186.さいかい
関西国際空港に、1人の男が降り立った。
「本社に寄ってから、家に帰るか」
男は、タクシーに乗って務め先の会社に向かった。
数年単位のイギリス勤務が正式に終了して、帰国辞令が出たからだ。
まぁ、その帰国までには、色んな出来事が日本国内であったと聞く。その男は、会社の建て直しのために呼び戻させたと言える。
「時間通りか?」
男は、会社の会議室に入った。
「聡、帰国後すぐに会議に来て貰って申し訳無い」
「いいよ、会社にとっての緊急事態だ」
そういうと、男は、空いている椅子に腰掛けた。
会議室にいる面子は、この会社の設立メンバーだ。
「それで、経営状況が急に悪化したって……何があったんだ?」
男が帰国を命じられた要因は、会社の経営状況が悪化したためとしか説明されていなかった。
親しい間柄なら、きちんと説明して帰国させるのが筋だが、それが出来ないレベルで、経営状況が急激に悪化したとも言える。
「しずかが、会社を辞めたのは知ってるよな」
「あぁ」
「しずかが、辞めてから設立当時から取引をしてくれていた会社から現行の契約満了と共に、取引停止を通達された」
「……!!なら、他の取引先との関係をさらに強固にすれば……」
「それに習ってなのか、他の取引先も契約期間満了での打ち切りを通達された」
男は、あまりにも大きな衝撃を受けた。
会社の設立を援助してくれただけでなく設立から10年以上も取引をしてくれていた盟友とも言える会社からの取引終了。それだけでなく、他の取引先までも。
この会社にとって、50%以上の取引関係だった。
その会社から取引停止となると、残る取引先との取引を増やして貰う交渉をしないといけないが、他の取引先モルカーからも取引停止を通達。
見ると、ほとんど積んでいる。
「これから、どうするんだ?」
「何とか、新たな取引先を探すにしても、あの会社から取引を打ち切られた会社という評判が回っていて、上手くいかない。それに、今の取引関係の構築の功労者は、しずかだ」
会議室に暗雲が、立て込む。
この会社の重大な欠点が露呈した瞬間だ。
この重大な欠点を改善せずに、海外支社を作ろうなんて考えるから上手くいかないのだ。まだ、会社支社を設立して取引を開始していなかっただけマシだと言える。
しずかが、設立資金の援助と設立後の取引先を持ってきた。さらに、新たな取引先の開拓を先頭に立ってやって来た。
しずかが辞めた後も、取引は継続してもらえると腹を括っていたのだろ。それが、辞めた途端にこうなっている。
それほど、この会社の運営においての白村しずかの重要度が高かった事かを表している。
「だから、頼む。聡。しずかに戻ってくるように頼んでくれ!」
「頼んでみるけどよ……あのしずかが、激怒して辞めたんだろ?退職に間際に何があったんだよ?」
「そ、それは……」
男は、妻であるしずかが、会社を辞める事になった経緯を聞いた。
日本での息子の事を頼んでいた家族が、【ちょっとだけ】虚偽の報告をした事。その報告は、病院の先生からの報告を鵜呑みにした事を伝えたら、こうなったらしいとの事。
「多分、説得出来ると思う」
この男が哀れな所は、物語の友情的なストーリーが現実にも存在すると思っている事だろう。
友人の過ちに関しては、反省した上で許して仲良くやろう。
そんなストーリーが成立するには、上限がある。
しずかが激怒したのは、その上限をゆうに超えた事を友人にされたからだ。
裏切られたからだ。
そうとは思っていない、男は、自宅に向かって歩みを進めていく。
しずかが、退職後どのような会社に転職したのかは不明だが、時間的に、帰宅しているだろう。
家に着いたので、インターフォンを鳴らしてみるが、反応はない。
帰国前に、メッセージ入れている。既読無視だったが。
家を観察しても電気が付いていない。
仕方が無いので、鍵を使って家に入ろうとするが、鍵があかない。
何度、試しても解錠される事はなかった。
「鍵なら帰国してから新しいのに変えたから」
男に声をかけたのは、現在のこの家の主のしずかだ。
「ひ、久しぶり……?」
男は、妻であるしずかが降りてきたであろう大きな黒い車に目が行った。
「あぁ、後は、大丈夫です。戸籍上の夫ですので。帰って頂いて大丈夫です」
しずかがそう言うと、車は発進して行った。
「仕事終わりに送ってもらった。今の会社ではかなりの位置で働かせて貰ってるから、警護も兼ねてるみたい」
「そ、そうか……。それで、何で、鍵を変えたんだよ?俺の許可無しに……?」
「だって、ここは、私と詩季と羽衣の家だがら」
「えっ、ここは、俺達で買って……」
しずかから告げられた事に、男はたじろいだ。
しずかの帰国に関して、色々あったが、ここまで、拒絶されているとは思っていなかったようだ。
「じゃぁね」
「ちょっと待ってくれよ!」
家に入ろうとするしずかの肩を男は掴む。しかし、その時のしずかの視線に男は完全に怯む結果になった。
「暴力振るってみる?あの時の詩季にした時みたいに?」
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