5.冒険者ギルド

夜が明けるのを待って、ギルドとガストンは出発の支度を始めた。


「しっかし昨夜のアレは何だったんだ? 悪い夢でも見ていたみたいだぜ‥」言いながら周囲を見渡す。

そこに散乱している無数の獣の死骸が、漂う死臭が、これが現実だと告げている。

「夢じゃねーんだな...。ジーさん! この死骸はどーすりゃいいんだ?」

次の町まで同行することになった執事に問い掛ける。


「そうですなぁー。キバと爪、毛皮も素材として売れると思いますが、この数を捌いていたら日が暮れそうですな。かと言って放置してしまいますと、死肉に群がる他の獣が道沿いに集まってくるやもしいれません」

そう言うと執事は、比較的状態の良い死骸を3つ4つ並べて凍結させた。


「はぁ!? こ・今度は何しやがったんだ!?」ギルドが声を荒げる。


「このままですと腐敗して持ち運ぶには難がありますゆえ、凍らせました。次の町で捌いてもらいましょう。残りの死骸からは、キバと爪だけ集めて、あとは燃やすのがよろしいかと。いかがでしょうか、主殿」

執事は『神がかった力は極力使わないようにという主の言いつけを守り、最低限の魔法に留めましたぞ』という意味を込めてのドヤ顔をエイジに向けた。


「いいね。任せるよ!」エイジは執事のドヤ顔の意味を汲み取り、親指を立てて応えた。


執事は深々と頭を下げたあと、早速作業に取り掛かった。


「ほんっとに‥何者なんだよ。あんたら‥」ギルドも執事に見習って、キバと爪を集めた。


それからの道中、エイジと執事はギルドたちに『異世界の定番』、特に冒険者について多くを語った。


「なるほどねぇー‥。坊主が言ってた『冒険者ギルド』てのは、そういう事だったのか。確かに今の世には、そんな組織は存在しねーな。聞いたことが無い」


「これからは先日のような獣が多くなってゆくことでしょう。もっと狂暴でもっと凶悪な魔物‥モンスターの出現もあり得ます。それらに対抗すべく、多くの冒険者を育成する必要があるのです」


「冒険者を育てつつ、町の保安維持に努める組織か‥。町に着いたら、お偉いさんと話し合ってみよう。な、ガストン!」


野営地ではジーが様々な武器を生成して、扱い方を教え込んだ。

ギルドは容姿と体格からバトルアックスがお似合いだった。実際、扱いもすぐに上達した。

ガストンは元々、短剣の扱いがプロ並みだった。

リリスは森の民だけに弓矢の扱いに長けていた。加えて風系の魔法も習得することが出来た。


そうこうしているうちに、ギルドたちは奴隷商人ではなく、親や身寄りのない子を見つけては保護していた事実も明らかとなり、より打ち解ける仲になっていた。


半月ほどが過ぎ、獣の襲撃にも無難に対処できるようになった頃、旅の終わりが見えてきた。


「ようやく目的の町が見えてきたぜ‥。ジーさん、エイジ、ほんっとに世話になったなぁ」


「こちらこそ、でございます。良い旅路でした」

「ボクも楽しかったよ。とっても」


「エイジたちは、これから何処かへ行っちゃうの?」リリスは不安気な表情をエイジに向けた。


「ああ、さらなる冒険の世界へ向けて、長ーい旅に出ることになる。(200年ほど『二度寝』しとけば、ボクの望む異世界ファンタジーな世界が完成されるだろう)」


「もう‥会えない‥のかな」リリスは涙目になっていた。

エイジは胸の奥がチクリと痛むのを感じた。


自分がここに留まって彼らと共に冒険者の世界を築き上げていく道も悪くはない、と一瞬思ったが、

求めている冒険はそれじゃない。未知なる世界を旅する魅力は何ものにも代えがたい。

エイジの心は決まっていた。


「リリスならやっていけると信じているよ。ボクが向かう遠い場所(200年後の未来)まで名前が届くような、偉大な冒険者になれるっ‥てね!」


リリスは最初から分かっていた。エイジとはここでお別れだということを。

「うん。きっと大物になって、エイジを追いかけるから!」涙をこらえ、笑顔で別れを告げた。



エイジたちと別れたギルドたちが町長の屋敷へ向かうと、何やら慌ただしい空気が流れていた。

『武器が全然足りてないぞ! 鍛冶屋は何をやってるんだ!?』

『素材がなきゃ彼らだってどうすることも出来ないよ。』

『鉄鉱石の採掘場はー‥』


事情を聴くと、町の周辺に狂暴な獣が頻繁に現れるようになり、作物が荒らされたり、人が襲われているという。

町長が指揮を取り自警団を組織しようとしているが人材も物資も足りず、途方に暮れているところだった。


ギルド、ガストン、リリスの三人は、丁度いいタイミングだったと顔を見合わせ頷くと、早速町長に話を持ち掛けるのだった。


「町長、俺らは『冒険者ギルド』って組織の結成を提案しますぜ!」



一方、町の入り口で彼らと別れたエイジと執事。


「よろしかったのですか? 共に行かなくても」執事は、主の気持ちを察したように優しい笑みを浮かべている。

「この時代は彼らのものだからね。ボクが介入しちゃうと‥後々つまらないじゃないか」


「ほほほ。それでは、我々の家に帰りましょうか」


「そういえばさー‥、メイはどうしてる?」


「ぁー‥‥‥‥ぁあ!?」



とある町の宿屋の一室に、目を閉じて椅子に座るメイドが居た。


幾日も部屋に籠りっぱなしで、たまに食事に出ても、必要最低限の会話しか交わさない‥。


巷では『寡黙なメイド』として噂されるようになっていたとか...。

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