五十六話 支配と禍根と


 シトラスたちの属するポトム王国北東方面軍の一団は、瞬く間に村落を支配下に置いた。

 村の主な男手は、チーブス王国の徴兵によって村を離れていたため、残された村の住民たちは老人や女子どもばかりであった。

 その村人たちは、突然の敵国兵士の来訪に右往左往するばかりで、なんら組織だった抵抗を行うことはなかった。


 村の有力者たちを村長の家に集めて、北東方面軍から派遣された中隊長は説得を試みる。

 武器を持たぬ者へ、武器を携えた者が行う交渉は交渉とは呼べない。

 説得という名の脅しである。


 中隊が村を支配した次の日には、村の備蓄は北東方面軍の本体の在留する都市サイカへと輸送されることになった。


 恨みがましい村人の視線が、村を去る荷馬車の群れに注がれる。


 村人が変な気を起こさないように警戒する駐屯部隊。

「これが正義なの……?」


 シトラスの姿もその中にあった。


 駐屯部隊の兵たちにより、荷馬車の見送りに集った村人たちは解散させられた。

 「村人は今すぐ己の農作業に戻れッ!!」


 シトラスたち駐屯部隊の仕事は、駐屯する村の監視および農作業の監督である。 

 他の季節と比べると収穫量こそ減るものの、農業に閑散期などない。

 土づくりや芋の栽培に加えて、時折降る雪の除雪など、休む暇もない。


「手を休めるなッ!」

 村に隣接する農耕地に毎日のように鋭い声が飛ぶ。


 手を休めていた村人たちから、兵士たちへ向けて視線が飛ぶ。


 その視線に気がついた一人の兵士は、威圧するように腰に帯びた剣をさする。

 それを見て、反抗的な視線を送っていた村人たちは、慌てて視線を下げると割り当てられた農作業に戻る。


 北東方面軍がこの村を占領して一ヶ月。

 この村では見慣れつつある光景であった。


 長袖の丈に短いチュニック、ズボンの上に襤褸布を纏って働く村人。

 それを厚手の服にマントに身を包む兵士が、土手の上から見下ろしている。


「ちッ……ったく」

 舌打ちをした後に、小馬鹿にしたように口角を持ち上げながら椅子に腰かける。

 その隣に設置された焚火がバチッと音を立てて弾けた。

 兵士は、椅子の上に用意された珈琲を音を立てて啜ると、村人たちのそれよりいっそう白い吐息が吐き出される。


 珈琲の置かれた長机を囲うように座っていた同僚の兵士から声が飛ぶ。

「おい、それよゲームを続けようぜ。お前の番だぞ。有耶無耶になんてさせなーからな」

「わッーてるよ、こっからこっから」

 テーブルの上には、木製のマグに入った珈琲と伏せられたカード、そしてカードの上には硬貨の山。

「とか言ってこの前もコイツの総負けだったよな」

「そうそう、お前ほんとカードゲームは弱いよな」

 他の二人も笑って茶化すと、長机の周りは笑いに包まれる。


 その後も、机の上の硬貨の山が時間と共に形を変える。

 誰かの山が増えれば誰かの山が減る。

 それに喜ぶものがいて、悲しむ者がいて、それを面白がるものがいる。


 彼らの笑い声だけが寒空の下に木霊した。






 男が長机に突っ伏す。

「あーッ、今日も負けたーーッ!!」


 ゲームを始めてから数時間の時間が流れていた。

 一時期取り戻していた机の上の硬貨の山も今はなかった。

 男が突っ伏した際に、その反動でカードが机の上から地面に舞い落ちた。


 ゲームに負けた兵士の隣に座っていた兵士が笑う。

「罰ゲームは村への伝令もだぞ」


「はぁ、わかっている。今から行くよ、くそっ、今日こそは行けると思ったんだがなぁ」

「お前ここに来てからいつもそんなこと言ってないか」

 別の兵士が茶化し、他の二人も笑いながら同意の言葉を漏らす。


 それを聞いて負けた兵士はむくれると、

「うるせー、次だ次。明日取り返すから首揃えて待ってろよ」


 賭け事で取り返すと言い始めたら終わりである。


「明日はたちと組む日じゃなかったか?」

 一人の兵士が、自身の前に積まれた硬貨の山を巾着にしまいながら、その口を開いた。


 負けた男は不満そうに鼻に皺を寄せると、

「あー、そう言えばそうだったか。アイツらノリ悪いんだよな。世間を知らない学生の坊ちゃんたちは青臭い理想を掲げてしんどいんだよな」


 他の兵士たちもその言葉に頭を振る。

「わかるぜ。特に可愛い子にベッタリされてる金厨子がな」

「家を滅ぼされた元貴族サマだろ? アイツはもう貴族がどうかも怪しいって話だぜ?」


 領主であるキノットは書類上の扱いは行方不明ではあるが、その生存は絶望的であった。

 ロックアイス領がチーブス王国により壊滅的な被害を受け、その処理する前にチーブス王国への反攻作戦が決行されたため、ロックアイス家の処遇は宙に浮いていた。

 ロックアイス家の長子であり、シトラスの姉であるベルガモットは、音に聞こえたポトム王国一の才媛。

 しかし、その認知度はまだ上級臣民と一部の下級臣民に留まっていた。


 それまで黙っていた兵士が鼻の下を伸ばして、

「……それにしても、いつも隣にいる女の子は可愛いよな。一度でいいからあんな上物と、な?」

 それをジト目で睨むゲームに負けた兵士は、

「お前って少女趣向ロリコンか? 道理で女っ気がないわけだ」

 と一度は茶化すが、相手の弁解を聞くより前に、

「でも、言わんとすることはわかるぜ。そそる体してるだろ。引き締まった体に理想的なサイズの――」

 と言って、胸の前で二つの膨らみを虚空に描いて見せる。

「――な? それに綺麗な顔立ち。もう十年もすればそそる女になるぜ」

 

「かーッ、俺も貴族に生まれたかったぜ」

「来世の自分に期待大だな」

「でも待ってじゃ現世はどーすんだよ!?」


 喧々囂々と騒ぐ四人であったが、

「じゃあ、俺は村へ行ってクレモの旦那へ報告したら戻ってくる。お前らは下の奴らが変な気を起こさないように、引き続き見張っておいてくれ」

 

 『下の奴ら』と言いながら土手の下で、朝からずっと土を耕し続ける農民たちに視線を送る。


「ああ。だが、心配いらねーよ。こんなジジババと女が集まったところで何ができる? 仮に変な気を起こしたら、生まれてきたことを俺が後悔させてやるよ」


 声を抑えることもなく言い切った兵士は、腰に帯びた剣の柄をさすった。

 他の二人も、それに口角を持ち上げて大きく頷く。


 そのうちの一人が、 

「それにもしも俺たちに何かあったら、村に残したガキを殺してやる」


 あけっぴろげに話す兵士たちに、土手の下から憎々し気な視線が送られてくる。

 手にした鋤や鍬を持つ手を止め、土手の上を睨めつけている者もいた。


 特に村に我が子を置いて農業に従事させられている母親たち。

 彼女たちの顔には、普段我が子に向ける表情とは真反対の表情が、その顔には浮かんでいた。


「――なんだ? 不満そうな顔をしている奴がいるな? 手始めにガキを一匹殺してこようか?」


 男のその言葉で、途端に怯えた表情を浮かべる農民たち。

 子どもこそが彼らに残された唯一の宝であった。


「お前らは大人しく従っていればいいんだッ! 俺たちに逆らった罰だ。今日からお前らの飯を一品抜く」

 途端に農作業に従事していた村人の一人から悲痛な叫び声が返ってくる。

「そんなッ! この前もそう言って一品減らしたばかりじゃないですかッ! これ以上食事を減らされると私たちは動けませんッ!」


「なんだぁ? また文句か? 文句を言って、お前らが頼りにしていた祭司のジジィがどうなったかもう忘れたのか?」


 嘲るような笑みを浮かべる兵士に、怯む農夫。


 北東方面軍の一団によって村が支配されてから、一部の駐屯兵からたびたび理不尽な要求が村人に対して行われていた。

 それに口答えすると食事を抜かれたり、作業時間を増やされたりする。

 特に公然の場で北東方面軍に非難など行おう者なら鞭打ちの刑が待ち受けていた。


 村の長老の一人であった祭司の老人は、今は村のある家に寝たきりの生活であった。

 占領後、日に日に傍若無人な振る舞い始めたアーゼー・クレモ中尉率いる小隊へ、理路整然と反論を行ったところ、服を剝かれ、公衆の面前で鞭打ちの刑を受けることとなった。


 その日、雪が舞降る寒空の下に、苦悶と絶叫が響き渡った。


 鞭により何度も背中の皮を抉られ、地面に積もった白い雪を赤へと変えた。

 祭司は刑を全うすることなかった。

 当初は駐屯部隊の正当性を問うてたその口も、やがて懇願へと変わり、最終的に白目を剥いて気を失うことなった。

 

 この一件は村人の反抗心を削るという点では、十分に機能していた。

 村人の知る祭司は理路整然として落ち着いた好々爺。

 その彼が泣き喚くほどの苦痛。

 皮がめくれ、そこから覗く血肉、そして滴る血。


「いいかッ! もう一度その胸に刻めッ! お前らはもうポトム王国の所有物だッ! そして、俺たちは北東方面軍、チーブスにおける戦後処理を任された言わばポトム王国の代理人であるッ! 黙って俺たちに従えッ!」


 睨つけるように農民を見下す兵士と、それを見ながら傲慢な笑みを浮かべる三人の兵士。

 農民たちは視線を落として、悔しさからその手に力を込めた。



「――という具合ですぜ。クレモの旦那」

 

 村で二番目に立派な建屋。

 惜しげもなく薪を使い、温められたその部屋で、中尉は農作業の中間報告を受けていた。


 窓にびっしりと浮かんだ結露。


 報告を受けるのは、銀髪碧眼のやや痩躯の青年――アーゼー・クレモ。

 目にかかる長さの銀髪を指で触りながら、その内容にはまるで興味を示さない。

 

 軍服を着崩して椅子にだらしなく座り、膝までまくり上げられたズボンから素足を投げ出している。

 その足はお湯の溜められた大きなたらいに浸かっていた。

 二人の粗末な襤褸を着た年端もいかない子供たちが、素手で一生懸命に、その足の指一本一本を揉んで綺麗にしている。

 

 彼のその両脇には二つの机。

 一つにはお茶と茶菓子。

 反対側には装飾の施されたガラス細工の水タバコ。

 それをアーゼーは焦点の定まらない視線でぷかぷかとタバコをふかしている。


 彼の後ろでは、また別の子供が一心不乱に彼の肩を揉んでいた。


「……そうか。適当にやっておけ。それより、この地は俺には退屈過ぎるな。いつまでこんな辺鄙な地にこの俺がいなきゃいけないんだ、えぇ? 兄上も意地が悪い。さっさと全ての食料と資源を巻き上げればいいものを。こんな村の一つや二つなくなったところで元は敵地、どうでもいいだろ?」


 村の子供たちを周囲に侍らせているにも関わらず、憚ることなく言い切る。

 その言葉に足を揉んでいた村の少年がその手を止めると、アーゼーはためらうことなく子供を蹴り飛ばした。

 

 部屋に設置された家具を巻き込んで、倒れ込む子供。


 室内で控えていた他の子供たちが慌てて駆け寄る。

「なんだ? お前たちもああなりたいのか?」


 突然の凶行に手を止めていた子供たちは慌てて、足と肩のマッサージを再開する。


 伝令の男にとっては見慣れた光景。


 驚く素振りもなく会話を続ける。

「へへへ、その通りですぜ旦那。ただ、いつまで俺たちがここにいるかわかんないですからね。飯のタネになるものは持っておかねぇと」

「お前に言われなくてもそれぐらいわかっている。……しかし、この村には俺の目に叶う女もいなければ、飯もマズい。俺が持ち込んだ酒とタバコしか楽しみがない。退屈だ」


 水たばこを大きく吸い込んで、素った息を吐くと、濁った城の煙がさらに部屋に蔓延する。


「そう言えば、学園の雛が騒いでいやがるんですが……どうします?」

「あの色男ロメオ気取りのガキか。それでなんて喚いているんだ?」

「それが村人が可哀そう、とか、正義がどうのこうの」

「馬鹿なガキだ。お前たちで黙らせていいぞ」


 事も無げに言い放つアーゼーであったが、

「あのガキが上級臣民じゃなきゃ、俺たちで虐めてやるんですけどね。俺たちのような、軍に入ることで王国臣民になった下級臣民には、上級臣民は荷が重いんですわ」


 アーゼーは少し思案した後に、

「今は放っておけ」


「え? いいんですか? それじゃあ奴ら調子に乗るんじゃ?」

 思ってもいなかった反応に驚く兵士。


「ガキが数人張り切ったところで何ができる? それより、どうやってあの嬢ちゃんを貰おうか」

 下卑た表情を浮かべてベロリと舌なめずりをする。


 マグヌス川の船上で出会った以来、アーゼーはメアリーに幾度と粉をかけ続けるが、その全てを袖にされていた。

 元より自尊心の高いアーゼーは、いつからかそんなメアリーに執心していた。


「そ、それじゃあ俺はあの猫娘を貰ってもいいですか?」

「なんだ? お前は主義者だったのか?」


 一定の主義、主張をもっている人を指す言葉である主義者。

 しかし、人族国家のポトム王国では、専ら亜人を人間と対等に扱う者を指す侮蔑言葉として浸透していた。


 軽蔑の表情を浮かべるアーゼーに、

「まさかッ! 最近は王国も獣人の扱いが前よりも厳しくなったんで、町じゃてんで派手に遊べないんですよッ!」

 大仰な身振りで肩を竦めてみせた。


 男の言葉に鼻を鳴らすアーゼーは、

「ふん、すき者が。好きにすると言い。俺には獣の趣味はない」

「へへへ、さすが旦那。話がわかるお人で」

 

 下卑た笑みを浮かべた二人の笑い声が室内に木霊した。



 日に日に生気を失っていく村人たち。

 ついには農作業中に倒れる者まで現れ始めた。


 駐屯部隊に割り当てられた家の一室。

 シトラスは生活を共にするミュール、メアリーと共に机を囲んでいた。


 窓の外は暗くなり始め、燭台の灯りが室内を明るく照らしている。


「このままだとダメだと思う」


 そんなことはミュールも薄々わかっていた。

 つい先日、さらに農民たちの食事量を制限することがアーゼーの名前で告知された。

 より短期間で北東方面軍のいる都市を発展させるためだと言う。


「このままだとこの村は……死ぬよ」


 ミュールはその言葉に下唇を噛んで視線を下げた。

 彼も薄々気づいていた。

 勘づいてはいたのだ。

 日に日にやつれていく村人たちに。


 真剣な表情を浮かべるシトラスは言葉は続ける。

「みんなの魔力オーラが日に日に弱くなっている。限界だよ」


 食事量を減らされたことが致命的であった。

 ただでさえ、駐屯部隊の半分の量の食事であったのに、そこからさらに減らされたのである。


 村に残っているのは老人と女子供ばかり。週に一度だけ食材をひとまとめに渡されて、それを村人たち全員で共有している状況である。

 季節が冬であり、食材が痛む速度が遅いことは幸いだが、量が足りない事実は変えられない。

 日中は休む間もなく、農業に従事させられ、自分たちで山菜を取りにいく暇もない。


 配給量を減らされてからは一日一食であることもざらである。

 その中でも、大人たちは育ち盛りの子どもに優先して食事をとらせていた。


 昼は、その食事量で太陽が昇る前から沈み切るまで、農作業を始めとする仕事に取り掛からなければならない。

 夜は、身を寄せ合って凍える時間を凌ぐ。薪や厚手の毛布は駐屯部隊に奪われ、薄く穴だらけのブランケットの下で身を寄せ合うのだ。


「だがどうするんだ? 階級上ではこの駐屯部隊を大尉が束ねているが、いざ蓋を開けてみたら、あのクレモとか言ういけ好かない奴が牛耳っているじゃないか。聞くところによると、北東方面軍の本体が駐屯している都市への資源の収穫量で評価が決まるらしい。だから――」


 シトラスが言葉を引き継ぎ、

「――だから絞れるだけ絞ろうとしているの? 何人死んでも構わないって?」

 不快そうに顔を顰めた。


「前にも言ったかもしれないが、これが戦争なんだ。だから……」


 言葉尻を濁すミュールに、シトラスの表情が抜け落ちる。


「だから何をしても許されるって?」

「……もちろん俺はそうは思わないが、そういうもんだろ世界って」


「ぼくはそんな世界は嫌だ」


 少し苛立ちを見せるミュールが、声を硬くしながら、

「嫌だって言ったって、俺たちに何ができる? 見習いで士官候補生とは言え、あくまで候補生。何の実権、金もない。ましてやここはまだ敵地と言ってもいい環境だ。人脈もくそもない。そんな環境で俺たちに何ができる?」


理想ユメを諦めないことはできる」


 シトラスは言葉を続ける。

「実権? お金? 場所? 人脈? なにそれ。それが理想を追うこと何の関係があるの? ミュールはそれがないと何もできないの? それがミュールの全てなの? じゃあクレモ中尉みたいな人が来て、ぼくを殺せ、って言ったらミュールはぼくを殺すの?」


 真っ直ぐに射抜く曇りなき眼。


「……それは極論が過ぎるだろ。誰もそうは言ってない」


 澄み切ったその瞳に、ミュールはスッとその目を逸らす。

 自分を信じ切っているその瞳を、見つめ返すことに仄暗い罪悪感を感じた。


「諦めないでよ、理想を。自分が苦しいことは、相手を苦しめていい理由にはならないんだ」


 語り掛けるように感情に訴える声音に、ミュールは降参であった。


 肩を落とすと、その声にも硬さがなくなる。

「それはそうかもしれないけどさ、じゃあ実際問題どうするんだよ今回は?」

「まずは、大尉に直談判しよう。そして、今回は次に中尉にも」


 日々の作業を共にこなす上官たちには、シトラスはたびたび陳情を上げていた。

 これまでのところそれが機能した様子はない。

 むしろ、先日村人たちへの配給量が減らされており、悪化の一途を辿っている。


「まじで? アイツがシトの話を聞くとは思えないけどな」


 シトラスの赴任時で少し騒動があったものの、それ以降は特にアーゼーと接点はなかった。

 メアリーに粉をかけるぐらいである。

 その度にメアリーはシトラスを盾に逃げるものだから、変わらずによく思われていないことも確かであった。


「そのときはそのときだよ。また他の手段を考えよう」

「理想を追いかけ出たとこ勝負、か。まぁシトらしいよ」

 ふっと笑みが零れた。


 ここでミュールは表情を改めて尋ねる。

「なぁシト――何がお前をそこまで駆り立てるんだ?」


 シトラスはその質問にきょとんした顔を見せるたが、

「なにって――ぼくは勇者になる男だからね! さぁ、善は急げだ!」


 破顔しながらそう言うや否や、立ち上がり、影に掛けてあったマントを手に取ると、飛び出るように家を出たシトラスに、

「悪は延べよ、とも言うけどな」

 とは口ではいうものの、ミュールもマントを手に取り、シトラスが開け放った外の寒い世界へ飛び込むのであった。


 

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