25.魂の絆

リリスは、エイジと出会うずっと前から、ある夢を見ていた。


知らない空、知らない街並み、知らない人々、ただ一人、運命の人。


毎回違う空、毎回違う街並み、毎回違う人々、ただ一人、運命の人。


どんな世界にいても、見た目も年齢も違うのに、運命の人だと感じられる存在。


この世界では、エイジという少年と最初に旅をした時、『運命の人』だって気付いていた...。



「‥リス、リリス!」



「ほぇ!?」



「まだ寝ぼけてるのかい? 大事な話‥言ったろ? ちゃんと話すって」

昨夜の会議のあとエイジたちは、自分たちのことを全てリリスに話すと決めていた。


「ぁ‥‥いいの?(昨日の夜、ちょっとだけ盗み聞きみたいになっちゃったけど‥正直、何のこと言ってたのか理解できてなかったのよね)それじゃ、聞かせてもらいましょうか!」

リリスはベッドの上にあぐらをかいて座り直した。


エイジは執事とメイドに視線をむけたあと、語り始めた。

「まず‥‥ボクは普通の人間じゃないんだ」


「そうね、普通じゃないのは知っているわ」キョトンとするリリス。


「ぁ‥えっとー‥普通とか普通じゃないとかじゃなくって‥実はボクは神なんだ」


「?‥アインが言っていたような‥神使しんしってことかな??」


「ぃゃ、アインバーグの話にはちょっと乗っかっちゃったけど、神の使いじゃなくって、神そのものっていうか‥」エイジは説明するのが苦手だった。


執事が割って入る。

わたくしから説明させて頂いてもよろしいでしょうか。主殿はまごうことなく『神』そのものなのでございます。かれこれ数百億年の昔から存在しておられます」


「ぇーっと‥‥そんな凄い人が‥人じゃないわね。神‥様が、どうしてこんな‥‥」


「主殿は『冒険者』というものに憧れて、この世界を創造することをわたくしに命じられたのです。あ、わたくしは創造を担当しておりますゆえ」


「それじゃ、あたしは、エイジやジーさんに創られた存在‥みたいなことなの?」


「そうではございません。わたくしが創造したのは、あくまでもこの『世界』でございます。いうなれば『種』を蒔いたに過ぎません。それ以上の干渉はたとえ神といえどできないのです。(主殿はそのようにご自分を律しておられるゆえ‥)」


「ふ~~~ん‥‥。奇跡のひとつでも見せてもらった方が早そうだけど、考えてみたら既に魅せられてるものね。そっか。二百年経ってるのに子どものまま変わってなかったこととか、あなた達がとんでもなく強いことも、これで納得だわ」リリスはうんうんと頷く。


「ひとつ教えて欲しいんだけど‥‥『この世界を創造した』って言ったわよね。前の世界は、どうなったの?」

「それは、」執事が答えようとするのをエイジが止める。

「以前の世界は滅亡させた。全ての生き物‥虫も動物も魚も人間も全て、ボクが滅ぼしたんだ」


リリスは一瞬、戸惑いの色を見せたが、すぐにいつもの表情に戻った。

「そっか...。世界を創造し直すって、そういうことなのね」


「平気‥なのかい? 今まで何回も世界を壊して創り直してきた。ボクは大勢の命を一瞬にして奪ってきたんだよ」


「んー‥今、目の前で殺戮を始められたら正直引くかもしれないけど、そうじゃないし。それに、奪っただけじゃなくって創造もしてくれたんでしょ? 今この世界が、この姿で存在しているのはエイジのお陰なんだって思ったら、そんな遠い昔のことなんて、どうでもいいかなって」


リリスの言葉を聞いたメイドは想いを馳せた。

『(リリス様に宿る魂は、いつの時代でも同じようなことを仰る。アーカイブしている主様の記憶を辿ると、どの時代でもめぐり合う魂がある。運命の魂。姿は違うけど、世界を創造しなおすと必ずめぐり合い、愛し合い、必ず訪れる悲しい別れ。そして主様は新しい世界を創造しようとする。その繰り返し。この世界でもやはりめぐり合ってしまった魂。)』


「ねぇ、『神様』って、実際どんなことが出来るのかな?」リリスは物怖じせずにエイジに詰め寄る。


またメイドは想う。

『(いつも同じことを訊く。けれど‥)』


「あ!やっぱりいいわ。それは知らない方が良さそうだわ」リリスは目を閉じて首を振る。「なんでも思い通りにできちゃうのって、つまらないものね。もしエイジがどんなことでも叶えられるって知っちゃったら、すぐに頼りたくなっちゃうし。そんなの、面白くないじゃない?」


『(そう。いつもと同じ。だから主様も神の力を使わずに旅をする。だから‥この方の魂と惹かれ合うのかもしれない。)』


エイジは心から安心した表情をリリスに向ける。

「ありがとう。信じてくれて」


「でも良かったの? こんな大事なことをあたしに知られちゃって。神・様?」リリスは皮肉っぽく笑って問い掛ける。


「そうだなぁ‥ヤバそうだったら、リリスの記憶を消したりできるかもよ? ボク神様だから」


「ぁ‥それは洒落にならないわよ!」プクっと膨れてみせるリリス。


「あははっ、冗談だよ。いくらボクでもそんなことは出来ないし、リリスだから教えた。ボクの全てを知っても、きっと何も変わらず一緒にいてくれるって信じていたから」


優しく微笑むエイジを、ギューっと抱きしめるリリス。


「もちろん、ずーっと一緒だよ。きっと、ずっとずーっと昔から。これから先もずーーっと。(あたしの運命の人だもの)」


リリスは、息ができないエイジがジタバタしだすまで抱きしめ続けた。


「そうそう、昨日言ってた『女神』って、エイジたちとは知り合いじゃないの? ぁ、ごめん‥。実は昨夜みんなが喋ってるの聴こえちゃってて‥」ペロっと舌をだすリリス。


「ふふっ、聞かれてるのは知っていたよ。それもあって今日、全部話したんだから。『女神』については、ボクたちも本当に知らないんだ。ナイトウの妄想だとしたら、ナイトウが持ってる能力は彼自身が元々持っている力ってことになるけど‥色々解らないことだらけだから、とりあえず保留かな」


「ふ~~~ん‥神様にも解らないことってあるのね」リリスはまた皮肉っぽくニヤける。


「‥‥ボクが知らないことなんてないよ。リリスが最近お通じに悩んでることだって知ってるんだよ?」エイジの得意げな顔に枕が投げつけられる。ボスッ☆



ひとしきり笑い合ったあと、今後の旅について真剣に話し合った。



「まずは、ここから東にある大森林の奥を目指しましょう。フォレストリアって街があるのよ。物知りなエルフもいるから『女神』や規格外の怪物についても何かわかるかもしれない。だけど、かなり遠いのよ。二ヵ月くらいの旅になるわ」


「オッケー! そうしたら早速、買い出しだね! おやついっぱい買って行こう♪」

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