7.冒険者たる者

一行が村を出てから半日ほどが過ぎ───


「主様‥」メイドが危険を察知して、エイジに耳打ちする。

「うん。ありがとう」


「みんな止まって‥」周囲の異変に気付いたバートが警戒態勢を取る。


アリサは杖を構えて、魔法の詠唱を始めた。


レイガンは背負った荷物を降ろし、大きな盾と片手剣を構える。

「エイジ、メイちゃん、ちょーっと荷物の番をしててくれ、な」


「フリーズショット!」アリサの声と同時に杖から放出された氷のつぶてが、街道脇の草の茂みを貫くと獣の断末魔が響き渡った。


次の瞬間、反対側の茂みから二匹の獣が飛び出してきた。

バートは冷静に最小限の動きで獣を交わし、すれ違いざまに短剣を急所に突き立てた。

レイガンはもう一匹の獣の突進にタイミングを合わせて盾を突き出し、獣を怯ませた。その瞬間を逃さず、片手剣で一刀両断にした。


「みんな、ただのお人好しかと思ったら、ちゃんと強いんだね!」エイジは手を叩いて喜んだ。


「ハッハッハッ、これでも俺たちゃCランクの冒険者だからな~」レイガンはそう言ってウインクを飛ばすと、荷物を背負い直してまた歩き出した。

バートは素早くキバと爪を回収して後に続いた。


「これぞ、冒険の旅って感じだねぇー!」エイジの足取りは軽快だった。


「普通はもっと怖がるもんなんだけどなぁ‥。エイジ、お前、体力もあるし、とんでもねー大物になるかもな。ハッハッハッ!」



一行は日が暮れる前に最初の野営ポイントに到達した。

夕食の後、エイジはレイガンたちの冒険譚に胸をときめかせた。



翌日───



野営地を後にして程なく‥

街道を外れた草原から、四人の冒険者が悲鳴を上げながら駆け上がってきた。

レイガンが声を掛けようとしたが、四人は一目散に逃げていった。


「ちっ‥あの野郎ども‥‥ヤベぇことになったな」レイガンは慌てて荷物を降ろし、盾と剣を構える。

アリサとバートも臨戦態勢を取るが、昨日のような余裕が感じられない。


「主様、生体反応、多数」メイが冷静に報告する。

「うん。ただ事じゃないね」エイジは荷物を降ろして、嬉しそうに短剣を構えた。


「エイジ、メイちゃん、なるべく俺たちの後ろに‥」言いかけた時、草わらから数匹の獣が飛び出してきた。


アリサはすぐに杖を振り上げ、魔法を放つ。「アイスストーム!」

冷気を帯びた疾風が獣たちの動きを鈍らせるが、その後ろから別の獣が次々と飛び出してくる。


昨日遭遇した獣とは少し違う上位種が混ざっている。


「バート、右側を頼む!」レイガンが指示を出すと、バートはすばやく動いて獣の一匹に短剣を突き立てた。


エイジは短剣を握りしめ、ブルブルと震え始める。


「メイ、これって、ピンチだよね! ね!」嬉しそうに眼を輝かせていた。


「ぐわっ!」レイガンが背中を負傷し、バートも足をやられて動きが鈍っている。


「ボクたちも参戦していいかな? いいよね!」その場の雰囲気とは裏腹に無邪気な笑顔で、負傷したレイガンを抱き起すと同時に『魔法』で傷を癒す。


メイドはバートの足を癒し、アリサに向かった獣を蹴散らしている。


エイジは獣の群れに飛び込み、次々と切り捨てていく。


レイガンたちが呆気に取られている間に、残り少なくなった獣たちは逃げていった。


「終わったみたいだね」エイジは息を乱す事もなく呟く。

メイドは何事も無かったかのように、スンとしている。


「‥あーっと‥‥訊いてもいいか? お前たちって‥何者なの‥かな?」レイガンは顔を引きつらせて、地べたに座り込んでいた。


「ふふふっ(この瞬間がたまらない!気持ちいい~♪)ボクたちは、冒険者になりたい、ただの旅人だよ。(~♪)」


「ハハッ‥ハッハッハッ! こりゃ~大物どころの話じゃなかったな! 伝説になれるレベルだ!! いや~参ったぜ!!」

レイガンが額に手をあて大笑いしはじめると、アリサとバートも笑い出した。


死をも覚悟した絶望的な状況から脱した安堵感もあり、笑いが込み上げて止まなかった。


「そんだけ強いなら、護衛なんて余計なお世話だったな?」


「そんな事ないよ。こうして冒険者の先輩たちと旅が出来るのは凄く楽しい。ボクたちは遠くから来たから、知らない事だらけだしね」


「先輩ときたか。ハッハッハッ! そんじゃ、フォレストリッジまで、しっかり護衛させて頂きますか」レイガンは膝をパンッ!と叩いて立ち上がると、荷物を背負って歩き出した。


キバと爪を回収したバートも後から追いかけてきた。「大漁だぜ!」と満足気だ。


しばらく行くと、さっき獣から逃げていた四人が倒れていた。

追ってきた獣に襲われのだろう。

三人は既に息が無い。残った一人も致命傷を負って虫の息だ。


「主様、治療しましょうか」メイドが申し出たが、レイガンがそれを止めた。

「いや、いい。自業自得だ。獣に追われて必死だったのは分かるが、その獣を俺たちに擦り付けて逃げてった連中だ。助けたとしてもギルドの規定で厳しい処罰が下される。‥俺たちと協力して戦ってりゃこんな事には‥」


「‥周辺に生命反応ありません」


最後の一人も息を引き取った。


「冒険者ってのは、いつも死と隣り合わせの職業だ。仲間を見捨てたり、他人に危険を押し付けるような行為は許されない。絶対にな...」レイガンはそう言って寂しげな表情を見せた。


「さ、気を取り直して行こうぜ! 野営地まではまだ距離がある」



その夜、エイジとメイドへの追及が止まらなかった。

「あの身のこなしに剣さばき、おまけに治癒魔法まで使える旅人か‥しかもまだ子どもだぜ?」

「メイさんの格闘技もBランク‥いやAランクの冒険者にだって引けを取らない動きだったわよ」

「メイちゃんも治癒魔法使えるんだろ? ほんっとに、あんたら、どっから来たんだよ」

「だいたい魔法だって無詠唱だったでしょ?見てたわよ」

「で、お前ら、他にはどんな事ができるんだ?」

‥そうして夜は更けていった‥。



翌日───



昼頃には目的地であるフォレストリッジが見えてきた。

石で組まれた立派な城壁に囲まれた町だ。

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