189.豹変

「詩季、大丈夫?」

「大丈夫ですよ」


 教室に入ってからも、陽葵は過保護気味に、僕の体調を心配してくれている。


「付き合いだしても変わんないねぇ~~2人とも。呼び方以外は」


 交際を開始した事は、体育祭の翌日に、皆に報告した。


 反応としては、皆、「やっとか」と言った様子だった。もっと、祝福されるかと思っていたが冷ややかな視線だったのは予想外だった。


「それで、体調は大丈夫なん?」

「大丈夫なんじゃないですかね」

「……なんじゃないって……本当に、大丈夫?」


 奈々さんの問いに答えた僕に、瑛太くんがツッコんできた。


「ただの過呼吸です」

「過呼吸の原因は、解ってるん?でないと、急に、発症するかもしれんよ」


 原因か。


 父親が帰国した事を聞かされた事が、トリガーになったように思えるが、そこまでにも何かしらの積み重ねがあるのだろう。


「多分、皆と一緒にいれば大丈夫です。皆が、トリガーではないのは事実です」

「そっか、なら大丈夫か」

「あぁ、奈々さんと春乃さんには、生徒会に関して――」


 今日は、午前中で帰る事になるので、放課後に行う予定だった生徒会活動に関しての引継ぎをしておく。


「成績表を返すぞ~~そして、今回から学年順位に関しては、クラスでも掲示する事になった」


 朝のHRで期末テストの成績表と学年順位が掲示される。


 学年順位は、これまでは中庭に掲示されていたが、あまりの人混みもあってお試しで各学年各クラスで提示することにしたそうだ。


「先に、学年順位を掲示するぞ」


 守谷先生が、黒板に学年順位を掲示した。




1位 白村詩季

2位 住吉春乃

3位 小原瑛太

4位 西原陽葵



6位 桜井奈々

7位 西原陽翔




「成績表を返すぞぉ~~」


 順番に成績表を受け取っていき、僕の番になったので成績表を受け取った。


「白村、今回は大丈夫か?」

「大丈夫ですよ」

「前回までは、2位と大差を付けての主席が、今回は、白村が数字を落とした事での僅差の主席キープじゃないか」

「ケアレスミスを多くしたので、油断しちゃいましたね」


 今回は、主席こそキープしたが、点数差が2位の春乃さんとかなり縮まっていたのだ。


 クラス中は、僕の調子が悪かっただけだろうという空気だが、守谷先生は、僕の事を心配していた。


 確かに、ケアレスミスをほとんどしてこなかった人間がケアレスミスを連発すれば、意見は、二極化するだろう。


「詩季くん、珍しいね」

「集中力が低下してたんですかね……ここまで、ケアレスミスをするかとさ……」


 2位の春乃さんも驚いている様子だった。


「そんじゃ、朝のHR終わるなぁ〜〜」


 朝のHRが終わったので、ここからは、授業だ。






 4時間の午前中の授業が終了した。


 クラスメイトの殆どは、昼食を食べるため各々の行動を開始した。


 その中で、僕は、帰宅の準備を開始する。


 羽衣が、教室まで迎えに来てもらう予定だが、それまでに、間に合うように準備をする。


 陽葵もお手伝いしてくれている。


「失礼します。中等部3年1組の白村羽衣ですが、兄は居ますか?」

「羽衣ちゃん?!」

「羽衣?!」


 準備が終わったと同じくして、羽衣が、迎えに来た。


 羽衣の顔を見た、高梨さんと石川くんは、驚いていた。

 しかし、羽衣は、2人は無視して、僕の姿を確認すると、一目散に近寄ってきた。


「おまたせしました。詩季にぃさん」

「お迎え、ありがとうございます」


 お迎えに来てくれた、羽衣の頭を撫でると物凄く嬉しそうな表情になっている。


「は、白村……妹さん?同じ、苗字だったけど?」

「はい。僕の可愛い妹の羽衣です。ちなみに、変なちょっかい出そうとするなら、全力で阻止しますからね?」

「詩季にぃさん。場所を考えてください」


 全力で、妹大事アピールをしたら、羽衣に怒られてしまった。怒ってたと言うよりは、恥ずかしがっていたと言った方が正しいか。


「では、僕はここで失礼しますね」

「ちょっ、ちょっと待って!羽衣ちゃん!」


 僕と羽衣が帰宅しようとすると、幼馴染達が呼び止めて来た。


 僕は、どう対応しようと思案していた中、羽衣が、豹変とも言える様子で対応しだした。


「気安く話しかけんな!」


 一輪の花が、猛獣に化けたと言える羽衣の雰囲気に、幼馴染だけでなくクラス中が凍りついた。


「もう、お前たちは、優しいお兄ちゃんでもお姉ちゃんでもない。大好きな、詩季にぃさんを傷付けた敵。だから、気安く話しかけないで」


 さっき、僕に恥ずかしがった事を今度は、羽衣がしているように思えるが、気にしてはない。


「羽衣、相手にするだけ無駄です。帰宅しましょう」

「うん」

「玄関まで送るね」


 僕と羽衣は、陽葵と共に教室から玄関に向かう事にした。


「じゃ、また明日」

「はい」

「陽葵ちゃん、また明日〜〜」


 校門前で、陽葵と別れてうちに向かって歩いていく。


「今日は、巻き込んでごめんね?」

「いいよぉ〜〜詩季にぃには、詩季にぃにとってやりたい事があるもんね」

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