11.アンデッドの夜
エルドリアの街までは、馬車で20日ほどの道のりなので、まずは中間地点にあるシルバムンヒルという小さな宿場町を目指すことになる。
しかし、ここしばらくシルバムンヒルからの定期便が途絶えているらしく、冒険者ギルドにも調査依頼が上がっていた。
「ジーは、冒険者登録は済ませているのか?」
「はい、昨年登録しまして、今は冒険者ランクBでございます」
「なにーー!! 抜け駆けしたなーー!?」
「申し訳ございません。一年以上も活動しておりましたゆえ、必然的にランクが上がってしまいまして。しかしながら、
「まぁ、いいや。それじゃ、どうせ通り道だし、そのクエストを受けて行こうか」
エイジが依頼書を取ろうとした瞬間、後ろから大きな手が伸びてきて先を越されてしまった。
「あれれ‥」振り向くと、そこにはレイガンが立っていた。
「レイガン! 久しぶりだね!」
「おぉ~エイジじゃねーか。元気にしてたか? ぁ、お前もこのクエスト狙いだったか?」
「うん。エルドリアの街まで行きたいから、ついでに、ね」
「そうかそうか。ならちょうどいいや。この依頼、人数制限があってな‥七人以上のパーティ向けだから、どうだ、一緒に」レイガンは例の如くウインクを飛ばす。
「是非お願いするよ! アリサとバートも一緒だよね?」見渡すとギルドホールの隅っこで手を振っている二人がいた。
エイジも手を振り返す。「じゃ、あと一人だね」
「あ~? おぉ、今度は執事も連れてるのか。初めましてだな」
「はじめてお目にかかります。ジーと申します。レイガン殿のお話しはメイドから伺っております。我が主が大変お世話になったそうで」執事は深々と頭を下げた。
「なーに言ってんだ。命を救われたのはこっちだぜ。えっと‥エイジの仲間ってこたぁ、あんたも規格外の‥ってことだよな?」レイガンは声を潜めて執事に耳打ちした。
「ほっほっほっ。それは追々」
「心強ぇや。そんじゃ、あと一人をどぅにかしねぇとだな」
その時、横から二人組の男が声を掛けてきた。
「その依頼、あと二人増えても問題ないか?」カイルとディルの二人だった。
「俺たちは冒険者ランクDになったばかりだが、Cランクの依頼なら受けられるだろ?」
「カイル! ディル! もうランクアップしたんだね!」
「なんだ、エイジの知り合いか。なら問題ないな」レイガンは二人の参加を快諾し、八人でシルバムンヒルの調査依頼を受けることになった。
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シルバムンヒルまでの道中、必殺技の話題で盛り上がった。
みんな、独自に技を編み出しているそうだ。
レイガンは盾を上手く使って敵の攻撃を防ぎながら反撃する技『ガーディアンバッシュ』
バートは短剣を高速で繰り出す連続攻撃『フラッシュスラッシュ』
技名は自分で考えたそうだ。
アリサは水系の魔法を使いこなす。戦闘用としては、単体相手の『フリーズショット』と複数の敵の動きを鈍らせる『アイスストーム』が得意だ。他に生活用魔法も使える。水系の生活魔法は重宝される。
大きな街へ行くと魔法学校があり、呪文を会得する事が出来るそうだ。
カイルは一時的に痛覚を無視して暴れまわれるバーサクモード。だが、これは単にブチギレて暴れるだけという噂もある。
ディルは弓やクロスボウの矢に火属性を付与して放つ事が出来る。特に名前は付けていないが、チマチマと燃やしたり、一気に爆発させたりもできる。
メイドは素早い動きと格闘センスから、通常の攻撃そのものが必殺技レベルだと賞賛された。スンとした態度を崩さないメイドだったが口元は喜びを隠せずにいた。
最後に満を持して披露した執事の必殺技には、みんな、ただただ唖然としていた...。
エイジはレイガンたちにアドバイスしてもらい、雷を交えた剣撃を習得して、『ライトニングストライク』と命名した。
剣に雷の力を宿し、一瞬で敵に突進して斬りつける技だが、近くに味方がいると一緒に痺れさせてしまうので使い処には十分な注意が必要だ。
エイジ曰く『弱点や制約があってこその必殺技だよ』だそうだ。
そうこうして十日目の日が落ちる頃、一行はシルバムンヒルに到着した。
町の周辺は異様な臭気に満ちていた。「クサいね‥この臭いは‥死臭かな」
シルバムンヒルは最悪な事態に陥っているのだと、誰もが確信した。
町は暗く静まり返り、生き物の気配を感じない。
が、酒場にだけ灯りがともっている。
行ってみると、店主が一人居たのだが、酷い悪臭を放っている。
「い・い・い・ら・・あぁあああ・・ぃぃいいい」
生ける屍‥ゾンビだ。
武器を構え、臨戦態勢をとる一行。
「周辺に動体反応多数。完全に囲まれています」メイドが淡々を言い放つ。
「主殿はお下がりください」
「そうだな。エイジとメイちゃんはー‥二階にでも上がっててくんな。いくら強ぇったって、女や子どもにゾンビの相手はさせられねぇーや」
「あら? あたしも女ですけど?」アリサは呪文の詠唱を中断してまで突っ込む余裕があるようだ。
「あははっ。じゃ~、ここは任せたね!(本物のゾンビだ!)」エイジはメイドを連れて二階へ上がり、手すりの隙間からみんなが戦う様子を楽しんだ。
酒場の入り口から雪崩れ込んだゾンビは、レイガンの『ガーディアンバッシュ』で吹っ飛ばされ、アリサの氷魔法で動きが封じられていく。
しかし他のゾンビたちが窓や裏口から次々と侵入してくる。最初は軽快に撃退していたが、数に押され次第に追い詰められていく。
ガブッ「ぐわっ!!」カイルが腕を噛まれてしまった。
「アニキ! くそっ!!」
カイルのバーサクモードが発動して、酒場は血肉が飛び散る地獄絵図と化した。
やがてゾンビの襲撃も収まり、一行は二階で休息する。
「アニキ‥なんともないか?」
「ハァ‥ハァ‥‥ダメだ‥俺は‥ここまで、のようだな‥ハァ‥ハァ‥‥」カイルの顔から生気が抜けていくのがわかる。
「そんな‥なんとかならねーのかよ!?」
「先ほどから治癒魔法を掛けているのですが、効果が見られません」メイドの額から汗が流れ落ちる。
やがて、カイルは沈黙する。
「おい‥アニキ‥嘘だろ?‥‥なぁ!!」
次の瞬間、カイルはカッ!と目を見開き襲い掛かろうとするが、両脇に控えていたレイガンたちが手早くカイルを拘束し、柱に縛り付けた。
「なんてこった‥‥‥」
「(ぉぉー‥‥ゾンビに噛まれたら、やっぱりゾンビになっちゃうんだ‥‥)カイル‥口は悪かったけど‥立派な『冒険者』だったよ」
縛られた縄を引きちぎりそうな勢いで暴れるゾンビカイルに気圧されて、アリサが後ずさった時、階段から床がきしむ音が聞こえた。
(ミシッ‥ギシッ‥)
階段を這い上がってきたゾンビが、アリサの足元に顔を出した。
「アリサ殿ー!!」(ガブッ)
咄嗟にアリサを庇った執事の足に、ゾンビがかぶりついた。
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