188.午前中

「詩季、明日は学校やすみなさい」


 静ばぁは、僕にそう促してきた。


 それもそうだ。


 過呼吸を起こした翌日は、体調面を心配して休ませようとするだろう。


「いぇ、学校に行きます」


 僕は、休みたくなかった。


 こんな事で休んでいては、到底、目的を達成する事は不可能だからだ。


「無理する所じゃないよ。休む所は休まないと身体がもたないよ」

「大丈夫です」


 僕の頑固さに、皆、困惑しているようだ。


「午前中だけだ。午前の授業が終わった時には、羽衣と一緒に下校する事。いいな?」


 健じぃから出された条件だ。


 羽衣を巻き込む事になるが、午前中の授業を出席後、2人で下校するなら登校しても良いと言う条件だ。


「私は、いいよ」


 羽衣には、わがままを聞いてもらおう。


「では、その通りにしましょう」


 明日に関しての流れは決まった。


 静ばぁと母さんから学校に連絡を入れて、学校側に明日に関しての流れの確認を取った。


「これは、1つの提案だけどね」


 母さんが、僕の手と羽衣の手を掴んで語りかけてきた。


「2人は、1週間程、黒宮本邸に避難しない?ここには、私が住む形で」


 母さんからは、あの友情至上主義人間は、母さんが出した警告を無視して、2人に会いに来るかもしれない。


 学校への登下校中をついて会いに来るかもしれない。だから、あの男の最大級の弱点である黒宮家に避難しないかという提案だった。


 ブー♪


『 (父親) 羽衣、詩季と会いたいんだけど、橋渡ししてくれないか?』


 羽衣のスマホが、メッセージを受信したようで、それを確認した羽衣は、僕たちに受信したメッセージを見せてきた。


 祖父母達は、ドン引きを通り越して引いており、母さんに関しては、僕に対してではないのは理解しているが、物凄い怒りのオーラーを出している。


『(羽衣) お前の事なんて、大嫌いだから。大嫌いな人を大好きな人に会わせる訳ないでしょ?二度と連絡してこないで』


 羽衣もかなり怒っているようで、普段の羽衣からは考えられないような乱暴な言葉で、メッセージを返していた。


「これは、一旦、避難した方が良さそうね。しずか」

「うん、清孝さんには、私からお願いしてみる」


 母さんは、スマホ片手に、夜中ではあるが、黒宮家に助けを求める電話を掛けに出た。


「西原さんの所には、私からかけるね」

「ありがとうございます」


 体育祭が終わって、2週間後に期末テストが行われて、後は、冬休みを待つだけという時期に、ややこしい事になった。


 陽葵さんとの登下校は、明日に関しては何時通りにしてもらうが、明後日以降は、要相談だ。


「清孝さんが、今からでも本邸に来ていいって。緊急性もあるから、黒宮家の黒服さんを私服状態で警戒に当らせるって」

「そう、心強いわね」


 母さんも時間が時間なので、ここに泊まる事になり、就寝することになった。






 翌日、僕が起きると、母さんは、既に起きて朝食の準備を始めていた。


「早いね」

「そりゃ、泊めて貰ったからね。これ位は、しないとね」

「と言うか、久しぶりだね。一緒に朝迎えるの」

「だね。また、こんな光景を見られて嬉しいよ」

「じゃ、顔洗って来る」


 そこから、祖父母と羽衣が起きてきて、身支度を終えて朝食を皆で食べ終えたタイミングで、陽葵が尋ねてきた。


 羽衣に、招かれて家に入った際には、母さんと久しぶりの対面をしていた。


「どうも、陽葵ちゃん。息子が、お世話になってます」

「いえいえ、私こそ、お世話になっておりましてぇ〜〜」

「そう言えば、お母さん。詩季にぃさん。陽葵ちゃんとお付き合い開始したんだよ!」

「へぇ〜〜そう!いい女の子捕まえたねぇ〜〜」


 母さんの楽しそうな表情は久しぶりに見た気がする。とても、楽しそうだ。


「それに、私の中等部の制服は、陽葵ちゃんに貸して貰ってるの」

「そう!何から何まで、ありがとうね」

「いえいえ!それと、昨日、お母さんに電話があった件なんですけど……」


 陽葵から祖父母に、対して質問が来た。


 その表情は、物凄く寂しそうだ。


 お付き合い初めてから、2週間経過した途端に、一緒に登下校を遠慮して欲しい旨の連絡を受けたら不安になるだらう。


「最短で、1週間程度、父方の祖父母の家にお邪魔する事になってね。登下校の道が逆方向になるから、一旦、詩季との登下校は、今日の登校で休止になるの」

「そうなんですね。……?今日の登校まで?」

「今日、詩季は、午前の授業を受けたら早退させるから」

「早退?何か、用事ですか?」


 静ばぁは、僕は隠し通すと見抜いているようで、陽葵に昨日あった事を話した。


「詩季ね、昨日、過呼吸になったの。だから、今日は休ませたかったけど、本人が行きたいって言うから、間をとって午前中だけね」

「え、大丈夫なんですか?」

「本人は、ケロッとしているみたいだけどね」

「もしかして、父方の祖父母の方にお世話になる理由も含まれていますか?」

「含まれているけど、直接的な理由じゃないから安心して」


 静ばぁからそう言われた、陽葵は安心していた。そう言いながら、僕の背中を摩ってくれる。


 こういうさりげない行為が愛おしいと思う。


「取り敢えず、時間ですし……学校に行きましょう」

「OK。詩季にぃ、教室に迎えにいくからね!」

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