24.勇者降臨
四人が声のする路地を覗き込むと、一人の冒険者が両手槍を振り回しているのが見えた。
『うっはぁああ!! この力! マジだコレ!!』
野次馬に状況を尋ねると、花売りの少女を連れ去ろうとしていたチンピラを、突然現れた男がボコった‥らしい。
助けられたという少女は獣人族の猫耳娘だった。
「あの‥お・お兄ちゃん、ぁ・ありがとうございました‥」
『き・気にするな、無垢なる少女よ。これもまた、光が定めた我が使命‥。ふふっ』
両手槍の男は照れながら‥よくわからない言葉を発している。
そこに、猫耳娘の母親が駆け付けてきてお礼を言って、男に名前を尋ねた。
「あの、何かお礼をさせてください。あなたのお名前は‥」
『お礼などは結構! だぁが、我が真名を知るがよい。天を裂き、地を揺るがす者――その名は、光の勇者、ナイトウ・サトシ!』
「(そのノリで光属性なんだ‥しかも名前‥前時代すぎ‥‥)」
関わると面倒なことになりそうな悪寒‥。エイジたちは立ち去ろうとしたが、次の瞬間‥。
ナイトウと名乗った男は、手の平を前に突き出し小声で囁いた。
『ステータス、オープン』
「え!?」凄い勢いでエイジが反応した。次いで執事も‥。
「ジー、あいつ今『ステータスオープン』って言ったように聴こえたけど‥」
「わ・
見ると男は、周りには見えない何かを眺めて、何も無い空中を指先でタップしたりスライドさせたりしている。
「あれ! 絶対にステータスボードだよ!!」
「そんな馬鹿な!?」
「‥何なの? ステータス‥とかなんとかって?」エイジと執事のやりとりを見て、リリスがキョトンとしている。
男を観察していると、手に持った両手槍がシュン☆と消えて、猫耳娘から花束を受け取っている。
そして、その受け取った花束もシュン☆と消えた。
「あれっ! あれはーっ!! インベントリーだよー!!!」
「そ・そんな馬鹿なぁーーっ!?」
「ちょっと、二人とも‥大丈夫?」リリスは心配そうに二人に声をかける。
エイジは駆け出して、男に声をかけた。
「お兄さん! ちょっと話を聴かせてください!」
『ふふん。小さき者よ、我が言葉を聞く覚悟があるのか? 我が力と運命の闇に触れることができるのか?』
「(光なのか闇なのか‥)いや‥あの‥‥出来れば普通にお話しを伺えないかなーと‥思うのですが‥‥」エイジが悲しそうな上目遣いで男を見上げると、男は急に恥ずかしそうに顔を伏せて普通に喋り出した。
『ぁ、はい...。ゴメンなさい。あの、ここはひと目が多いので、どこか静かなところで‥』
エイジたちは近くにあった露店で飲み物を買って、水路沿いのベンチに落ち着いた。
「単刀直入に聴くけど、お兄さん、この世界の人じゃないよね?」エイジは核心を突いた。
『あー、はい。多分、そうですね。俺は日本ってとこに住んでて、日々引き籠ってゲームばっかやって不摂生してたら、ある日、心臓が変な動きかた始めて‥多分、その時死んだんだと思う。気がついたら、この街にいて、これって夢か異世界転生とかだと思って‥どうせなら、昔やり込んでたゲームのキャラを演じてみようかと思ったんですょ。にわかですけど』
「なるほど‥‥で、さっき『ステータス』って言ってたよね? 見れるの? ステータス」
『あー、うん。「ステータスオープン」って言うと目の前に‥ほら。あ、自分にしか見えないのか、コレ』
「ジー、メイ、これって、どういうことだと思う?」
「まったくもってわかりかねますな‥」
「『世界の記憶』にアクセスしました。内藤聡、32歳、2012年6月11日、東京の自宅で死亡。死因は心臓麻痺」
「ふむ‥‥異世界転生というか‥1万年ほどの時を経て、前世の記憶を持った魂がこの若者の肉体に入り込んだ‥とか?」
「それだとステータスとか使える理由が説明つかないじゃないか」
「確かに‥‥」
「あのぉー‥さっぱり話についていけてないんだけど‥」リリスが寂しそうな視線を向ける。
「リリス、ごめんね。いずれ、その時がきたらちゃんと話すから」と宥める。
『えーっと‥この街で目覚める前、なんだか女神? みたいのに力を授けられる夢を見ていたようなー‥ただの妄想かもしれないけど‥』
「いよいよ持って、分からなくなってきたぞぉ。ボク以外の神‥女神‥? そんなはずはないんだけどなぁ‥‥」
腕を組んで考え込むエイジたち‥。
「あの、ナイトウさん、さっき両手槍を装備してたけど、普通に戦えるのかしら?」会話が途切れた隙をついてリリスが割り込んでくる。
『あ、この後、街の外へ出てみようかと思ってたとこっす。異世界なら居るんですよね? モンスターとか』
リリスはエイジたちの顔を見て頷いた。
ヴァレンシア近郊の草原───。
『実力を見て欲しい人材がいる』と言って、ベルナルディにも来てもい、東の森付近で獣を狩ってみることにした。
ナイトウは革の鎧と、ブロンズ製の両手槍を装備した。
『光の勇者! 降!臨!! フゥーハハハ!!!』
「(あ‥またそのキャラ演じるんだ‥)」
ナイトウの声に誘われたのか、さっそく獣が三匹現れる。
『光の女神よ、我に力を与えたまえー!!!』
ナイトウは両手槍を構えて突進する。1匹目の獣を威嚇し、その隙をついて飛び掛かってきた2匹目の獣を薙ぎ払う。
『まずはお前からだ! 闇に還れ! 光の槍を受けよ!』
予想以上に鋭い動きを見せるナイトウ。
たじろぐ1匹目を正面から打倒す。
『うぉぉおお!! 力が! みなぎってくるぅ!!! 我が魂が燃え上がる!!!』
とにかく、うるさい。
『ラ・ムーよ!! 我に雷神の力を与えたまえ!!!』
ナイトウが必殺技を出そうとしている!? 皆、固唾を呑んで見守る。
3匹目が距離をとって回り込む。
『ライデン・ストラーーーイク!!!』
エイジが興奮して叫ぶ。「あ! あれはボクと同系統の技だよーーー!」
『ヒャッホォーーーー!!!!』
ナイトウは普通の攻撃を繰り出し、しかも空ぶった‥。
『あ‥この技はまだ覚えてなかった‥。』
突進する3匹目のタックルをモロに喰らって吹っ飛ばされるナイトウ。
数メートルは飛ばされ、頭から地面に落ちて転がっていく。
しかし普通に起き上がり叫ぶ。
『光の加護がある限り我は無敵だっ!! 今こそ我が力を解放する時‥光の波動が‥我が中で爆ぜる!!』
そうして3匹目を普通に突き刺して、あっさりと倒してしまった。
「‥ちょっと‥ぃぇ‥すごく、キャラが濃い人ですけど、鍛えれば強いのかも?‥‥。ベルさん、どう見ます?」リリスが困惑してベルナルディに丸投げた。
「悪くないわね♪ タフな男は嫌いじゃないわよ♪ アタシのとこで鍛え直してあげるわ♪」
『フッ、次なる戦いに備えよう』
ナイトウの転生問題は解決しないままだが、ひとまず、戦力にはなりそうな人材を獲得した。
「転生者なら、規格外とも渡り合えると思うよ。特別なスキルを持っている‥はずだから」エイジはリリスに耳打ちした。
「『転生者』‥ねぇ‥‥。エイジもそういうのなの?」リリスもこっそりエイジに聴いた。
「ふふっ。ボクはも~っと規格外だよ」ニヤリと笑うエイジ。
その夜、エイジは執事とメイドを集めて話し合った。
「ナイトウは異世界転生ではなく、遠い過去から遠い未来への『転生』ってこと、だよね」
「左様ですな。旧時代を終わりにしたのは確かー‥二千ー‥」
「2026年4月15日です。彼が旧時代で亡くなったのが2012年6月11日です」
「つまり、旧時代を終わりにするずっと前に亡くなっていた人間の魂が、今になって当時の記憶を持って転生してきたってことだよね」
「そのようですな‥。しかし解せないのが、その狭間で『女神』に会ったという話ですな」
「夢かもって言ってたけど、きっと会ってるんだよ。ボクたちの知らない『女神』に‥」
・・・うーん・・・
「少し気になるのですがー‥あの規格外の怪物たちも、何らかの関係があるのではないかと‥そんな気がしてなりませぬ」
「確かに次期は近いけど‥『女神』が怪物も産み出しているっていうのかい?」
「『女神』が直接産み出したのか、別の要因があるのか‥‥」
「ところで、ジー、ナイトウは『ステータス』も『インベントリ』も使えていたね?」
「左様でございますな」
「ボクたちも使えるようになるかい?『女神』の力では出来たようだけど」
「エッセンスを消費すれば出来ないことはございませんが‥‥」
「ウソ。意地悪な言い方をしてゴメンよ。ボクはジーが創ったこの世界の
「主殿‥‥ありがとうございます」
・
・
隣の部屋で寝ていたリリスの耳には、風の加護の力でエイジたちの会話が全て聴こえていた...。
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