10.必殺技
エイジが冒険者になってから数日───
クエストと獣狩りを繰り返す日々が続き、銀貨も随分と貯まったので市場へと足を運んでいた。
「あれ? あそこの建物は教会かな? ちょっと寄ってみようか」
「承知」メイドは相変わらず表情を変える事なく付き従う。
「お邪魔しまーす」教会の入り口をくぐると、粗削りな木像が祀られた祭壇が目を引いた。
「神のご加護があらんことを‥」そう祈りを捧げ、町人に薬瓶を渡すシスター。
町人はお礼をいって教会を出ていく。
エイジは祭壇の前まで進み出ると、興味深げに周囲を見回した。「なんだか落ち着く場所だね」
シスターがエイジに気づき、優しく微笑んだ。
「こんにちは。旅の方ですか? ここはルミナス様の光が降り注ぐ聖域です。お祈りや癒しが必要なら、どうぞ遠慮なくお越しください」
「ルミナス様?」エイジは祭壇の近くに置かれた古い書物を手に取り、ページをめくる。
「なるほど‥。光の神として信仰されているんだね。(ボク以外に『神様』は存在しないんだけどなー)その薬瓶は?」
シスターは薬瓶を棚に並べながら説明する。
「これらの薬は微力ですが、傷の治りを早めたり、病を癒す効力があるんですよ。これこそ神が起こしてくれた奇跡だと信じています」
エイジは微笑んで答えた。
「‥いつの時代であっても、奇跡を起こすのは『神』じゃない。信じる者の心が奇跡を起こすんだよ」
シスターは静かに頷き、肯定も否定もしなかった。
教会をあとにしたエイジたちは商店街をぶらぶらして、露店で食事したり、無表情のメイドにニヤけた絵が描かれたマスクを付けさせてみたりと、余暇を満喫した。
宿屋への帰路───。
「うーーーーん」腕を組んで悩みだすエイジ。
「どうされましたか? 主様」ニヤけたマスクをしたままのメイド。
「物足りな‥‥ブフッ!」エイジは堪えきれず、吹き出してしまうので、ニヤけたマスクを外させた。
「単調なクエストと獣狩りの毎日だもんなー‥。もうすぐ冒険者ランクはEに上げられるだろうけど、なんかこう‥刺激が欲しいなぁー」
「刺激‥ですか」
「そういえば、ジーはどうしてるだろう?」
「ジー様でしたら‥」メイドが言いかけた時、目の前に初老の執事が現れる。
「お呼びでしょうか、主殿」
「おお! ジー! どこ行ってたんだい?」
「お久しぶりです。
エイジは目を輝かせて言った。「修行?なんの修行!?」
「もうおわかりでしょう。『必・殺・技』の修行でございます。主殿のことですから『のんびり生活するー』と仰いながらも、そろそろ退屈しだす頃だと、私(わたくし)、完璧に理解しておりますゆえ。(フフッ)」
「なんだってーー!!! 後半はどうでもいいけど、必・殺・技ーー!? 見せて! 見たい!!」
「もちろんでございます。しかしながら、町中では危険を伴いますゆえ、町の外へ移動しましょう」執事は自身たっぷりに町の外へと歩き出す。
「この辺りで‥大丈夫そうですな。本来であれば、何かしらの敵との交戦の最中、絶妙なタイミングで打ち出す技なのですが、デモンストレーションということで‥メイ殿、私(わたくし)に向かってきてください。本気で、構いませんよ。(二ヤリ)」
「‥承知」スンとした表情が一瞬険しくなり、構えを取る。
緊張した空気を突き破り、メイドが突進した瞬間、執事が叫ぶ。
「エレガァ~ントゥ・スピン♪」
そして華麗に回りだす。すると何処からともなく紙吹雪やら花びらが舞い、メイドの視界を奪う。
・・・。
「ふふふっ。メイ殿、もうお終いですか?」
メイドは再び執事に向かって突進する。
「第二の必殺技! ポケット・パイィ~~‥ンヌッ」執事は突然ポケットからパイを取り出し、メイドに向かって投げつける。意表を突かれたメイドはモロに顔面で受けてしまう‥。
・・・・・・。
メイドの顔から、ゆっくりとパイがずり落ちる。
「フッ‥フフッ‥」滅多に感情をオモテに出すことのないメイドが引きつった笑みを浮かべている。
「次なる技はー!」
「ぃゃ‥もう、いいや」
「え!?‥よろしいので? 最強の必殺技『カトラリー・カーニヴォル』を見ずして...」
「(技名聞いちゃうと気になるけど‥)気にはなるけど、それ以上やったらメイが切れる」
「ウフフッ‥フフッ‥」引きつった笑みを浮かべている。
「ぁぁー‥メイ殿、大変失礼いたしました。メイ殿なら余裕で避けられるものと思いましたのに‥」
そう言って執事は大慌てでメイドの顔を奇麗に拭きあげていく。
「ジーの宴会芸はさておき、やっぱり、スキルとか魔法とかを会得したいな」
「我々なら、想いのままの技を具現化できますが、そういうことでは無く‥ということですな?」
「そうなんだよ。この世界の理に合わせて、この世界の住人ならば会得可能な技を極めたいじゃないか」
「そういうことでしたら、冒険者ギルドの総本部があるエルドリアの街へ行ってみるのが良ろしいかと。二百年前にギルド殿たちと共に旅をして行った、あの街でございます」
「あぁーー‥あの街かーー‥‥」かつて共に旅をした少女を思い出した。
エイジの感覚では半年ほど前の記憶だが、現実ではは二百年の歳月が流れている。
「(リリス‥冒険者として名を残せたのかなぁ)よし! 行ってみよう!」
早速、エイジたちは旅支度を始めた。
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