187.過呼吸
「暴力振るってみる?あの時の詩季にした時みたいに?」
男は、しずかの肩から手を離した。
「ぼ、暴力なんて……」
「振るったよね、詩季に。歩けない、詩季の杖を取り上げて転けさせて額から流血したよね?知らなかったでは済まないよね?」
子どもを傷付ける人物は、例え父親であっても許さないと言った強い覚悟が伺える。
「そ、それは……」
「長々とあんたと話すのも嫌だから、要件はなに?」
「そ、そうだ!会社に戻ってくれよ。誠や葉月も反省しているんだよ!」
「無理。反省して済む問題じゃない。詩季が、あんな状態になったのに、多少の怪我で入院?ふざけるのも大概しなよ?」
「それは、病院の先生の話を鵜呑みにしちゃったみたいだし――」
「はあぁ!!」
時間的に、近所迷惑とクレームが来てもおかしくない声量だ。
「脚が不自由になってんだよ!そんな、重大な事を間違えるか?!どんだけ、ヤブ医者なんだよ。間違いなく、葉月と誠のどちらかが、嘘言ってんだよ。自分の子どもを都合の良いように弄ばれてのほほんとしてるあんたの人間性を疑うよ」
男は、何も言い返せないと言った様子だった。
「私と話したいなら、まずは、詩季と羽衣と仲直りしなさい。私だって、2人との関係性の再構築に神経を割いているんだよ」
「えっ、羽衣は――」
「私たちの家族関係は既に崩壊してる。特に、詩季との関係がね。羽衣は、詩季の傍にいることを選んだ。だから、2人との関係を再構築してる最中なの」
「そんなの、ご飯とか食べたら良くないか?」
パァァン♪
しずかが、男の頬をビンタした。
「どこまで、能天気なの?2人は、複雑な精神状態なのよ。今は、向こうから距離を詰めてくれるのを待つしかないの。接し方を間違えたら、二度と家族として接することができなくなる」
「それでも、俺がいるだろ?」
男は、しずかが自分を愛して結婚して今も、同じ状態だと思っているのだ。
「はぁ?別に、あんたを失おうがどうでもいい。2人を失う方が嫌だね。言っとくけど、子どもが1番だから。あんたは、それ以下」
「そ、そんな……」
男は、それを聞いて強いショックを受けた。
「言っとくけど、私と話すために、無理矢理子ども達に会おうとしないでね。特に、詩季は、貴方と顔を合わせたく無いだろうし。もしも、勝手に会おうとしたらな法的措置も辞さないから」
しずかは、そう言って部屋に入ってしまった。
『 (しずか) 大切な友人宅にでも泊まらせ貰えば?これ以上、家の前にいるなら警察に通報するから』
男は、諦めて家の前から去るのだった。
○○○
『(お母さん) 羽衣。お父さんが、帰ってきた。詩季には、内緒にしてもらったけど、流石に、話して。そして、警戒させて。無理矢理会おうとするかもしれないから』
お母さんから送られてきたメッセージを見て、私は、急いで詩季にぃの元に移動した。
詩季にぃは、リビングでテストの自己採点を行っていた。
「結果はどうだった?」
「ヤバいかも。これまで無かった、ケアレスミスしてる」
「珍しい」
詩季にぃは、高等部に上がってから全てのテストで首席をキープしていた。
だけど、詩季にぃの様子を見ると、首席の維持が厳しい位に、ケアレスミスをしているようだ。
「それで、どうしたんですか?」
「あっ、お母さんからね、お父さんが、日本に帰ってきたみたい」
コトン。
詩季にぃは、持っていたペンを床に落とした。
私は、拾って渡そうとした。
コトン。
詩季にぃの様子を見て、私もペンを落としてしまった。
「静ばぁ〜〜!!」
私は、2階にいる静ばぁをこれでもかというぐらいの大きな声で呼んだ。
近所迷惑なんて気にしない。
私は、詩季にぃの背中を摩った。
「どうしたの?羽衣、大きな声出して……詩季?!」
私の声を聞いた、静ばぁは急いで降りてきた。詩季にぃの様子を見て私とは反対の方に立って背中を摩った。
「あなたは、しずかに電話して!」
「わかった」
「私は、救急車を――」
「そ、それ、それは、いい……です……」
「詩季にぃ、深呼吸して!」
詩季にぃは、過呼吸気味になっていた。
まだ、呼吸が荒い。
静ばぁは、救急車を呼ぼうとしたが、詩季にぃはそれを拒否していた。
「落ち着いて。ゆっくり、呼吸して。大丈夫。大丈夫だよ」
「詩季、落ち着いて」
私と静ばぁの声掛けは、詩季にぃに届いたようで、過呼吸は落ち着いたようだ。
「大丈夫?」
「……はい」
詩季にぃは、かなり疲弊した様子だった。
「何があったの?」
「お母さんからね、お父さんが帰国したから警戒して欲しい事を伝えたらこうなった……」
「パニック障害に近いのかもね……」
ピンポーン♪
「おとぉさん!」
健じぃが電話していたが、お母さんはすっ飛んできたようだ。
「詩季!」
お母さんは、パジャマのまま飛んできたようだ。
静ばぁは、お母さんの姿に驚きはあったが、息子の一大事に飛んできたと解って、ホッとしていた。
「母さん。すみません、心配かけて」
「大丈夫。それより、大丈夫?過呼吸だって、聞いたけど……ごめんね、帰国の可能性が解った時点で伝えたら良かったね」
「いぇ、大丈夫ですよ」
お母さんは、詩季にぃの背中を摩って落ち着かせていた。
「詩季、明日は学校やすみなさい」
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