尋ね返すと、

『西だよ! 西! 智勇の勇者の下で魔物について学んだ次は、剛勇の勇者の下で戦争について学ぶといい!』

「ちょっと待って! 魔物退治はどうするの? 智勇の勇者はもういないんだ。ぼくたちの代わりに誰か南へ来るの? 最近魔物の目撃情報も増えているんだ。心配だよ」


 顔見知りもでき、ガヤの町にも愛着の湧いてきた。

 これから魔物が活発になる中での異動命令にシトラスは躊躇ためらう。


『ははは、残念だけど代わりは送れない! ――勇者に代わりなんていないんだよ』


 前半は朗らかに、後半は真面目な声でそう言い切った。


「そんな……」


 話をぶった切るように魔勇の勇者が尋ねる。

『……キーくん! 私が以前に問いの答えを聞いてもいいかい?』


 以前尋ねられた問い。

 ――君にとって勇者ってなに?


 あのとき答えられなかった問いの答えは得た。

 

「人に仇なすものを倒す者――それがぼくの勇者だ」

『いい答えだ。それじゃあ、その『人』って言うのは誰だい? そこにいるガヤの人だけなのかい?』

「それは……」

『悩め若人よ! ただこれは命令だ! 既に話はつけてある! 今すぐ馬で西の国境都市ハーゲンに向かうんだ! それじゃあ!』


 言いたいことだけ言うと通信は切られた。


「え、ちょっとッ! ……切っちゃったよ」


 ミュールは隣で呆れた様子で、

「勇者は人の話を聞かないやつの集まりかなんかか?」

「ねー」


 同意するシトラスは他人事であった。

 ミュールはこっそり小さな息を吐いた。


 ミュールの言う『人の話を聞かないやつ』にはシトラスも含まれていたのであった。


 ◇


 四門の西、ジュネヴァシュタイン家の治める国境都市ハーゲンへと向かう。


 智勇の勇者から引き継いだ勇者専用の馬車の中。

 シトラスとミュールが並んで座っていた。


「まさか、お前も来るとはな……」


 そう言うミュールの向かいに座っていたのは、エステルであった。


「父上の名代でジュネヴァシュタイン公爵に用があるんだ。勇者の護衛付きと思えば渡りに船だよ」


 アップルトン公爵にこれまでの感謝と、魔物の活発になる時期に去る謝意を伝えた際に、公爵よりエステルを一緒に連れていってくれるように頼まれていた。


 それをシトラスが快諾した結果、三人と御者で西の国境都市を目指すことになった。


 立ち寄った村々で、依頼と引き換えに物資を補充して三人は進む。


 何度目かに立ち寄った村で依頼をこなした際にエステルは、

「勇者というのはもっと……直接的なものだと思ったよ」

 言葉を濁しながら驚きを漏らした。


 シトラスが席を外している馬車の中、

「あぁ、シトは希望の勇者になったかもしれない。でも根っこはシトだ。俺の幼馴染は良い奴だろ?」

 ミュールはそう言って笑った。


 勇者のもつ勇者特権の一つに、押収権というものがある。

 ありていに言えば、略奪の自由である。

 実際にシトラスが地下都市で初めて魔物討伐に挑んだ際に、智勇の勇者は商会から移動の手段として馬を徴発していた。


 正式に勇者となったシトラスには、物資の補充を依頼と引き換える必要もない。

 ただ、シトラスの矜持の問題であった。

 その矜持は一方的に他者から奪い取ることをよしとしなかった。


「本当に。勇者にしておくのが勿体ないくらいだよ」

 

 エステルもそう笑い返した。


 ◆


 ガヤの町を出て二週間を過ぎようとかいう頃。

 王国西部の中核都市シュリヒテに立ち寄った。

 エステルをジュネヴァシュタイン公爵へ送り届ける為である。

 

 竜を象る旗に、銅像。

 アーブの森を除けば、王国西部は竜種ポトム王国で最も竜種の住まう土地。

 そこを治めるジュネヴァシュタインと竜とは強い繋がりがあった。


「ありがとう、希望の勇者。私も用が終わり次第ハーゲンへ向かう」


 シュリヒテで物資の補充を済ませ、それから一週間をかけてさらに西へ。

 ついにラピス帝国に面する王国最西端の都市ハーゲンへとたどり着いた。


 西へ進めば進むほど、空気は乾き、その気温が高くなる。

 昼時にハーゲンに着く頃には、視線の先が蜃気楼を起こすほどの熱を持っていた。


 都市を前にしてシトラスが口を開く。

「ここがハーゲンか。思ったよりもあれだね」

「あぁ、てっきりガヤみたいな城塞都市かと思っていたが真反対だな。壁一つない。これが本当に国境上の都市なのか?」


 都市の前では検問こそあったものの、それもだいぶおざなりなものであった。

 アドニスから渡されていた勇者の印章を見せるだけで簡単に都市へ入ることができた。


「独特な町だね」

「建物がこれ全部が石と土で作られているか」


 都市の特徴は、外壁がないこと以外にもう一つ特徴があった。

 それは建築物のすべてが石と土で作られていること。

 つなぎ目がないシームレスな建築物たちは、この都市の無骨さを表していた。


 シトラスはキャビンの小窓から、ゆっくりと流れていく都市を深そうに見つめる。

 魔具により室内は快適な気温が常時保たれているが、外は違う。


 照りつける太陽と乾いた空気。

 昼時だというにもかかわらず、外を出歩く人の姿はなかった。


「まずはこの都市の代官への挨拶と、それが済んだら剛勇の勇者を探そう」


 無人の野を行くが如く、シトラスは都市の大通りをまっすぐに進んだ。


 都市の中心部と思われる開けた十字路に差し掛かり、馬がその足を止めた。


 それを怪訝に思い、シトラスが御者とキャビンを繋ぐ小窓を開ける。

 たちまち蒸し上がるような熱風が室内の冷気を奪っていく。


 シトラスがそれに眉を顰めながら、

「どうかしたの?」

 と尋ねると、御者の男は、

「代官の屋敷の所在がわかりません」


 多くの場合、権力者の住居は高所か中心部にそれとわかるように配置されている。

 しかし、ハーゲンはそうではないという。


 平坦な地であるハーゲンの建築物はどれも似たような高さ。

 石と土で作られた同じような無骨な外見。


 都市の中心部に来てもそれが変わることはなかった。


「わかった。それじゃああの角の――酒場かな? そこで止まって、そこからは足で探す」


 宿屋と食事処を意味するシンボルが飾られた建物を指差す。

 承知しました、という御者の言葉に小窓を閉じた。

 立った短いやり取りでも、背中に少し汗をかいていた。


 ミュールもパタパタと手で顔をあおいでいた。


 馬車が止まったのは十字路に面する大きな建築物の軒下。

 高さは他の建物とそう変わらないが、その幅は三倍ほどあった。


 二人は御者を残して、室内へと足を踏み入れる。


「わっ……」

「うおぉ……」


 足を踏み入れた先で二人は驚く。


 それは一種の宴であった。


 建物の中は武装した戦士たちで溢れていた。

 空調を管理する魔具を使用しているのか、外気温より涼しい室内。

 しかし、戦士たちの熱気で外の熱とは違った熱があった。


 見渡す限りのテーブル席はすべて埋まっていた。

 昼から酒を煽って肉を喰らう戦士たち。


 シトラスを先頭にカウンター席へと足を進める。

 通り過ぎる顔は誰も彼も楽しそうである。


 カウンター席へと近づいた時、圧倒的な存在感を放つ存在に気がついた。


 満席のテーブル席にカウンター席。

 ただその男の両脇だけが空いていた。


「剛勇の勇者」


 騒がしい喧騒の中、男が振り返った。


 彼は赤褐色の髪と瞳をもつ壮年の男であった。

 鍛え上げられて引き締まった体躯。

 戦歴を物語る顔に深く刻まれた皺と傷。


 振り返った視線には得も言われぬ力があった。


「お前が最後の勇者――希望か。魔勇から話は聞いている」 

「よろしく」


 近付いたシトラスが手を差し伸べたが、剛勇の勇者がその手を取ることはなかった。

 

「――だが、ワシは自分で見たことしか信じないタチでな。希望よ。おヌシの力を見せろ」

「それはいいけどどうやって? 模擬戦でもする?」


「安心せい。この地は争いには事欠かん」


「それってどういう――」

 シトラスの言葉を遮るように、轟音を伴う揺れが建物を襲った。


「ほれ、来たぞ」

 

 その音を皮切りに、戦士たちが次々に外へと飛び出してく。

 シトラスとミュールは事態を呑み込めず、目を白黒させてそれを見送る。


 あっという間に室内は、剛勇の勇者とシトラス、ミュールだけになった。

 従業員たちでさえ、それぞれの武器を手に飛び出していた。

 

「ワシらも行くぞ」


 立ち上がった剛勇の勇者に続くように、シトラスも灼熱の大地へと足を踏み出した。


 一歩外へ踏み出すと、そこは戦場であった。

 店先に転がるのは、真新しい戦士の死体。


 店先だけではない。

 あちらこちらに死体が転がっていた。


 轟音と共に視線の先の建物が崩れて、死体を押しつぶした。


 それが一か所だけではない。

 あちらこちらで起きているのがわかった。


「攻撃を受けている……?」

「あぁ、そうじゃ。その様子だとおらんくなった智勇はともかく、魔勇からもなんも聞いておらんようじゃな。ここは王国最西端の地ハーゲン――血沸き肉躍る戦争の地じゃよ」


 陰から両手剣を握りしめた男が飛び出してくる。

 

 その目を血走らせながら、

「剛勇の勇者ぁぁああああ!!」

 両手で握りしめた大剣を振るう。


 剛勇の勇者はそれをたった左手一本で白羽取りした。


 人外の如き離れ業に驚き、目を見開く相手に、

「失せよ」

 右の拳を叩き込むと、柘榴ざくろのようにその頭は弾け飛んだ。


 頭をなくした体が倒れる前に、剛勇の勇者は大剣を奪い取る。

 奪い取ったそれを確かめるかのように左一本で振るう。


「悪くはない、かの……。さて希望。お主の力を見せてみよ」 

「横からすみません! 剛勇の勇者さま。いったい今なにが起きているのですか? 何をさせようというのですか?」

 会話に割り込んだミュールに冷ややかな表情を浮かべると、

「見てわからぬか? 戦争じゃよ。敵が攻めてきた。ならはやることは一つ――殺せ。一人でも多くの命を。奪え。立ちはだかる敵の尊厳を」


 ――それこそが戦争。


 剛勇の勇者は獰猛な笑みを浮かべた。


 剛勇の勇者はその笑みを消すと、

「なんじゃ? 魔物は殺せても人は殺せないのか? こうしている間にも人は死ぬ。ワシの正義を教えておこうかの」

 今度は探るような視線をシトラスへと寄越した。


 二人の視線が交差する。

 お互いに揺るがないその視線。


「ワシの勇者の在り方せいぎはな――敵を殺すことじゃ」


 シトラスは剛勇の勇者の勇者の在り方に眉をしかめると、

「……ぼくはぼくのやり方でやる」


 戦闘の音が聞こえてくる西へと駆け出した。


 ◇


 都市の西側は無秩序に支配されていた。


 個々の殺し合い。

 規律も常識もそこにはなかった。


 誰が味方で、誰が敵か。

 それすらもわからない。


 轟音と共に建物が崩壊していく。

 ときおり、人を巻き添えにして。


 町の中心部の十字路から西へと伸びる大通り。

 シトラスは愕然とした。


「これが戦争?」

「ひでぇ……。チーブスとの戦争がかわいく見えてくるぜ」


 一歩後ろではミュールが顔を引きつらせていた。


 いつの間にか追いついていた剛勇の勇者が口を開く。


「驚いたか? 西にはのう。軍はあっても軍隊はないのじゃ。それは相手も同じ。かれこれ二十年もこうしておる」

「俺たちが生まれる前から続いているのか……」

 ミュールがここまで口にしてはたと気づいた。

「――待ってください。剛勇の勇者さまがいても止められないのですか?」

「……何を言っておる? ワシがおるからここが落ちんのじゃ」


 そう言って剛勇の勇者が大剣を持って前に出る。

 腰を落として、大剣を担ぐように体を捻った。


 シトラスの魔力視の魔眼には、暴力的なまでの魔力がその体に、その大剣に集まるのが視えた。

 物理的に盛り上がる体躯。

 細身で引き締まった体から、筋肉が脈打つ巨躯へと変わる。


 そして――


 <力こそ正義パワー・イズ・ジャスティス


 ――斬撃が都市を割った。


 敵味方の区分なく飲み込む一撃。


 大地を抉り、人を狩る。

 剛勇の勇者が放った一撃は、都市の入口までの障害物を排除した。


 剛勇の勇者もまた、ギフテッドワン。

 彼のギフトは<無双の怪力>。

 常時で常人の十倍の力を与えるというもの。

 それが魔法で強化されたとあれば、その威力は筆舌に尽くしがたい。

 

 その一撃に敵が引いていく。


 それを容赦なく追い立てるハーゲンの戦士たち。

 彼らもまた巻き込まれたというのに、それを気にした様子もない。


 剛勇の勇者の野太い声が、戦士たちを駆り立てるように響く。

「我々の勝利だッ! だが、まだ足りぬッ! 殺せッ! 一人残らずッ!」


 血はさらなる血を呼んだ。


 それから一時間ほど時間が流れただろうか。

 生きた敵の姿はなくなり、追撃に出た戦士たちもハーゲンへと帰ってきた。


 太陽がその身を沈めた空は、大地へ流れた血が沁み込んだように朱に染まっている。

 この時間になってようやく暑さは和らいできた。


 ひとまず戦争は終わった。

 

 シトラスはそう思っていた。


「みんな……何してるの……?」


 戦士たちが死体から金目の物を奪っていく。

 かろうじて息のある敵はいたぶるように殺し。

 異性は嬲り者に。そして、殺す。


 戦争は終わってなどいなかった。


 目の前で繰り広げられる蛮行に、胃液がせり上げてくる。

 人の形をしたケモノたちがそこにはいた。


 シトラスは酸いた唾液を呑み込むと、一歩を踏み出した。

 しかし、すぐそばにいた剛勇の勇者の手でその肩を掴まれる。


「何をしようと言うのじゃ。お主にあ奴らを止める資格はない」

「なんでッ!?」


 振り返って睨めつけるシトラスに、

「この都市を守ったのは命懸けで守ったのは誰じゃ? お主はその手を汚したか?」


 生き残った戦士たちの標的は敵だけではなかった。

 亡くなった味方からも容赦なく、その装備を剥ぎ取る。


 シトラスが吠える。

「戦場にもルールはあって然るべきだッ!」


 シトラスの肩を握る剛勇の勇者の手に力が籠る。


 シトラスを蔑視の視線で見つめると、

「それがお主の知る戦場か。それは――随分とぬるい世界から来たもんじゃのう」

 

 戦争にも不文律は存在する。

 非戦闘員の保護。捕虜を含む敵への人道的対応。文化財や宗教施設の保護など。

 国や軍事組織を問わず尊重し、従うよう努力するべきもの。


規律ルール常識モラル。それらの戦場の外から持ち込む絶対やくそく。それは戦場のおいて不純物じゃ。戦争はな――勝者こそが規律であり、常識なのじゃ」


 ここに道徳的、倫理的な基準として長い歴史の中で形成された不文律を一蹴する。


「そして、ここハーゲンでは――ワシこそが絶対なのじゃ」


 剛勇の勇者はそう言ってわらった。


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