12.地下墓地のリッチ
執事の足の肉がえぐれ、血が噴き出す。
「ぐっ‥これは‥不覚‥‥でした‥」ゾンビにトドメを刺した執事は、壁際に座り込む。
「ジーさん!!」駆け寄ろうとするアリサを止める執事。「離れていてください‥」
「ジー、ゾンビになる?」エイジが覗き込む。
「治癒魔法で傷は癒えましたが‥‥」メイドは一歩下がって様子を伺う。
「ハァ‥ハァ‥ハァ‥‥これは‥なるほど‥‥こういう事‥でしたか‥ハァ‥ハァ‥ハァ‥」執事は何かを確信したようだ。
「ジー、何か解ったのか!?」
「主殿‥‥ぁああぁああ‥るるるううぅううじじじじいいぃいぃぃいいい‥」執事の雰囲気が豹変した。
「やべぇぞ! エイジ離れろ!! 拘束しねーと‥」バートが鎖を手にしたまま慌てふためく。
次の瞬間、執事の顔面をパイのクリームが覆い尽くした。
「‥ポケット・パイ‥」メイドがスンとした顔で呟く。手にはもう1枚のパイを構えている。
・・・え?
誰もが執事とメイドを交互に観て、状況を把握しようと努める。
やがて、執事の顔からパイがずり落ちた。
「失礼いたしました。
「ど‥どういうこった?」
ハッと気づいたディルがメイドの手からパイを奪い取り、ゾンビ化したカイルの顔面に投げつけた。
しかし、カイルはゾンビのままだ。
「説明‥してくれ。できるか? ジーさん」レイガンが警戒しながら執事に問い掛ける。
「はい。このゾンビ化は病気的な感染とかではなく、魔力によって操られているのでございます。恥ずかしながら
「じゃあ、なんでカイルは元に戻らないんだよ!?」ディルが詰め寄る。
「残念ながら、常人の精神力では、あの魔力には抗えません。ですが、ご安心ください。魔力の元を絶てば、カイル殿は元に戻れるはずです。外傷はすでに癒えておりますし」
「本当か! 本当なんだな!?」ディルの目に希望の光が宿った。
「んで、魔力の元ってのは?」レイガンも安心して警戒態勢を解いた。
「町の中央付近でございます。恐らくそこの地下‥ですな。下の方から強力な魔力の流れを感じました」
一行は襲い来るゾンビを薙ぎ払いながら町の中央にある教会を目指して突き進んだ。
「この人たちは、魔力の元を絶てば正気に戻るの?」
「呪縛からは解き放たれるでしょうが、すでに肉体は朽ちておりますゆえ‥‥」
「‥‥安らかに眠らせてやらねーとな」
教会の中に入ると、祭壇の奥からスケルトンが這い出してきた。
「あそこに、地下への入り口があるようです」
モーニングスターと鎧を装備したスケルトンに苦戦を強いられるが、メイドの素早い回し蹴りで撃破する。
地下へと進む一行。
「(地下墓地‥ダンジョンかー♪)」エイジは常に楽しいそうだ。
地下墓地の通路は迷路のように入り組んでいた。
ミイラとスケルトンを蹴散らして進む。いや、迷う。
「さっきの場所に戻ったんじゃねーか?この壁、見覚えがあるぜ」崩れかけた壁を指さしレイガンが呟く。
「ジー、魔力の出所は解るかい?(そろそろボス戦が見たいなぁ)」
「‥‥この、先ですな」
「そっちは行き止まりだったんじゃ?」バートが松明で通路を照らすと、炎が風で揺らめく。
「隠し通路でもあるのかな?」
突き当りの壁を押してみると壁が回り、通路は奥へと続いていた。
通路を進み長い階段を下りると、礼拝堂のような大きな部屋に出た。
祭壇の前に、朽ち果てたローブをまとい黒い骨の手で杖を握る影が見える。
目の窪みには不気味な赤い光が宿っている。
「あ・あいつは!?」レイガンが信じられないといった焦りの表情を浮かべ、剣と盾を構え直す。
バートとアリサも額に汗をにじませている。
「あいつ、強いの?」エイジが目を輝かせる。
「リッチ‥か? 個体差でピンキリだが、ピンの方はランクA以上の冒険者が数人がかりでもトントンだって噂だぜ」ディルがクロスボウに火を宿して狙いを絞る。
『カカカカカッ‥久しぶりの
「あいつ! 喋れるんだ!?‥今ボクたちのことを『ナマモノ』って呼んだ?『セイジャ』じゃなくて『ナマモノ』って‥」
「エイジ、やべぇぞ!ありゃーピンの方だ。飛び切りの‥」ディルはクロスボウを納めながら、エイジに囁きかけた。
「あいつは‥ネクロリッチだ‥間違いねぇ‥」レイガンが怯えた表情で呟く。
バートとアリサも明らかに怯え切っている。きっとこの三人の過去に何かしらの因縁があるのだろう。
「それじゃー‥ボクたちの出番ってことで、いいよね?」歩み出るエイジの両翼に、執事とメイドが付き従う。
「バカッ! よせっ!!‥」慌ててエイジに手を伸ばすディル。
「みんなは下がっていて」まるで無警戒に歩みを進めるエイジ。
『まずは無知な子どもからカー!!』ネクロリッチが杖を繰り出すと漆黒の波動がエイジに向かって溢れ出す。
波動をモロに喰らったエイジは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「(おほぉーースゴい技だ)あいたたた...」ケロっとしてホコリを払うエイジ。
『!? バ・バカな‥確実に捉えていたハズ‥‥』
「我が主がその程度のチカラでどうにかできると思わないでもらいたいですな」執事が一瞬にしてネクロリッチの後ろに回り込み、強烈な蹴りをお見舞いする。
体制を崩したネクロリッチの脳天に、メイドの『かかと落とし』が炸裂し、頭蓋骨が砕け散る。『ブベッ‥‥』
「す・すげー‥‥」レイガンたちは目の前で起きていることに思考が追い付かず、ただただ眺めていた。
頭蓋骨を砕かれたネクロリッチが、ゆっくりと立ち上がると、砕かれた頭蓋が修復されていく。
『ガ‥カ‥ガ‥ゴ‥ゴレジギノゴドデ‥‥』
(バリバリバリッ!!)
「ライトニングストラーーイクッ!!」黄色一閃‥エイジの必殺技がネクロリッチの『魂の宝珠』を貫いた。
「ア゛ア゛ア゛ル゛ル゛ル゛ジジジジ‥」ネクロリッチの近くにいた執事が感電している...。メイドはスンとしているが髪の毛が逆立っている。恐らく同じように感電しているだろう。
ネクロリッチの修復しかけていた頭蓋がカランと床に落ち、体の骨と一緒に灰になっていく。後にはボロ切れのローブと魔力を秘めた杖だけが残った。
「ふぅーーー。ピンキリの、キリの方だったみたいだね」呼吸を乱すこともなく、あっけらかんと言い放つエイジ。
「お・終わった‥のか?」ディルが歩み出る。
執事が砕けた珠を拾い「これがあ奴の核だったようですな」と言って、粉々に握りつぶした。
一瞬だったとはいえ魔力で操られたことを根に持っていたに違いない。
レイガン、バート、アリサの三人は、ネクロリッチのローブと杖を手に取り、神妙な表情を浮かべている。
「安らかに‥」そう囁いて、その場を後にした。
地上に戻ると、夜が明けていた。
朝日に照らされるシルバムンヒルの町並み。
所々に静かな屍に戻ったかつての住人たちが横たわる。
「呪縛から解放されたようですな」
「アニキは!」ディルが酒場へと走る。
一行が酒場に到着すると、二階からカイルとディルが降りてくるところだった。
「面倒かけたみてぇだな」申し訳なさそうに頭を掻くカイル。
「問題ない。全部片付いたぜ!」
「あーーー疲れたぁーーー水浴びしたーーい」
「すぐにフォレストリッジに向けて出立しようか」
「だな。住人たちをこのままにしとくのも忍びないが、俺たちだけじゃ手に負えねぇ。エイジたちはこのままエルドリアに向かうのか?」
フォレストリッジからは二台の馬車に分乗してきたので、ここから別々でも問題はない。
「そうだなぁー。冒険者ギルドへの報告は任せちゃって良いかい?」
「もちろん、お安い御用だ」
「俺たちもエルドリアに同行させてもらっても良いか?」ディルとカイルが申し出る。
「俺たちゃ別に構わないぜ? エイジも問題ないか?」
「問題ないよ。賑やかな方が旅は楽しいし」
エイジたちはレイガンたちと別れ、冒険者ギルドの総本部があるエルドリアに向かって出発した。
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