第4部

20.模擬戦

時は戻って、エイジとリリスが再会を果たしたあと───


エイジたち一行は、リリス率いる冒険者部隊と共にエルドリアに到着した。


リリスはエイジたちを、ギルド本部に隣接する最高級の宿に案内すると「しばらくは、ここを拠点にしてちょうだい」と言って部屋のカギを渡した。


「ちなみに、あたしの部屋は向かいだから、いつでも遊びに来てね、エイジ~♪」

リリスはそう言ってエイジをギューっと抱きしめる。

豊満‥とまでいかないが、ほど良く膨らんだ胸が、ちょうど顔の高さにくるが、されるがままのエイジ。


ちなみに、カイルとディルは『自分らは場違いだから』と、一旦お別れした。


エルドリアに到着してから、どこへ行ってもリリスの顔パスで通れてしまうし、豪華な食事も用意される。


「リリスって、もしかして偉い人?」


「そりゃ~、冒険者ギルドの中では一番の古株ですからね。そして現役の腕利き冒険者。どお?」

リリスはクルリと回って魅せる。


「ジーさんから、だいたいのことは聞いているけど、エイジはこれからどうしたい?」

豪華な夕食をとりながら、リリスはエイジに問い掛けた。


「う~ん‥。ボクは、ギルドの依頼をこなしてお金を稼ぎながら、のんびりと大陸全土を旅して巡りたいと思ってるんだ」エイジは憧れの異世界ライフを想像して、自分の妄想にうっとりする。


「わかったわ! あたしも一緒に行く! ギルド本部には、もう話は通してあるから、何の問題もないわ! それに、大丈夫よ。あたしだって知らない場所の方が多いんだから、一緒に旅を楽しみましょう!」


エイジが望む旅のスタイルに関してもジーから聴取済で、根回しは完璧だったようだ。



翌日───



エイジたちが冒険者ギルドのクエストボードで、低ランクのクエストに目を通していると、ギルドの教官を務めるアインバーグと名乗る男が、エイジに模擬戦を申し込んできた。


「リリス様がそこまで深く心酔するお相手の実力を確かめさせていただきたい」


「ちょっと、アイン‥」


止めに入ろうとするリリスを制止して「ボクなら構わないよ? でも、模擬戦なんて初めてだから、お互い怪我しないようにやろうね!」

そう言って、エイジは快諾した。


「(若手冒険者がベテランに絡まれる! これって、あるあるだよね!!)」



ギルドの練習場。



大勢の冒険者たちが観戦に駆けつけている。


アインバーグとエイジは、お互いに木剣のみを持って対峙した。


「どちらかが降参するか、立てなくなるまで‥で、よろしいですな?」アインバーグが木剣を構える。


「良いよ。さあ、始めようか!」エイジは余裕たっぷりな表情で相手を誘う。


『てやぁぁあああ!!』先に動いたのはアインバーグだった。


相手が子どもだろうと容赦なく、強烈な一撃を振り下ろす。

だが、ヒラリとかわされ地面をえぐる。


「(ぉぉー‥これは喰らうと、ちょっと痛いかも)」


冒険者たちは大きな声援を飛ばしだす。

『やれー! やっちまえー!』『教官~大人げないっすよぉ~』『ちびっこがんばれー!』


この闘い、エイジにとっては『父親が幼い息子と闘いゴッコをする』程度の感覚なのだ。もちろんエイジが父親でアインバーグが幼い息子だ。

当然、勝ち負けなどはどうでもいい。


とにかく怪我をしないように精一杯力を加減しつつ、且つ、手抜きに見えないように何度か打ち込む。

しかし流石はギルド本部の教官を務めるだけあって、エイジの攻撃を余裕で受け流し、隙をついて反撃に転じてくる。


『うぉりゃぁあああ!!』


大きく横に払われた攻撃を木剣で受け止めるエイジだったが、体が宙に浮く。


バギャッ!


ゴロゴロゴロゴロ‥‥ゴッ☆


エイジの木剣が折れ、吹き飛ばされたエイジは地面を転がり、そのまま練習場の壁に頭をぶつけて大の字になって倒れた。


「ぇえ!(そ・そんなに吹っ飛ぶぅうう!?)」アインバーグは冷や汗を流して固まる。


それまで騒然となっていた練習場は、一瞬にして静寂に包まれた。


「エイジーー!!」リリスが慌てて駆け寄る。


しかし、リリスが到着するまでもなく、エイジはむくりと起き上がり、折れた木剣を見て頭を掻く。

「あれま‥これはボクの負け、だね?えへへ」


途端に練習場は歓声に包まれる。


『さすが教官!』『大人げないっすよぉ~』『ちっこいのも頑張ったなー!』『リリスさーん♡』やいのやいの・・


エイジに歩み寄り、手を差し出すアインバーグ。

「怪我は‥ありませんか? 模擬戦だというのに申し訳ない‥」


「ボクなら大丈夫だよ。アインバーグさんの一撃、凄かったよ~」


「しかしながら、エイジ殿は、まだまだ本気を出されていなかったご様子‥。この勝負は‥」


「勝ち負けなんてどーでもいいよ。楽しかったんだからさ♪」


アインバーグは、底の知れない少年にリリスが心酔している理由を、ほんのちょっとだけ垣間見ることができたような気がしていた。


「さってと! リリス! クエストを受けに行こうよ♪」

エイジは折れた木剣をアインバーグに手渡して、ギルドホールへと駆け出した。


「リリス殿、この度は私のわがままに突き合わせてしまい申し訳なかった」

深々と頭を下げるアインバーグに、リリスは「いいのよ! あたしも、今のエイジの力を見てみたかったしね」と笑いかけ、エイジの後を追った。



ギルドホールにて───


「そういえばエイジって、今何ランク?」


「Fランクだよー」ヒラヒラとライセンスカードを見せるエイジ。


「はぁ?」奪うようにエイジのライセンスカードをむしり取り、まじまじと確認するリリス。

「カウンターへ!」そう言って、エイジをカウンターまで引っ張っていく。


バァン☆


エイジのライセンスカードをカウンターに叩きつけて、リリスが叫ぶ。

「今すぐエイジのライセンスをSランクにしてちょうだい!」


「は?」突然の申し出に受付嬢が困惑している。


「ちょっリリス! ボクはのんびりやっていくんだから、いいんだよ」

「そうだとしても、Fランクじゃ薬草取ってくるくらいしか出来ないじゃないのよー」


騒ぎを聞きつけて、近くにいたカイルとディルが割り込んできた。

「俺たち、シルバムンヒルの調査依頼を完了してっから、それでランクアップが出来るんじゃねーか?」


受付嬢は「少々お待ちください」と言って、フォレストリッジの冒険者ギルドに問い合わせる。

フォレストリッジへは、レイガンたちが報告に戻っているはずだ。


「お待たせしました。確認が取れました。エイジ様とメイ様はDランクへの昇格が可能です」


「Dランク? Eじゃなくって?」


「はい、シルバムンヒルの調査依頼前に、すでにEランクへの昇格条件は満たされていました。シルバムンヒルでのご活躍はレイガン様からご報告で承っておりますので、お二人はDランク相当ということに‥」


「いいじゃねーか。上げとけよ、エイジ」ディルが背中を叩く。


「うん。じゃ~、メイも呼んでくるから、ちょっと待っててー!」そう言って、エイジは冒険者ギルドを飛び出していった。


エイジが走り去る後ろ姿を見て「こうして見ると、普通の無邪気な子ども、なんだがなぁー」と、ディルが苦笑いする。


しばらくして、メイドを連れて戻ったエイジはDランクへの昇格手続きを終えて、クエストボードの前に立った。


「さてと、これでー‥ランクCまでのクエストを受けることができるぞー」目をキラキラさせながら、クエストの張り紙を確認していく。


『オーガ討伐』『トロルの排除』『遺跡の探索』『護衛任務』『魔法生物の捕獲』・・・


「うーん‥どれも魅力的」と悩むエイジに、リリスが提案する。

「クエストも良いけど、街の近くに洞窟ダンジョンがあるのよ。Dランクなら潜れるわ。まだ最深部に到達した報告は受けてなかったわよね?」リリスは受付嬢に確認する。


「洞窟ダンジョン!? 行ってみたい!!」エイジは目を輝かせた。


「なら決まりね! 馬で半日ほどの距離だから、準備しなきゃね♪ 買い出しに行きましょう♪」すっかりデート気分のリリスだった。

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