可愛くない、私の恋のお話。

時川 夏目

可愛くない、私の恋のお話。


私とあなたの始まりは、海よりも広いネットと言う世界での出会いでしたね。


あなたと話し始めた頃は、なんと楽しいのかと、初めて本当の恋を知った気がしました。


それまでの私は、恋と言うものがよく分からなくて、きっと初めてした恋は、偽物だったのだと思います。


そんな恋を、優しい、幼い少女のする恋のように、可愛らしいく、心温まる物語になると感じました。


恋が走り出した時、私とあなたは、氷が溶けるよりも早く、通じ合えましたね。


あなたと初めて、電波の波を通じて声を届けあった瞬間、その優しい声は、焦る私の気持ちを、落ち着かせてくれました。


最初は、私の低い声が嫌われてしまわないかと、不安に思っていました。


けれどあなたは、私の声を否定したり、蔑んだりせずに、はっきりと可愛いと言ってくれた事が、とても嬉しかったです。


私とあなたの時間は、雲がゆっくりと流れるように、けれど川が勢い良く流れるように、あっという間にすぎていくのが切なくて、楽しくも思いました。


時には、喧嘩などで離れてしまったり、もう話すことは無いと思う時もありました。


そうして重なっていた悲しい気持ち、辛い気持ちでいる中、あなたは突然、私の目の前から消えてしまいました。


あぁ、始まったばかりの、私たちの恋のお話が終わってしまう、そんなモヤモヤとした気持ちで埋め尽くされてしまいました。


自分勝手で、平気で私を傷付けてくるあなたを、私は嫌っていた事も、当然ありました。


それでも、私はあなたの事が、泣いてしまうほどに、胸が苦しくて、息ができなくなってしまうほどに、大好きでした。


もう会うことも、話す事もできない、そんなのは嫌だと、叫んでしまおうと思った時に、あなたはふらりふらりと、自由な猫のように帰ってきましたね。


もちろん、怒りたい気持ちは、溢れるほどにありました。


でも私は、そんな気持ちよりも、あなたとまた話せる、もしかしたら、ネットと言う世界ではなくて、現実と言う世界で会える、そう考えただけで、私の心はうさぎのように飛び跳ねました。


楽しいデートの風景、水族館での想い出、夏祭りを一緒に楽しんだ想い出、この先そんな、たくさんの思い出ができるのだと信じていました。


けれど、あなたは私に会おうとしてくれなくて、段々と、熱く高鳴っていた私の恋は、冬の寒さよりも冷たく、下がり始めていました。


気が付けば、私に恋の色は無くなり、灰色の世界だけが残りました。


あぁ、やっと終わった。


醜くも、私は心のどこかで、そう思ってしまった。



――可愛くない、私の恋のお話。

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可愛くない、私の恋のお話。 時川 夏目 @namidabukuro

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