167.情勢調査②

橋渡剣 40% → 25% -15

星川愛理 35% → 35% ±0

白村詩季 10% → 15% +5

不透明 15% → 25% +10



 僕に関しては、5%の支持率が上昇していた。


 注目するべき点は橋渡先輩の支持率が、15%も落ちているという事だ。


 この15%は、松本先輩を支持して橋渡先輩を応援していた生徒だろう。そして、僕の上昇分は、橋渡先輩から離れた生徒 + 奈々さんが宣伝してくれて僕を支持すると決めてくれた生徒だろう。


 不透明が、10%上昇しているのは、一旦は橋渡から離れているが、誰を支持するかを決めかねているのだろう。


 ただ、この情勢調査は、松本先輩が僕を支持する理由が報道される前の調査だ。これから、大きく変動る事は、間違いない。


「浮動票が増えてるね」

「これから、もっと増えるでしょう。橋渡陣営から離れた票が僕と星川陣営に、別れていけば決選投票に持ち込めます」


 最初の目的は、決選投票に持ち込む事だ。だから、これ以上は大きく動く必要は無い。演説をして僕に対する固定票を増やせば良いのだ。


「それにしても、橋渡先輩……一気に落ちてるね」


 奈々さんは、現在の情勢の状況を見て橋渡陣営が急速な失速を見せている感想を述べた。


「奈々さん、簡単ですよ。橋渡先輩にとっての頼みの綱は、たった2人だったんです。だから、その2人を引き離した途端に、こうなったんです」


 橋渡先輩にとっての綱は古河先輩と松本先輩の現生徒会の会長副会長のカップルだった。

 それは、中等部時代に生徒会経験のない橋渡にとっての唯一の命綱だった。


 星川先輩に関しては、中等部時代の生徒会長の経験がする大きく強固な綱になるが、橋渡先輩にはなかった。


 だから、2つの大事な綱を引き離しただけでこのザマだ。


 最初に潰すのは、橋渡陣営という僕の読みは間違っていなかったと思う。


「つまりは?」

「……橋渡剣本人に、魅力が無いということです。他者の魅力に頼っていたばかりに、その魅力が失われた途端に支持率が下がってしまう」


 今回の橋渡先輩の最初の支持率は、実質的には古河先輩の魅力に人が集まっていたのだ。


「つまりは、橋渡先輩ではなく古河先輩を応援していたという事?」

「近いですね。カリスマ生徒会長が後継者として指名したのなら能力があると錯覚を起こしていたんですよ。その錯覚は危険なのにね」


 錯覚とは危険極まりない。


 この人は、能力のある人が推薦しているなら大丈夫と思っていたら、推薦していた人が居なくなった途端に、無能さをひけらかす事もよくある話だ。


「私はさぁ生徒会のことはよく知らないけど……橋渡先輩は、能力低いの?」

「あるっちゃあります。けど、基礎的な能力なら星川先輩の方が上でしょうね。だからこそ、人を見る目がある人は、星川先輩に最初に支持していたはずです。だから、橋渡先輩は、独走していなかったんですよ」


 最初の情勢調査では、星川と橋渡の両陣営が抜きん出ていた。僕が立候補した事で決選投票に残るだろうと言う情勢だった。


 古河先輩が、後継者として指名しただけで、独走出来ていたなら橋渡先輩の能力を生徒が認めていたという事だろうが、そうならなかった。


 つまり、最初の構図は、前会長の推薦を受けた候補 VS 生徒に能力を認められた候補という構図だった。


 もしも、古河先輩が星川先輩を推薦していた場合は、もっと厳しい選挙戦になっていただろう。上記のような構図になった事で、僕にとって戦いやすい選挙戦になった。


「しきやん。なんで、橋渡先輩は急激な失速をしたの?」

「橋渡先輩が、この選挙戦で勝つ方法は、1つしかありません」


 中等部時代に生徒会長をしていた経験のない橋渡先輩にとって、生徒会長選挙で勝つ唯一の方法。


「それは、勢いをつけてそのまま勝つ事です。そして、橋渡先輩は古河先輩の推薦を受けて勢いよく選挙戦をスタートする事が出来ましたが、誤算が2つありましたね」

「その誤算は?」

「1つ目は、星川陣営に予想以上に支持者が集まっていた。だからこそ、強固な支持基盤が築けなかった」


 古河先輩の推薦を得て勢いを持って最低でも6割を超える支持を集める事が出来れば、少々小突いても安定した選挙戦を戦う事が出来ただろう。しかし、星川陣営に自陣営に近い支持者を持って行かれた事で安定した支持基盤を構築出来なかった。


 だから、僕は少々小突いた程度で大崩れしているのだ。


「2つ目の誤算は?」

「橋渡先輩が、推薦人の能力を見誤った事です」

「えっカリスマ生徒会長だよね?」

「そのカリスマ生徒会長を演じることが出来たのは、松本先輩のお陰でした。僕が中等部時代の副会長の時と同じです。古河先輩は仕事をやっていると思っているだけ。仕事の大半は、副会長の松本先輩がこなして美味しい所だけを譲っていた」

「つまりは、推薦を受ける人物を間違えたってこと」

「そうですよ。松本先輩が別の候補を推薦したと解った途端に、声を荒げていましたからね。頭の良い人なら公の場であのような行動をとればどうなるか解るはずが解っていない」


 つまりは、穴が無いように思えた陣営だが、穴だらけだったという事だ。星川陣営には目立った穴が無い。つまりは、星川陣営とは正面からぶつかって戦わないといけない。

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