9.クエスト

クエストを受けるには、ボードに貼られた依頼書から条件に合ったクエストを選んで受付に持っていく定番の仕組みだ。


エイジたちがFランクのクエストを確認していると、一緒に適正試験を受講した面々もクエストボードの前に集まってきた。


例の二人組の片方は、ファーストコンタクトこそ感じが悪かったが礼儀はわきまえているらしい。

「さっきはすまなかったな。その‥なんだ、同じ冒険者として‥とにかく、死なないように無理だけはするなよ」

「へ! ガキにかまけている暇はねー! ディル、さっさと行くぞ!」

二人組はEランクの冒険者として登録されたので、Dランクの討伐クエストをチョイスしていった。


優男はメイドの攻略を諦め、ギルドの受付嬢を口説いている。


生真面目そうな男とローブの少女は連れ立って、Eランクのクエストを選んでいる。


「ボクたちは、Fランクのクエストを受けよう。Fランクだからー‥やっぱり最初はコレだね!『薬草の採取』」

「承知」


ギルドの受付で採取用のカゴを受け取る。

「薬草は、このカゴに入れて持ってきてね。鮮度を保つ加護が施されているのよ。採取する量は、内側のこのラインくらいまでで十分よ。それから森の奥は危険なので深く立ち入らないように気をつけて行ってきてね」


「はーい。ありがとう! お姉さん。行ってきまーす!」



森の入り口───



「さてと、メイ、どっちがいっぱい採取できるか勝負しよう!」

「承知」


メイドは茂みに近づくと何本かの草をむしり採ると、また別の茂みに移動して草をむしり採る。

その動きに一切の迷いも無駄もない。

「ちょっ! メイ!『力』を使うのは無しだよ~。ちゃんと目で見て探さなきゃ」

「‥承知」



「これはー‥ただの草か‥。こっちのはー‥毒消し草‥かな? あ、これはちょっと珍しいヤツだ」


順調に薬草を採取していたが、夢中になり過ぎて森のかなり奥まで入り込んでいた。


突然、男の悲鳴が響き渡った。


「ん?」見ると、あの二人組が大きなトカゲに追われてエイジたちの方へ逃げてくるところだった。エイジなら丸呑みにされてしまうくらい大きなトカゲだ。


「ぁあ!? くっそ!! お前らなんでこんなとこに!!」

「なぁぁああ!? クソガキがぁぁあああ!!」


二人組はエイジたちの前で立ち止まると、大トカゲに向き直り武器を構えた。


「お・お前らさっさと逃げろ! 森を抜ければ追ってこないはずだ!」ディルと呼ばれていた男はクロスボウを構える。


「チキショーー!! このっクソットカゲヤローーー!!」口の悪い方が剣を振り回し大トカゲに立ち向かうが攻撃はかわされ、爪の反撃を受けて腕を負傷する。


「っのヤローーー!!」男は自分の血を見て逆上し、滅茶苦茶に剣を振り回す。

しかし、ことごとくかわされ、逆に傷が増えていく。


「ディル!! ガキどもをさっさとどーにかしろっ!!!」


「ボクたちも戦えるよ?(悪い人たちじゃなかったんだ)メイ」エイジは短剣を構えて、メイドに目で合図を送る。

「冒険者たるもの、仲間を見捨てたりはしない」大トカゲの横へ回り込むと、隙を見て脇腹を切り裂いた。

のたうち回る大トカゲに、メイドが上空から『かかと落とし』を決め、トドメを刺した。


「同じ時期に冒険者になった『仲間』だからね。(キマったーーー♪)」エイジは二人に向かって親指を立てる。

メイドは何事も無かったかのように、スンとしてエイジの隣に付き従った。


「え‥」「ぁあ?」呆然となる二人。



「‥というワケで、ボクたちは目立ち過ぎないように冒険を続けたいんだ」


「本当の実力はまだまだあんなもんじゃねーってことか...。しかもそんな軽装で‥すげー子どもが居たもんだ。なぁ、アニキ」

「まったくだ。しゃくだが、目の前であんだけの力を魅せられちゃ~‥おまけに治癒魔法ときたもんだ‥。そのー‥なんだ‥あ・ありがとな。助かったぜ。俺はカイル。そっちは弟のディルだ」

すっかり傷の癒えた腕を振り回すカイル。


「二人は兄弟だったんだ。でも全然似てないね?」

「血は繋がってないからな。俺たちゃガキん頃に‥」カイルが言いかけたがエイジに遮られる。

「ま、いいや! ボクたちはまだ薬草採取の途中なんだ。メイ、今日中にカゴいっぱいにするぞ! ぁ、カイル! ディル! そのトカゲ、テキトーに処理しといてね~」エイジは薬草採取のカゴを背負って森の奥へ駆けて行った。


「ぁー‥ぉぅ‥。気ぃつけて行けよぉー‥」



ドンッ!


ギルドのカウンターに、カゴから溢れるほどの薬草が納品された。


「こ・これだけの量を、お二人で?半日足らずで!?」


「たまたま、すんごい群生地をみつけちゃって(テヘッ)」


「それにしたって‥希少種も混ざってるじゃないですかー!!‥これも!‥これも!!」


「はははっ。ビギナーズラック的な?(メイ、マズい、やり過ぎたかも)」


しばらくして‥。

「コホンっ。お待たせしました。えーっと‥報酬はこちらになります。お二人合わせて銀貨2枚と銅貨が70枚。どうぞ」



昨夜と同じ宿───。


「レイガンたちの護衛任務も銀貨2枚だったよなぁ‥。本当は絶対にもっとしたはずだよ」

「護衛対象が一人の場合、最低でも一日あたり銀貨5枚が護衛任務の相場のようです」

「ぇえー!?ってことはー‥護衛対象は二人で三日だからー‥えっとー‥銀貨40枚くらい?」

「30枚です」

「そう! 30枚! 正解!」


レイガンには、町についてからも飲食や最初の宿代もお世話になっていた。


「今度会ったら、何かご馳走しなきゃだね。ところで今のボクたちの所持金はー‥」


最初に野盗から得た銀貨の残りが1枚。

グリーンウッドからフォレストリッジまでの道中に倒した獣の素材で銀貨20枚。

薬草採取のクエスト報酬で銀貨2枚と銅貨が70枚。

今夜の宿代、銅貨40枚を差し引いて、銀貨23枚と銅貨30枚。


「装備もちゃんと整えたいし、明日からは金策だね」

「クエスト報酬よりも、獣を狩って素材を売るのが効率的です」

「よし!Fランクのクエストをやりつつ、獣狩りにしよう!」

「承知」


方針が決まり、布団に入る。

窓から星空を眺めて、これからの冒険に想いを馳せてながら眠りについた。

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