四十三話 手紙と恋愛と


 カーヴェア学園のシトラスの寮の寝室。


 部屋に一つだけ用意されている机。

 遂になる椅子に座るシトラスは、今しがた書き上げた手紙を、光に透かすように両手に持った。


 その手についた乾燥した黒のインクが、持ち上げた手の動きに合わせて、ひび割れる。

 パラパラと机の上に舞い降る乾いたインクの残滓。


『拝啓 ライラ。


 お元気ですか? ぼくは相変わらず元気に学園生活を送っています。

 学園城にも冬が訪れ、外に出ると耳が寒さでジンジンとします。

 みんな耳が真っ赤です。そんな学園では、年末の休暇に向けてみんなソワソワし始めています。


 前回お手紙を出したのがいつだったのか。あまり覚えていませんが、よい機会なので、三年生になってこれまでに起こったことを共有したいと思います。

 ライラと一緒に経験したかったので、気持ちだけも一緒になれたらいいな、と思い、この筆を取りました。


 堅苦しい書き方には慣れていないので、少し砕けた文体になりますがお許しください。


 何から話したらいいか……。

 というのも、ぼくが三年生となってから、今までの四ヶ月間で、色んなことがありました。


 そうですね……。

 まず、東の魔法俱楽部イストに所属していたことはご存じだと思いますが、そちらは退部しました。

 そして、新しく『勇者部』という魔法俱楽部を作ることにしました。


 部員は、ボクを含めてヴェレイラ、ハロルシアン、エイト、ミュール、メアリー、ブルーの七人です。

 レイラとハロは有名人みたいなので、もしかしたらライラも知っているのかな?


 勇者部は学園長からも、正式に魔法俱楽部として認めてもらいました。

 それどころか顧問として、元勇者のアドニス先生がアドバイスをくれるように手配までしてくれました。


 その後、勇者部の方針を皆で相談した結果、課外活動に精を出そうという話になりました。

 そう言えば、課外活動の話をしている際に、ライラの名前が上がりました。

 課外活動だけで輝石の色を橙色までしたライラのことを、みんなが褒めていました。


 課外活動を行うために、アドニス先生と勇者部の三年生で地下都市エッタへ訪れ、魔法協会の支部で認識票とか言うのを作ってもらいました。

 なくしたら凄く怒られるみたいなので、先生から貰った紐を通して、認識票は首からぶら下げてずっと持っています。


 認識票を作ったその日に、先生と採集系と討伐系の依頼を一緒に行いました。


 採集系の依頼は、根気がいる作業だな、と思いました。

 でも、自分が取ってきた薬草が誰かの助けになっているのを想像したら頑張れる気がします。


 反対に討伐系の依頼は、勇気がいる作業だな、と思いました。

 先生と受けた初めての討伐系の依頼は簡単だったけど、その後で、ちょっとお転婆をみせたメアリーを追って、深森? とかいう場所に足を踏み入れて、鳥竜という大きな生き物を見ました。

 レイラより大きなものは初めて見たかも知れません。


 先生とメアリーが倒した鳥竜の魔石は、宝石のように綺麗でした。

 支部に戻った時に、受けた依頼の成果物と一緒に、それを提出したら、かなりの高評価だったみたいです。

 詳しいことはよくわかんなかったけど。一つ分かることは、鳥竜の討伐についても、先生がぼくたちの手柄にしてくれたみたいで、後日、胸のブローチの輝石に魔力を注いでもらったら、すぐに一つ上の色に変わりました。


 これでぼくの輝石の色も、青色から緑色になりました。


 色は赤に近づけば近づくほど、上がりづらくなるとは聞いているので、ライラが在学中に身に着けていた橙色にいつ辿り着けるかはわからないけど、いつか追いついて、追い抜けるようにがんばるよ。


 認識票を作ってから毎週末は、勇者部のみんなと、地下都市で課外活動に励んでいます。


 エッタでは、レイラとハロが人気者でビックリしました。レイラは魔法協会で知らない人からサインをねだられたりしていました。七席ってそんなに凄いの?


 アドニス先生は初日以外は一緒に来てはくれないけど、レイラとハロ、それとエイトの最上級生トリオが助けてくれるから、今のところ課題活動は順調です。

 採集系の依頼では、ぼくのもつ魔力視の魔眼と相性がいいみたいで、採集してくるものの質がいいと、支部の受付の人に褒められました。


 ただ、課外活動を優先するから、今年は対抗魔戦には出ないと思います。


 ちょうどその頃に、支部でくえすと? とかいうのがあるみたいだから、勇者部で参加しようと思っています。レイラは対抗魔戦に出るから参加できないけど……。


 レイラも乗り気だったんだけど、アドニス先生を始めとして色んな先生から、レイラは姉上と組んで出てくれなきゃ困るとかで、最終的に学園長まで出てくることになりました。

 それで何と交渉の結果、対抗魔戦にレイラが出場する見返りに、勇者部全員の魔闘会の推薦貰えました! 嬉しい。


 次はライラといつ会えるかな?

 もし学園に立ち寄ることがあったら教えてね。時間を作るから。

 手紙もいいけど、去年までみたいに、会ってお話しできたらいいな。

 

 でも、それはそれとして、このお手紙の返事も待っているからね!


 友人のシトラスより』


 書き上げた手紙の内容に再度目を通し、その内容に満足気な顔を作ったシトラスは、立ち上がって振り返った。


 シトラスの後ろでは、彼が手紙を書くのを見守っていたミュールとレスタの姿。

 彼らは、時折、彼の手紙にちょっとした娯楽感覚で、助言を与えていた。


「――にしても意外だな。あの"黒豹パンサー"が手紙、ねぇ……」

 自分のベッドに腰かけるレスタが、自身の腿の上に左肘を立て、顎を左手の上に乗せながら、しみじみと呟くと、

「可愛らしいところあるでしょ?」

 シトラスがにこっと笑うと、続けて

「手紙ってどこから出せるんだっけ?」

 その顎に指をあてがった。


 思案顔になったシトラスに、レスタが、曲げていた背中を伸ばして、助け船を出す。

「ん? そうか、シトはイストを抜けたもんな。魔法塔みたく独自に輸送ルートがない生徒は、大図書館で手続きして、学園の正面玄関近くにある集積箱に入れておくと、週に一回だったかの間隔で回収されたはずだぜ。ただ、俱楽部から出すのが圧倒的に楽で速いんだよ。――そうだ。良かったら俺の方でその手紙は出しておこうか?」


 レスタの申し出に目を輝かせるシトラス。

「ほんとッ!?」

「やったなシト。ありがとうレスタ」


「いいって。こんなものは大した労力でもないし」

 手をヒラヒラとさせたレスタは続けて、

「封蠟もこっちでやっておくよ。封蠟は印璽派? 指輪派?」


 封蠟には、文書を誰も見ていないという保証する役割があった。

 差出人のシンボルが刻まれた印璽と呼ばれる判子タイプか、イニシャルや紋章の刻まれた台座がついた指輪を用いるが一般的であった。


「ぼくは印璽だね。姉上がそっちのほうがいいって。はいこれ。終わったら返してね」

 シトラスは自身の鞄を漁ると、掌に収まる大きさの長方形の立方体を、手紙と一緒にレスタに手渡した。


「案外と奥ゆかしんだな、お前の姉貴は」

「奥ゆかしいというか、なんと言うか……。たぶんシトが指輪をしている姿を見たくない、って話しだからな」

 ミュールはどこか遠い目をして答える。

 それを見て、シトラスはどこか他人事のように、あはは、と笑っていた。


 視線を泳がせたレスタは、言葉を選ぶようにゆっくりと口を開く。

「……あー、答えづらかったら、答えなくてもいいけど、シトは、その、姉貴と血は繋がって――」

「――るよもちろん」

 レスタの疑問には、ミュールが被せるように食い気味で答えた。


 近親同士の結婚もないことはない話だが、ポトム王国に限らず、大陸規模の歴史で見ても非常に稀であり、いずれの国でも忌避される傾向にあった。

 これは魔法協会の研究により、血が濃くなり過ぎた結果、生まれてくる子供が体質に問題を抱えて生まれてくる傾向が高くなることがわかったためである。


「……ぶっちゃけどうなの?」

「どうなの、って? なにが?」

 キョトンとした顔シトラスがそう返すと、レスタは、左手の親指と食指で輪を作り、右手の食指をその輪に繰り返し出し入れする行為を見せつけた。


 レスタも近親間における社会通念を理解していた。

 それでも彼の知る家族の距離以上に、互いの距離が近い姉弟。

 なおかつ姉が絶世の美女ともあれば、勘ぐらずにはいられなかった。


 それにはシトラスではなく、ミュールが少し怒った仕草を見せる。

「ちょっ、おまッ!」


 しかし、レスタはそんなミュールに、落ち着けとジェスチャーを送る。

「まぁまぁ……。俺たちも十六だぜ。そりゃあ、この歳にもなれば、浮いた話の一つや二つあるだろう? ――知っているんだぞ、ミュール。お前、オーロラって子と、最近いい仲になっているらしいじゃないか、ん?」

「お、おまっ……! それどこで聞いたッ!?」

 慌てた様子を見せるミュールに対して、レスタは無言でツンツンとシトラスを指さす。


 シトラスとミュールは一瞬真顔で見つめあう。


 シトラスが舌を出して、左手で後頭部を掻く素振りを見せる。

 ミュールは大きくため息を吐いた。


 話題に上がったオーロラは、シトラスやミュールと同学年の女子生徒で、現在はイストに所属していた。


 カーヴェア学園に入学した日に、ミュールは彼女と面識を持った。

 二人は話が合い、出会って以来、顔を見れば雑談をする仲ではあった。

 昨年度の舞踏祭で、ミュールが彼女を誘ったことをきっかけにして、二人の仲は急速に縮まっていた。


「よかったなミュール。王国が自由恋愛を推奨していて」

 揶揄うようなレスタの言葉に、ミュールは返す言葉がなかった。


 自由恋愛とは言っても条件付きではあるが、レスタの言うとおり、ポトム王国では当人の身分以上に、当人の意思が尊重される傾向にあった。

 無論、その家格にもよるが。


 多くの場合においては、当人の意思を無視して婚姻を進められることはあまり多くはない。


 過去には、血や身分を重視した婚姻が盛んであった時代もあったが、無理やり行われた婚姻においては、その夫婦間における受胎率が低いことが注目された。

 また、夫婦ともに浮気に走る傾向が極めて高く、その二つが合わさった結果、御家騒動が後を絶たなかった。


 とある王が王位に就任して間もないころ、これを悪しき風習と考え、王国における自由恋愛を推奨するようになった。


 そのとある王、彼こそが勇者システムを制定した王であり、初代勇者パーティーのメンバーでもある時の先王の妾腹の子――"勇者王"。


 王都に凱旋後は"勇者王"の名と共に、王都で華々しい生活を送った彼であったが、それまでは母の身分が低かった。

 本来であれば、妾腹にもなれないほどに。


 しかし、彼女は後宮入りを果たした。


 妾腹と言うこともあって彼女の地位は低く、その息子である若き日の"勇者王"も、かなりの辛酸を舐めさせられることになった。

 そうでなくては、落命の恐れが非常に高い勇者パーティーの一行に組み込まれたりなどはしない。


 幼少期の"勇者王"の母には、先王から一番愛されていたという誇りがあった。


 それは根拠のない誇りではあった。

 ただ、時の王から自分こそが一番に愛されていると、そう信じて止まなかった。

 何ら学も後ろ盾も持たない彼女にとって、それこそが心の拠り所であったのだ。


 母親の妄執とでも言える想いが、幼少期の"勇者王"に与えた影響というものは、決して小さなものではなかった。


 何はともあれ、彼はそのようなやや頑迷な母親の庇護下で育った。


 そして、戦争終結の凱旋後に、"勇者王"は名実ともに王となった。

 勇者パーティーの発案者でもある王女の姉を、当時は身分がないに等しい勇者パーティーの魔法騎士に下賜するにあたり、それまでの血族と歴史を重んじる貴族から猛反発を受けた。


 彼の生い立ちと、当時の貴族のこの反応は、"勇者王"の激情を駆り立てるには十分であった。


 この直後、魔法騎士に王女を強行的に下賜した上で、独裁的に勇者特権を制定。

 もちろんこれには大反発した当時の貴族たちに対して、"勇者王"は勇者パーティーで苦楽を共にし、王位継承後に四門の名を与えた仲間と武力行使に打って出た。


 勇者パーティーが登場するまで、あわや大陸統一というほどに大陸を席捲していたフロス公国。

 その公国を束ねる三大公爵のうち、二人を討ち取るほどの勇者パーティーの武力の前に、立ちはだかった者たちになす術はなかった。

 瞬く間に古き貴族たちは粛清、解体された。


「――それで彼女とはどこまで行ったんだよ、オーロラちゃんとはよ」

 黙り込んだミュールに追い打ちをかけるレスタ。


「うっせぇ。お前こそ。エヴァとはどうなんだよ、エヴァとはッ!」

「えっ!? レスタって、やっぱりエヴァとッ……!?」


 しかし、ミュールの反撃に対して、今度はレスタが赤面する番であった。

 シトラスはそれに目を輝かせる。


「ばっ、お、俺とエヴァは、まだそんなんじゃ――」

「まだ、ってことはこれから変わるんだよな」

 鬼の首を取ったように、にやにやとした顔を浮かべるミュールに、ハっと口を押えて自身の失言を悟る。


 二人のやり取りを見守るシトラスの目は、キラキラと輝いていた。


 男三人が恋愛話でわちゃわちゃしていると、

「入るわよー」

 という声と共に、渦中の人であるエヴァとメアリーが部屋に入ってきた。

 その後ろにはオーロラの姿もあった。


 メアリーは、室内唯一の椅子に座っているシトラスをその視界に収めると、躊躇うことなく彼の膝の上に座った。

 背丈がそう大きく変わらない彼女が、シトラスの膝の上に座ると、必然的に彼の顔が見えなくなる。


 シトラスは彼女の肩口から顔を覗かせると、同じく部屋に入って来たエヴァとオーロラに視線を送った。


 不機嫌そうなエヴァが口を開く。

「……何よ?」


 彼女の視線の先では、彼女に対して口をパクパクとさせる、レスタの姿があった。

 それを黙って見守るミュールも、渦中の人物の登場に、その表情を硬くしていた。


 さすがに可哀そうと思ったのか、ミュールが助け船を出す。

「あー……。いつからそこにいたんだ? 気づかなかったぜ。俺たちの話、聞いていた?」

「何よ? 私たちに聞かれたらまずい話でもしていたの?」


 目を細めジロリと探るような視線を送る。

 やべっ、墓穴を掘ったか、とミュールは顔を顰める。

 その隣に腰かけたオーロラは、温かい視線で彼を見守っている。


 今度は、シトラスが助け船を出す番であった。

「おっぱいの話をしていたんだ」


 シトラスの膝の上に座るメアリーを除き、室内の視線が瞬く間にシトラスに集まった。


「おっ……ぱい……?」

 それまで詰問するように鋭い表情を浮かべていたエヴァも、これには毒気が抜かれた。


 それは彼女だけではなく、味方であるレスタとミュールの表情もポカンとしていた。

 オーロラは、上品に口に手をあて、まぁ、というポーズ。


 室内の誰もが二の句を告げないでいると、スラスラと謡うように言葉を続ける。

「おっきいおっぱい、ちっちゃいおっぱい、そのあいだくらいのおっぱい。女の人の数の二倍だけあるおっぱい。みんな違ってみんないい。……例えば、姉上のおっぱいは形の綺麗なおっぱい。形もハリも凄いんだよ。レイラのおっぱいは、人を包み込んでしまうようなふわっふわなおっぱい。そこでお昼寝したらもう抜け出せなくなっちゃうぐらいなんだ――」


 こんこんと語り始めたシトラスに、レスタはごくりと生唾を飲み込んだ。

 それをエヴァに目敏く見咎められると、慌てて視線を逸らす。

 

「――ライラのおっぱいは、健康的な手ごたえのあるおっぱい。しなやかだけど芯があるおっぱい。メアリーのおっぱいは――」


 下心なく、物語の読み聞かせをするように語るシトラスに、ミュールも唾を飲み込んだ。


 シトラスは、

「――なんだっけ?」

 照れくさそうに笑った。


 すると、シトラスの膝の上に座っていたメアリーが、振り返って彼の右手を掴むと、そのまま彼女の右の胸に誘導した。


 二人の様子に固まるレスタ、エヴァ、そしてオーロラの三人。

 二人の距離が近いのは以前から知っていたが、まさかここまでとは思ってもみなかった。


「そうそう。メアリーのおっぱいは、生意気なおっぱい。少し見ない間にすくすくと成長して、いつも予想を超えてくるんだよ。エヴァのおっぱいは――」


 おい嘘だろッ! と思わず悲鳴を上げて、レスタは腰かけていた自分のベッドから立ち上がった。


「――知らないや」

「当然よッ!」

 エヴァは自身の胸を抱え込むように両手で隠す。

 体をシトラスから背けて、涙目で彼を睨みつける。


 彼女の様子に、ホッと胸を撫で下ろすレスタであった。

 再びスッと、その腰を下ろした。


 恐る恐る尋ねるミュール。

「ちなみに後、誰のおっぱいを知っているんだ?」

 彼が知らないうちに相棒が、知らない女性に粉を掛けていないかを心配していた。


 ミュールの問い掛けに頭を捻るシトラスだが、

「あと? うーん……。ブルーは触らせてくれないし、学園だとそれぐらいかな。ロックアイス領だともう少しいるけど」

 

 シトラスの回答に、あぁこれならあの人とあの人と、後はあの人だな。と当たりをつける。

 とりあえず、学園で粉を掛けた人がいないことが分かって、ミュールはホッと胸を撫で下ろした。


 レスタも、彼女たちが部屋に入って来るまで話していた、恋愛事情についての追及が有耶無耶になってホッとした。


 二人は結果的に、無事に話が逸れたことを喜んでいた。


 再びシトラスがその口を開くまでは。


「……あッ、あと一人いた。アイリーだ。アイリーのおっぱいは、もちもちおっぱ――」

「おまッ! 狡いぞッ!」

「アイリーン先王のかッ! アイリーン先生のあのご立派サマを揉んだのかッ!?」


 何かを揉むように、手をわきわきと動かしたシトラスに対して、ガタっと音がしそうなほど、勢いよく立ち上がった男子生徒二人。


 魔法生物学の女性教師であり、学園最年少の教師でもあるアイリーこと、アイリーン。

 手入れがあまりされておらず、いつも乱雑に括られた茶褐色の髪。

 化粧っけも少なく、彼女が身に纏うのはいつも同じ黒のローブ。

 着まわされたそのローブはいつもよれており、生活感すら漂っている。


 アイリーンは、シトラスたちのちょうど十歳上で、今年で二十六となる。

 女性としては円熟味が掛かってくる年頃である。

 他に若い教員も少ないことから、本人は意図していないこととは言え、学園に入学する男子生徒の初恋キラーでもあった。

 学園に入学する子どもにとっては、ちょうど程よい大人の女性の立ち位置にいる女性。それがアイリーンであった。


「男ってほんと馬鹿……」


 エヴァは自身の額に左手をあてがうと、目の前でギャーギャーと騒ぎ始めた男性陣を前に、ヤレヤレと言った様子で、ため息を吐くのであった。


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